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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第四章 自主映画会場に着いて

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第19話 間違った集客方針

「それとアメリア!あの市民会館を取り巻いている異様な連中はなんだ?30台前後の野郎しか来てねえじゃねーか!アタシは子供達が楽しむための子供向け映画だから出るって言ったんだぞ!なんでおっさんの前でこんな格好して挨拶なんてしなきゃなんねーんだ?それになんでこの格好で舞台挨拶しろって……オメー!なんか企んでるんじゃねーのか?え?言ってみろ。その狙いとやらを言ってみろ?オメーは何がしてーんだ?怒らねーから正確に言ってみろ」 


 そう言って食って掛かろうとするランだが、アメリアは腰を落としてランの視線に自分の視線を合わせると頭を馬鹿にしたように撫ではじめた。


「馬鹿野郎!アタシの頭を撫でるんじゃねー!アタシは大人だ!34歳だ!」 


 副隊長としてのプライドを傷つけられたランはそう言ってアメリアの手を振りほどいた。


「だってかわいいんだもの。ねえ!こうしてみるとどう見ても『魔法少女』そのもの!まあ、実際に地球では法術の事を『魔法』と呼んでるらしいから、リアルで魔法少女なんだけどね、ランちゃんは。誠ちゃんもランちゃんを見たらそう思うでしょ?」 


 そう言って今度は誠に話題を振ってきた。誠はランには頭が上がらないのでただ愛想笑いを浮かべるだけだった。


「まあ、ネットで人気投票やったらクバルカ中佐の格好が一番好評だったんで……まあ魔法少女モノですとライバルキャラが人気になるのはよくあることですから。それに実際、戦闘シーンとかをネットで上げたらクバルカ中佐のシーンが一番迫力があるんで……やはり実戦慣れしている人は違いますね」 


 誠のフォローは何の足しにもならなかったようで、ランは誠の鳩尾に一撃した後そのまま奥へと消えていった。鳩尾を押さえてうずくまる誠を看病しようとするのはカウラだけだった。かなめは腹を抱えて笑い、アメリアはそのまま奥へと消えていった。


「しかし、傑作だぜあの餓鬼。ああいった格好すると本当にガキだな。あの格好で舞台挨拶?たぶんいつも通りほとんどあの餓鬼がしゃべらされるんだぜ。あの格好で偉そうなことを市民様の前で言うわけだ。想像しただけで笑えて来るぜ」 


 かなめの笑いはそう簡単には止まりそうに無かった。そこに祭りが苦手なのを理由に会場設営責任者を買って出たパーラ・ラビロフ大尉が現れた。


「ちょっと!誠君達。遊んでないで手伝ってよ!あなた達、入場整理の係でしょ?色々準備とかあるんだから、そんなところで突っ立ってないで早くして!」 


 すぐさまきびすを返して音響用のコードを持って走り回る島田を追いかけた。


「入場整理ってあれか?あのオタク共の接待をするのか?冗談はやめてくれよ……なんでアタシがキモイ連中の相手をしなきゃなんねえんだよ。そんなの同類のアメリアと神前でやれよ……なんでアタシまで巻き込むんだよ……まったく最悪だぜ」 


 かなめは入り口にたむろした集団を思い出していた。


「確かにあまり係わり合いにはなりたくないな。あれならパチンコ屋でよく合う同じパチンコ依存症の生活保護受給者と有意義な会話を楽しんだ方が百倍良い。同じ趣味に金をかけるなら金が増える確率のあるパチンコの方が夢が有る。少なくとも私にはそう思える」 


 歯に衣着せずにパチンコ依存症のカウラはそう言った。誠も中身は彼等と大差ないのでとりあえず愛想笑いを浮かべて立ち上がった。いまだに腹部に痛みが残り渋い笑みが自然とこぼれた。


「大丈夫か?クバルカ中佐は加減と言うものを知らないからな。自分は不老不死だからと言って神前まで同じようなつもりで攻撃していたら、そのうち神前は本当に死んでしまうぞ」 


「大丈夫ですよ……入った場所が場所だったんで堪えただけです。中佐も手加減してくれていますよ」


 気遣うカウラを制してそのまま痛みに耐えながら誠は歩き始めた。


 今回の映画、『魔法戦隊マジカルなっちゃん』の服飾およびメカ、敵の機械魔人のデザインをしたのは誠である。とりあえず観衆の期待がそれなりに高いと言うことも分かって、誠はやる気を見せるべくそのままロビーへとたどり着いた。


