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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第三十章 ご都合主義的展開

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第132話 いきなりの聞いていない出番

「アメリアさん!いきなりですか?台本ではここは西園寺さんが一人で脱出するんじゃなかったでしたっけ?」 


 誠は聞いてない自分の出番にカプセルの内部に投影される最新台本を読み直し始めた。


『良いのよ、アタシもここは誠ちゃんを出した方が盛り上がるんじゃないかなあって思ってたところに新藤さんがこっちの方が盛り上がるからって言ってたし』 


 アメリアは台本の急な変更を新藤のせいにした。


『なんだよ俺のせいかよ。大体、西園寺が言い出したんだぜ、自分と神前の絡みが少ないのはどうかって』


 ひげ面の新藤はそう言ってすべてをかなめのせいにした。


『言ってないって!なんでアタシがそんなことを言わなきゃなんねえんだよ!第一、これはお遊びだろ?なんでそんなことにアタシが関心を持つんだよ』 


 いかにもかなめが不服そうにつぶやいた。モニターの下には変更された台本がある。自然と誠の目はそれを見ていた。そこには手枷で拘束されているかなめを誠の役『マジックプリンス』が助けると言う筋書きが書いてあった。


『なんだよ名前の変更無しかよ!マジックプリンス。まんまじゃん。もっとひねれよ!』 


 頭の中でそう思うものの、のらりくらりかわして自分の意見を通すと言う術を嵯峨から一番良く学び取っているアメリアに言うのは無茶だと思って誠は口をつぐんだ。


『じゃあ、行くわよ!ハイ!』 


 さすがに飽きたというような調子でアメリアがシーンの始まりを告げた。


 誠は黒の全身タイツに重心が高くて落ちそうなシルクハット、さらに引きずりそうになるほど長い黒いマントと言う奇妙奇天烈な格好で堂々と洞窟を歩いていった。その先には痛めつけられて弱ったかなめが手枷で吊るされていた。


 肉のちぎれたひじの関節の内部の機械が露出し、切り裂かれた頬には血と金属で出来ているような骨格が見えていた。明らかにやりすぎと言うか本当に子供にこれを見せるのかと突っ込みたくなる衝動を抑えて誠は手にした杖の一振りでかなめを吊っていた鎖を切った。


「な……なんだ……貴様は?」 


 かなめは力なく頭をもたげながら搾り出すようにして言葉を発した。いつも見慣れた強気一辺倒のかなめから想像も付かないような弱々しい姿に誠は台本通りに自分ではイケテルと思う流し目をかなめに向けた。明らかに噴出しそうな顔が一瞬浮かぶが、かなめは何とか我慢して痛めつけられた女性幹部の演技を続けた。


「動くんじゃない。今、修復魔法をかけてやる」 


 そう言って誠は傷ついているかなめの体に手を伸ばした。ぼんやりと淡い桃色の光を放つ手に撫でられると、わずかに発光しながら内部の機械が露出していたかなめの体が修復されていった。


「私を助けるだと?私はもはや無用な機械だ。もはや用済みの機械の私を助けたところでなんになる。機械帝国では不要な機械は処分されるのが掟だ。このままメイリーンの欲望のままに破壊されるまで痛めつけられるのが私の定めなんだ。機械帝国で製造された機械としてその機能を全うした。それだけのことだ」 


 そう言って笑うかなめの頬を誠は平手で打った。


「機械だろうが生物だろうが存在するものに無用なものなどないんだ!それに勘違いしてもらっては困るな!君には償わなければならないことがある。それを償ってもらうために私はここに来たんだ!」 


 そう言うと誠は再び修復魔法をかなめにかけた。その言葉に笑顔を浮かべかなめは素直に誠の手に傷口を晒した。


『ありえないよ!こんなの!西園寺さんがこんなに素直なわけないじゃないか!』 


 そう叫びたくなる欲求を抑えながら胸を切り裂いていた鞭の跡に手を伸ばした。


 突然かなめが体を倒してきた。すると修復魔法をかけていた誠の手がかなめの豊かな右の乳房にかぶさった。


「あっ……」 


 おもわずかなめが声を漏らした。誠はそのまま手をのけようとするが、その手はかなめの右腕につかまれてさらに胸を揉むような格好になった。


『あー!西園寺さんやばいよこれ。アメリアさんが見てるんでしょ?しかも僕の机のモニターつけっぱなしだからカウラさんが……いや!かえでさんに殺されるよ俺!』 


 一瞬で何重もの恐怖が誠の頭を駆け巡った。かなめはうれしそうな顔をしながらその手を放し、静かに立ち上がった。


「貴様……私をまだ必要とする者とは貴様のことか?」 


 そう言ってかなめは誠をにらみつけた。明らかに悪役の女怪人と言う姿だが、妙に似合っているので誠はつい彼女に見とれてぼーっとしていた。


「気に入った。どうせ捨てられた命だ。力を貸すのも悪くはないか」


 なぜそうなるのか誠には良く分からないがアメリアの脳内世界では助けられた以上助力するのは当然と言うストーリーが出来上がっているらしいと分かった。  


「ああ、君にはするべきことがあるんだ。力を貸してくれ」 


 そう言って誠はあまりにも直球な感じでつけられているマントを翻した。次第に自分の体が消えていくという奇妙な感覚に興奮している自分を押さえ込んだ。


「貴様!名は!」 


「私はマジックプリンス!正義と真実の男!」 


『おい!どこの多良(たら)尾判内(おばんない)ですか!俺は!』 


 呆れながら今度はカメラ目線になってかなめを見つめる。かなめはじっと手を握り誠が消えたあたりを眺めた。


「マジックプリンス……ああ、覚えておこう。その名を」 


 そう言うとかなめも小走りで素早く洞窟を脱出した。その様を見ながら誠は突っ込みたかった。


『おい!戦闘員は?下っ端は?監視はどうした!……ああ、そうか、島田先輩が駄々をこねて整備班員の協力を拒んでるんだったよな。まったく島田先輩にも困ったもんだ』


 誠は端役が少ない原因が要するにこの撮影に一番の大所帯である整備班が島田の変な気まぐれで協力的で無いことであることを思い出した。 


 目の前が暗くなり一幕が終わったことを告げた。


「あのー、アメリアさん?」 


 恐る恐る誠はしゃべり始めた。一応、アメリアは上官である。しかも自分が面白いと感じたら絶対に譲らない彼女である。


『はい、なんでしょう?』 


 サブモニターに映るアメリアの満面の笑みがあった。



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