第147話 完全に傍観者を気取る人
『青春だねえ。若いってのは良いことだよ。俺は不老不死だから体は若いが心までは若くはなれないんだ。馬鹿をやれるには年を取って分別がつきすぎた。辛いもんだよ』
突然抜けたような声が響いたので誠は驚いた。いつの間にか会議室に紛れ込んでいた嵯峨がウィンドウ越しに割り込んできた。
『嵯峨さん。良いんですか?お仕事は』
春子の言葉に誠もいくつか付け足したい気分だった。
『いやあ、仕事が面倒になってきちゃってね。ちょっとくらい匿ってくれたっていいじゃないですか』
どうやら嵯峨は誰かの手から逃れているようだった。誠からしても小遣い三万円、唯一の楽しみのタバコも娘に制限される嵯峨の暮らしは過酷だった。
『しかし、格闘戦とは……よく見てろよ、神前。シュツルム・パンツァーもその本質は格闘戦にあることはこの前の厚生局の事件で分かったわけだから神前達も参考にしろよ』
嵯峨は激しく鍔ぜりあうランと小夏の姿を見て思わずそう口にしていた。
『これをどう参考にしろって言うんですか?それに操縦の下手な僕にこんな細かい動きを再現しろなんて無理な話ですよ』
無責任に画像を面白がっている嵯峨に誠は呆れながらそう言った。
『しかし、こんな一瞬で傷だらけになるって、どういう剣術なんだろうね?不思議だね』
嵯峨は心底不思議そうに誠に尋ねてきた。
『それは尺の都合って奴じゃないですか?それに子供もあまり戦いが長く続くと飽きちゃうでしょうし』
とりあえず仕事をしたくないらしい嵯峨に誠は付き合ってそう答えた。
『嵯峨さん!いい加減にサボるんじゃありません!』
女性としてはハスキーな張りのある声が響いた。それが遼州同盟司法局機動隊、通称『特務公安隊』隊長の安城秀美のものであることは誠にもすぐに分かった。昨日同盟本部に法務司法執行機関および治安関係団体幹部会議を『頭が痛い』と言って欠席して隊長室で刀を研いでいたところは誠も目撃していた。
『しつれいしますね、春子さん。嵯峨特務大佐はお借りしますから』
安城の非情な一言で嵯峨が落ち込んでいるのが誠には目に見える様だった。
『どうぞご自由にお使いください。好きなだけこき使っても構いませんから。新さんならどんなにこき使っても使いべりしないので』
春子に見放されて落ち込んでいるだろう嵯峨の顔を想像して誠は思わず笑いそうになる。再び誠が画像に意識を向けるとすでに逃げ去ったランを見送る小夏の姿があった。




