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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第十六章 失敗に学ばない人

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第77話 手作り感覚が良いらしい

「西園寺。貴様の気持ちも分からんでも無いが、アメリアは悪気が有ってあの格好をお前にさせるわけでは無いんだ。これはあくまで映画作成の為だ。ただ、やりすぎなのは事実だから、貴様がアメリアに制裁を加えることは見逃してやろう。ただし、穏やかにやれよ。あくまで穏便にだ」 


 カウラはアメリアにじりじりと迫るかなめを見ながらそう言ってなんとかその場をなだめようとした。


「分かってるよ……ってなんで神前までいるんだ?オメエは悪くねえだろ?全責任は監督である自分にあるってアメリア本人が言ってるんだ。アタシの怒りの対象はあくまでアメリアだけだ。オメエまで関わる必要はねえだろ?」 


 アメリアの隣に誠が立っているのを見つけたかなめは不思議そうな表情で誠を見つめた。


「一応、デザインしたのは僕ですし。西園寺さんがそこまで嫌がるとは予想していなくて……少し責任を感じてます」 


 そんな誠の言葉を聞いてかなめがヘッドロックをかけた。


「おう、じゃあアメリアと一緒にオメエも責任取るためについて来い。痛い格好だったらアタシは降りるからな!それとリンはいっそのこと全裸にモザイクってのはどうだ?それなら衣装を考える必要もねえしアイツも喜ぶ。オメエもデザインする手間が省けるから一石二鳥だ」 


 そう言ってかなめはずるずると誠を引きずった。


「西園寺!殺すんじゃねーぞ!」 


 気の抜けた調子でランが彼らを送り出した。そして三人が部屋を出て行くのを見てランは大きなため息をついた。


「まったく、なんでこんなことになったんだ?」 


「去年のあれだろ」 


 愚痴るかなめをカウラが諭した。だがかなめは振り返ると不思議なものを見るような目でカウラを見つめた。


「去年のあれってなんですか?僕は去年の映画を見ていないんで分からないんですけど」 


 誠をじっと見つめた後、かなめの表情がすぐに落胆の色に変わった。そのまま視線を床に落としてかなめは急ぎ足で廊下を歩いていく。仕方が無いと言うようにカウラは話し始めた。


「去年も実は映画を作ったんだ。司法局実働部隊の活動、まあ市の方が期待してたのは災害救助や輸送任務とかの記録を編集して作った真面目なものってことだったわけだが……」 


 カウラは明らかに気乗りしないと言う調子でそう切り出した。


「なんだかつまらなそうですね。観客も見ていて退屈なんじゃないですか?そんなの見せられても」 


 誠のその一言にカウラは大きく頷いた。


「そうなんだ。とてもつまらなかったんだ。ただ、神前が考えている以上につまらない作品になってしまったのが問題だったんだ」 


 カウラははっきりとそう言い切った。だが、誠は納得できずに首をひねった。


「でもそういうものって普通はつまらないものじゃないんですか?小学校のころ全校集会で役所のお仕事とかの映画を見せられましたけどアレもつまらなかったですよ。市報の印刷のしているところとか、困りごとで相談に来た市民の人と話をしている場面とか。本当にあれは退屈でしたから」 


 誠の無垢な視線にカウラは大きくため息をついた。彼女は一度誠から視線を落として廊下の床を見つめる。急ぎ足の要は突き当たりの更衣室のところを曲がって正門に続く階段へと向かおうとしていた。


「それが、尋常ではなく徹底的につまらなかったんだ。おそらく神前はその映画のつまらなさのレベルをまだ理解していないようだ。あれは凄かった。見ていてこんなものを上映して良いのか私も不思議に思えたほどだ」 


 カウラは力強く言い切った。誠は一瞬その意味がわからないと言うようにカウラの目を見つめた。


「そんなつまらないって言っても……想像がつきませんよ、市の広報の映画よりつまらない映画なんて」 


 誠はカウラがそれほどまで言う映画のつまらなさを想像することが出来なかった。


「まあ神前の言いたいこともわかる。だが、アメリアが隊長の指示で『もううちにこんなことを任せたくなくなるほどつまらなくしろ』ってことで、百本近くのつまらないことで伝説になった映画を研究し尽くして徹底的につまらない映画にしようとして作ったものだからな」 


 誠はそう言われると逆に好奇心を刺激された。だが、そんな誠を哀れむような瞳でカウラが見つめた。


「なんでもアメリアの言葉では『金星人地球を征服す』や『死霊の盆踊り』よりつまらないらしいって話だが、私はあまり映画には詳しくないからな。どちらも名前も知らないし」 


 頭をかきながら歩くカウラ。誠も実写映画には関心は無いほうなのでどちらの映画も見たことも聞いたことも無かった。


「で、どうなったんですか?」 


 その言葉にカウラが立ち止まった。


「私にその結果を言えと言うのか?結果として映画終了後には観客は一人も会場に居なかった。あの虚しさは私には表現のしようがない」 


 カウラは今にも泣き出しそうな顔をした。アメリアはただ二人の前を得意げに歩いた。カウラもできれば忘れたいと言うようにそのままアメリアに従って正面玄関に続く階段を下りていった。


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