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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第六章 まあ、実際リアルに魔法少女はうちにいるので

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第31話 なぜ魔法少女?

「それは決まってるじゃない!魔法少女モノよ!他に何が考えられるって言うの?うちは法術なんて言う魔法みたいなものを扱う正義の部隊。この遼州人と言う地球人からすれば魔法使いの様に見える人々の暮らしを守る部隊なのよ!当然その撮る映画が魔法少女モノでなくて何になるのよ!」 


 アメリアは高らかに叫ぶとなぜか誠を指さした。


「あのー、アメリアさんの言うことは間違ってはいないと思うんですけど、なんで僕を指差して言うんですか?僕は法術と言う魔法みたいなものは使えますけど、少女では無いんですけど。いつも思うんですけど、アメリアさんの提案ってどこかズレてるような気がするんですけど、それって僕の気のせいですか?皆さんどう思います?」 


 アメリアの得意げな顔を見ながら誠は恐る恐るそう反論した。


「おめー日本語わかってんのか?それともドイツ語では『少女』になんか別の意味でもあるのか?アタシが大学で習った限りではそんな意味ねーけどな。それに法術はアニメの魔法みたいに便利なもんじゃねー。結構制限を受ける厳しい鍛錬の上に成り立つ術だ。地球人は法術を魔法と呼んでるが、それは便宜上そう呼んでるだけで有ってアメリアの脳内の魔法とは趣旨が違う。そのくらい考えろ」 


 淡々と呆れた表情でランがツッコミを入れた。


「ああ、それじゃあアメリアは『神前が主役の魔法少女』と」 


 かなめは明らかに誠への嫌がらせの為にそう筆でメモした。


「あの、西園寺さん?なんでアメリアさんの妙な提案に納得してるんです?根本的におかしくないですか?なんで僕が主役なんです?魔法少女物の主人公は小学校高学年から中学生と相場が決まってるんですよ?それを二十代中盤の男がやるって、それっていったい何が狙いなんですか?アメリアさん、西園寺さん、聞かせてください。僕に恥をかかせるのがそんなに楽しいんですか?」 


 誠も魔法少女アニメには造詣が深いのでかなめの蛇ののたくったような独特の筆文字を後で解析することを思い出して憂鬱になりながらそうつぶやいた。


「神前。アメリアの性格をまだ理解していないのか?アメリアに一般常識が通用すると思うか?アイツには人の意表をついて面白がると言う思考回路しか無いんだ。確かに神前は少女じゃない。しかもどうやってもアンの様に少女のように見える見込みもない。たぶんアメリアはそれを狙っているんだ。これは完全なアメリアの貴様に対する嫌がらせで、アメリアにとってはそれが娯楽の一つなんだ。諦めろ」


 カウラはさすがにやる気がなさそうにつぶやくかなめを制した。


「そう言えばランちゃん、何が気になるのかしら?私は誠ちゃんを指さして『魔法少女モノがやりたい』と言っただけよ。何か問題でもあるのかしら?法術とアニメの魔法が違うことは私も百も承知。でも、これは映画でしょ?フィクションでしょ?だったらリアルに法術を再現する必要なんて無いじゃないの」


 唯一この中で誠が魔法少女をやることに反対してくれたランに向けてアメリアが不思議な生き物を見るような視線を送った。 


「神前は第一少女じゃねーよな!それにフリフリ衣装を着た野郎なんてうちではアン一人で十分だ!これ以上うちの部隊に『男の()』を増やしてテメエは何がしてーんだ!どうせ魔法少女にするならアンにしろ!なあ、アン。オメーも魔法少女やりてーよな?」 


 そう言いながらランは同情するような、呆れているような視線を誠に送った。そしてすぐさまアンに視線を向けた。ただ、戦場しか知らないアンに『魔法少女』が何を意味するかは分かる訳も無く、アンはただ笑顔でランを見つめ返すだけだった。


「アン君は魔法少女の意味を良く分かって無いみたいね。一方誠ちゃんは良く分かっているみたい。じゃあ魔法少女に詳しい人が魔法少女をやるって方が正しいわよね。かわいくお化粧しようよ!そうすれば誠ちゃんも少女っぽく見えるかもよ。確かにデカくてマッチョだけどよくコミケの会場とかでそう言うコスプレして笑いを取ってる人がいるじゃない。そんな感じよ」 


 そう言ってサラは手を打った。


「女装か。面白いな。アンは女装が自然すぎて面白くねえんだよ。だからこの中で島田と並んで女装が不自然な神前を女装させるのが面白れえんじゃねえか。常に男装している神前より一歳年上のかえでが居るんだ。今更二十代の魔法少女の一人や二人増えたところで世の中変わるもんじゃねえだろ?」


