第122話 ツッコミを入れる人
「明石の奴。あいつ、昔っから本当に訛ってるな。アイツは実家は鏡都のはずだから本来訛は無いはずなんだけどなあ……アイツは忠さんが播州コロニー軍で拾ったって言ってたけど、播州で相当苦労したんだね」
そう言いながら嵯峨がお茶をすすっていた。その時、再び詰め所のドアが開いた。そこに立っていたのはパーラだった。彼女は完全にアメリアのアシスタントに成り下がっていた。それはいつもの事なので誰も気にしない事実だった
「ああ、春子さんここでしたか。アメリアが呼んでますよ。例の恥ずかしい格好……止められなくってすいません!」
パーラもアメリアのお守りは慣れたもので、自然と口をついて的確な指示が出せるようになっていた。それと同時にアメリアの暴走をいつも止められない自分の無力を感じる心が彼女を支配するようになっていた。
「パーラさんが謝ることじゃないわよ。じゃあ、新さん、ごめんなさい。じゃあ行ってきますわね」
そう言って春子は立ち上がった。
「隊長……」
視線で春子を追っていた嵯峨が突然誠に声をかけられて頭を掻きながら嵯峨は口の中のあんこを飲み込んだ。嵯峨はなんとかあんこを飲み込むと再び出がらしになった茶の入った急須に手を伸ばした。
「隊長、口を漱ぐのはやめてくださいよ」
仕事をしていたカウラの警告が飛んだ。苦笑いを浮かべながら嵯峨はそのまま口に入れたお茶を飲み下した。
「あのー……」
春子達と入れ替わりにドアから顔を出したのは西とひよこだった。誠達はその顔を見てそれぞれ時計に目をやった。
「ああ、もう昼か。弁当当番ご苦労さん」
十二時を少し回った腕時計の針を確かめながら嵯峨は大きなげっぷをした。乾いた笑いを浮かべながら誠はおはぎに手を伸ばした。
「ああ、西!見ての通りだからな昼の買出しはうちは要らないだろう」
カウラが苦笑いを浮かべながら答えた。西はかえでのデスクに置かれた重箱を見ながら呆れつつそのまま入ってきた。昼の買出しは誠が隊に配属になったころから各部の持ち回りで行われるようになっていた。以前は隣の菱川重工の食堂を利用できたそうなのだが、嵯峨がぐだぐだと味に文句をつけたため司法局の関係者は出入り禁止を食らっていた。仕出しの弁当屋が先日食中毒を出して営業停止処分を受けていたのがとどめとなっていた。
「僕好きなんですよ、おはぎって」
そう言いながら西はすぐにおはぎに手を伸ばして食べ始めた。嵯峨は見るのも苦手なおはぎが減っていくのがうれしいようで、西のおいしそうな顔を笑顔で見守っていた。
「ああ、神前さん何を見ているんですか?」
西は不思議そうに誠の端末が黒く染まっているのに目をつけた。
「あれだよ、例の映画」
誠は多忙を理由に映画製作に協力的で無い整備班の一員として、あまりこの映画の製作状況に詳しくない西にそう説明した。
「ああ、クラウゼ少佐の奴でしたっけ?でもまあ撮影機材も見ましたけど、あれは……アメリアさんも大変ですよね。しかし、班長も少しは協力してあげればいいのに。だって彼女のサラさんが出てるんでしょ?いくらこんど面倒な機体が二機も搬入される準備が有るって言ってもその面倒さゆえにすぐに出撃なんてことは無いんだから。そんなにムキになって協力拒否なんてしなきゃいいのに」
そう言いながら今度は西が春子が居た場所に陣取った。アメリアが二人を出さなかった理由がサラが書き上げた西をモデルにした作品にあることを誠は知っていた。
再び画面に目を戻すと、そこには鎖に縛られたかなめの姿があった。誠とカウラは目を見合わせた。間違いなくかえで達が動き出した。
『うわ!ふっ!』
鞭打たれるかなめの声が端末から響くのを見てひよこが誠の端末に視線を向けた。
「西!君は買出しの任務があるんだろ?」
カウラは思い出したようにそう言った。仕方なく西は追い立てられるように立ち上がった。
「すみません」
頭を下げながらひよこは誠の端末の画面に目をやった。




