第199話 空気を読まない女
誠は首をかしげた。写真に写っているアメリアだがどうも不自然に見えた。
身に着けているのが先ほどまで見ていた源平絵巻に登場する甲冑とは明らかに違った。茶色い漆のようなもので塗られて輝く兜には鹿の角のような飾りがあり、胴は丸く金属でできているように見えた。アメリアの顔には仮面のようなものがついて、そこから髭のようなものまで生えていた。
「当世具足って言うんですって!本当は六文銭に赤備えで真田信繁をやろうとしたんだけど……」
「時代が全然違うじゃないか。我々は源平絵巻をやろうとしてるんだ時代で言えば12世紀だ。真田信繁が活躍したのは17世紀だ。500年も時代がずれてる」
カウラの一言にアメリアは気に障ったかのようにうつむいた。確かにこのような甲冑を飾っている剣術道場もあることは知っていた。
「でも大丈夫か?カウラは動物と相性最悪だぞ。馬なんて……」
そう言ってかなめはタレ目でカウラを見上げた。アメリアもそこまで言われるとただ首をひねるしかなかった。
「それに怪我をされたらな……一応仕事に支障があるのは勘弁して欲しいな」
「隊長!私のときは何も言わないで!私が怪我をしても隊長は何も思わないんですか?」
アメリアが目を向けたので嵯峨が首をすくめた。
「お前は止めても行ったろ?しかも去年とはうちをめぐる状況がかなり違うんだ」
そう言い訳するとなんとかアメリアは納得した。
「つまり歩けば良いんだよ。いっそのことアタシの馬の轡でも取るか?神前と一緒に」
ニヤニヤ笑うかなめだが、先ほどの嵯峨の言葉に少しばかり落胆していた。
「そうですね。今年も歩きますよ。甲冑はこの前ので良いです」
残念そうな口ぶりでそう言い切ったあと、カウラはかなめをにらみ返した。
「でもこれって誰が金だしてんだ?」
至極もっともなランの言葉に嵯峨が手を上げた。
「生産的な出費だろ?これで甲武の学者さん達は研究費用が稼げて技術の研鑽につながる。東和は伝統的な資料を見ることで歴史を学べて観光客も呼べる。俺は価値のある美術品を購入して資金の投資を行ったことになる。三方丸くおさまって良いことじゃねえの」
そう言うと嵯峨は立ち上がった。
「定時だぜ、どうする?飲みに行くか?」
嵯峨の言葉にランが当然というように頷いた。
「叔父貴のおごりってわけじゃ……ねえよな」
「無茶言うなよ。俺は今月はおとといオートレースで負けてやばいんだから……金貸してくれるの?」
そう言って嵯峨は端末を閉じた。
「じゃあ、クバルカ中佐とかなめちゃんとカウラちゃん、私と誠ちゃん……」
アメリアが視線をパーラに向けた。パーラはそのままサラを見つめた。
「じゃあパーラの車は……あと島田でも呼ぶか?」
そんなかなめの方を見ながら決して潰れるまいと誠は心に誓った。