 完全に誠を女装させる気満々でかなめがそう付け加える。 


「わかってるじゃないですかかなめちゃん!それが私の目論見なの!キモさと面白さの融合はお笑いの鉄則よ!」


 笑いにはうるさいアメリアが強気にそう言い放った。 


「全力でお断りします!笑いものにされるのはもうこりごりです!どんだけこの部隊に入ってから僕はひどい目を見れば気が済むんですか?皆さんは」 


 さすがに自分を置いて盛り上がっている一同に、誠は危機を感じてそう言った。


「えー!つまんない!ここは笑いを取れるおいしいポジションだと理解してもっとポジティブに受け止めてもらわないとこちらとしても困るじゃないの。まるでハラスメントをしているような気分になって感じ悪いわよ」 


 明らかに自分の身を守るためだけに発せられたサラの言葉に誠は心が折れた。


「確かにキモイ神前も見てみてー気もしねえでもねーが」 


 ランは明らかに悪意に満ちた視線を誠に向けてきた。


「……と言う意見があるわけだが」 


 かなめは完全に他人を装っていた。


「見たいわけではないが……もしかしたらそれも面白そうだな」 


 カウラは好奇心をその視線に乗せていた。


 誠はただ呆然と議事を見ていた。誠は完全に包囲されていた。


「おふざけはこれくらいにしてだ。やめろよな。こいつも嫌がってるだろ。それにだ。かえでの男装やアンの女装は見るに堪えるが、神前の女装は見ていて気持ちが悪くなる。観客を気持ち悪くしたら去年の退屈な映画の上を行く最低映画が出来上がるぞ。それでも良いんだな?アメリア」 


 そう言ってくれたかなめに誠はまるで救世主が出たとでも言うように感謝の視線を送った。


「それにだ。魔法少女ならクバルカの姐御がいいじゃねえの?じっさいちっちゃいし、地球じゃあ法術を『魔法』と呼んでるらしいから、本当に魔法使えるし。いつもアメリアも『ランちゃん萌えー』とか言ってるだろ?それで決まりで良いじゃねえか」 


 かなめはそう言うとランを指差した。


「やっぱりかなめちゃんもそう思うんだ。私もランちゃんは魔法少女以外の何物でもないと前々から思ってたのよ」 


 そう言うアメリアは自分の発言に場が盛り上がったのを喜んでいるような表情で誠を見つめた。


「誠ちゃん本気にしないでよ!誠ちゃんがヒロインなんて……冗談に決まってるでしょ?かなめちゃんが言うように誠ちゃんを女装させたらかえでちゃんの意見に有ったポルノより有害な作品が出来上がるわよ。それは避けないと」 


 ようやく諦めたような顔のアメリアを見て、誠は安心したように一息ついた。


「なるほどねえ……とりあえず意見はこんなものかね」 


 そう言うとかなめは一同を見渡した。


「良いんじゃねーの?」 


 ランはそう言うと目の前のプリントを手に取った。


「隊員の端末に転送するのか?」 


 そう言いながらランは手にした嵯峨から全隊員に配るようにと渡されたプリントをカウラに見せ付けた。


「ああ、わかってるよ。とりあえずアンケートはネットで知らせるが、記入は叔父貴が用意したのを使った方が良いよな。あの『駄目人間』自分がやったことが無駄になったと知るとすぐいじけてタバコを吸って仕事をサボるからな」


 かなめは親族ともあって嵯峨の性格を知り尽くしていた。 


「そうね、自分の作ったアンケート用紙を捨てられたら隊長泣いちゃうから」 


 かなめの言葉にアメリアが頷いた。


「隊長はそう言うところで変に気が回るからな。まったく世話の焼ける性格の隊長さんだぜ」 


 ランがそう言いながらここにいる全員にプリントを配った。


「じゃあ、神前。お前がこいつを配れ」 


 そう言ってランはプリントの束を誠に渡した。


「そうだよね!誠ちゃんが一番階級下だし、年下だし……」 


「そうは見えないがな」 


 かなめはいたずらっぽい視線をサラに送る。そんなかなめの言葉にサラは口を尖らせた。


「ひどいよかなめちゃん!私のほうが誠ちゃんよりお姉さんなんだぞ!」


「なにもサラの事を言ったわけじゃ無いわよ!じゃあ気分を変えてみんなで配りましょう!」 


 口を尖らせるサラを無視してアメリアは誠の手を取って立ち上がった。それに対抗するようにカウラとかなめも立ち上がった。


「おう、全員にデータは転送したぜ。配って来いよ」 


 かなめの声を聞くとはじかれるようにアメリアが誠の手を引っ張って部屋を出ようとした。


「慌てるなよ。それよりどこから配る?」 


「決まってるじゃないの!人数の一番多い技術部整備班……島田君のところから行くわよ」 


 アメリアはそう言ってコンピュータルームを後にする。誠はその手に引きずられて寒い廊下に引き出された。かなめとカウラもいつものように誠の後ろに続く。そのまま実働部隊の詰め所で雑談をしている第二小隊と明石を無視してそのまま島田麾下の技術部員がたむろしているハンガーに向かった。



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