第130話 斜め上の展開
しばらくの沈黙。
腹の中がおはぎで満たされた誠は窓から注ぐ秋の柔らかな日差しを見ながらゆったりと伸びをした。安心できる冬のからりと晴れた青空が窓越しに心地よい日差しをくれた。隣の席ではカウラが頬杖を付いて端末のモニターをいじっていた。
「ようやく静かになりましたね」
そう言いながらアンはうどんを啜っていた。
「戻ったで……うどん来とるか?」
小用から戻って来た明石は早速置いてあった自分用の大盛のぶっかけうどんに手を伸ばした。
「でも明石中佐はうどんが好きなんですね……しかも冬だというのに冷やしぶっかけうどん……お腹は大丈夫なんですか?」
話題を振った誠に明石はうどんをかみ締めながら頷いた。
「まあな、甲武軍では麺類は絶対に出えへんからな……縁起が悪いんやて。遼帝国軍がうどんが無いと戦えへんて散々ごねてあっちこっちで反乱起こしよったさかいに麺類見ると戦争に負けるちゅうジンクスがあるんや。甲武人やてうどんぐらい食うがな。まあ遼帝国人のうどんへのこだわりにはとてもかなわへんけどな」
明石の語気が強くなった。その様子から明石もかなりのうどん党であることが想像がついた。
麺類と言えば遼帝国と遼州星系では言われていた。先の地球との大戦では戦闘中だろうが平気で戦闘をやめてうどんを茹でたと言う都市伝説があるほどうどんとの組み合わせで語られる遼帝国軍である。その同盟国として苦戦を強いられた甲武軍にうどん禁止と言うような風潮があってもおかしくないと思いながら、乾いた笑いを浮かべて誠は消えている画面を戻そうとキーボードを叩いた。
まるで反応がなかった。
仕方なくリセットしてみる。それでも反応がない。
「モニターが切り替わらないのか?西園寺の奴がバイオスの設定まで変更したとか」
焦ってぱちぱちとリセットボタンを押す誠の姿を見てカウラがそう言った。
「そうすると技術部の士官の人達を呼ぶか、西園寺さんじゃないと直らないってことですか?技術部の人達は島田先輩の間食禁止令で飢えてますよ。今更余計な仕事を頼んだら嫌な顔されますよ」
泣きそうな顔で誠はカウラを見つめた。
技術部の士官があてにならない以上、他に策はなかった。誠に仕事を頼んだのは嵯峨の長女で法術特捜本部の部長、嵯峨茜警部である。穏やかなお姫様らしい雰囲気とは正反対に厳格な上司である彼女が書類の提出期限を延ばしてくれることなど考えられなかった。