 先頭の客は誠も何度かコミケで顔を合わせたことのある大手同人サークルの関係者だった。その前に立つアメリアと世間話をしていた。


「ずいぶん来てるな。結構入るんだろ?この劇場って。建物の大きさだけは立派だよな。市にも結構予算が有るんだな。少しはうちにも分けてくれると助かるんだがな」 


 かなめはタバコを手にしてそのまま喫煙コーナーへと向かった。


「ええ、五百人弱は入ると思いますよ」 


 その言葉にかなめは絶句してタバコを落としそうになった。カウラはロビーに広がる独特な雰囲気にいつものように飲まれていた。かなめはそのまま足早に喫煙コーナーのついたての向こうに消えた。そんな光景を見ていた誠に近づいてきたのはパーラだった。


「それじゃあカウラちゃんと……かなめちゃんは入り口でこの券を販売してね。それと誠ちゃんはクレーム対策でお願い。一応、剣道場の息子でしょ?腕力には私が太鼓判押すから。ミリオタのクレーマーなんか格闘戦で制圧しちゃって構わないし」


 そう言ってパーラが笑った。


「金を取るのか。去年は無料だったはずだぞ。アメリアだな……自分が作ったから何をしても許されると奴は考えているんだ。まったく困ったものだ」 


 そう言って迫るカウラに西は親指で客と談笑をしているアメリアを指差した。


「ああ、アメリアさんが『演芸会』の活動資金にするんだとか。それに確かにアメリアさんと例の『釣り部』の人が画像処理を外注したんでその実費に充てるそうです。ああ、アメリアさんはここに居ますが『釣り部』のあの人、今日はいませんよ。なんでも『タナゴ釣り』をするそうです。『タナゴ釣り』はこの辺りがメッカで専用の竿まで有る奥が深い釣りだとか何とか言いながら、さっきその専用の竿と道具を抱えて出て行きました」


 西は呆れ半分にそう言ってため息をついた。西としても作品の出来を知っているだけに金をとるに値するものなのか疑問に思っているように誠には見えた。 


「それにしても質はともかくあれだけの数の客をよく集めたな。入場料は五百円か。高いのか安いのか……俺ならやっぱり高いな。素人が作った映画で金撮ろうなんておこがましいってもんだぜ。それに俺は車やバイクが出てこねえ映画は絶対見ねえ。俺のポリシーが許さねえ」 


 そう独り言を言うと島田は再び劇場の中に消えていった。


「何しにきたんだ?島田の奴。アイツヤンキー映画以外は出ねえって言って結局何にも協力しなかったじゃねえか。文句だけ言うなんて気楽なもんだ。実際に出て恥をかくこっちの身にもなれってんだ」 


 いつの間にかタバコを吸い終えて戻ってきたかなめは誠の隣で屈伸をしていた。


「まあ、整備班は日常業務が多くて撮影協力なんてできない状態だったからな。それに島田もうちの隊員だ。客の様子でも見に来たんだろ?じゃあ私達もいくぞ!」 


 こういう場所でも責任感を発揮するカウラはゆったりした歩き方でロビーへと歩き始めた。


「これか……これを使って入場業務を行えばいいんだな……」 


 カウラはそう言うとサラが用意したチケットの入った箱を見た。隣には釣り用の小銭、そして隣にはパンフレット。そしてその隣には……。唖然とする誠とカウラを見るとアメリアは手早く雑談をしていた客に挨拶をして誠達に近づいてきた。


「これを売るのか?アメリアの奴正気かよ……恥ずかしげも無くこんなもの親子連れも居る前で売れって言うのか?どうかしてるぞ」 


 かなめはそう言うと薄いオフセット印刷の雑誌を手に取る。表紙の絵はアメリア原作だった。金髪の男性とひげ面の男が半裸で絡み合っている絵にかなめは明らかに引いたように見えた。


「大丈夫よ。今日はあまり女性客にはアピールしていないから売れないと思うけど、一応それって不良在庫が隊の倉庫に一杯あるのよね。少しでも減れば大助かりじゃない」


 アメリアは開き直ってそう言って見せた。


「そういう問題じゃねえ!子供にこんなもの見せて良いかってところをアタシは聞きてえんだ!」 


 かなめはそう言うと上着を脱いで同人誌の山にかぶせた。それを見たアメリアはやり取りを興味深そうに眺めていた観客に向かって手を広げて見せた。



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