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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』  作者: 橋本 直
第二十二章 皆の関心事となること

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第102話 危機からの解放

 身を乗り出してきたかなめに身を乗り出されて誠が思わず体をそらした時、廊下でどたばたと足音が響いた。


「誠ちゃん!無事!かなめちゃん!離れなさいよ!何色気づいてるのよ!」 


 誠がそのままかなめに仰向けに押し倒されるのとアメリアがドアを蹴破るのが同時だった。


「何してるの!かなめちゃん!本当に人が目を話している隙にとんでもないことをやってくれるわね!」 


 そこには顔を真っ赤にして怒りに震えるアメリアの姿が有った。


「そう言うテメエはなんだってんだ!人の部屋のドアぶち破りやがって!なんだ?アタシがこいつとくっつくと困ることでもあるのか?ねえだろ?これがかえでならわかる。アイツは一応、こいつの『許婚』だからな。それでもそのことをこいつは認めてねえ。だったらアタシがこいつに抱かれてだれが困るんだ?教えてくれよ」 


 アメリアとかなめが怒鳴りあった。誠は120kgの機械の体のかなめに乗られて動きが取れないでいた。


「大丈夫?誠ちゃん。今この変態サイボーグから救ってあげるわ!まったくかえでちゃんと言い、あなたと言い、西園寺家の人間は油断も好きも無いのね!」 


 そう言って手を伸ばすアメリアの手をかなめが払いのけた。誠は頭の上で繰り広げられる修羅場にただ呆然と横たわっていた。


「まったくあんなエロゲーの原作を書いてるのに……こういうことにはほとほと気の回らない奴だなオメエは。こういう時は行くところまで行っちゃうのがゲームのお約束だろ?神前もそんなゲームの濡れ場を散々描かされてきたんだ。実際にその主人公みたいな思いをしてみたいと思ってるよな?」


 かなめは挑発するようにアメリアに向けてそう言い放った。 


「何言ってるの!相手の意図も聞かずに勝手に欲情しているかなめちゃんが悪いんじゃないの!それにゲームはゲーム。リアルはリアル。現実の遼州人はあんな展開フィクションでしか無いって分かってるんだから。実際に絶対に有り得ないことだからゲームとして売れるんじゃないの。かなめちゃんもその辺をちゃんと理解しなさいよ」 


 誠はもう笑うしかなかった。そして一つの疑問にたどり着いた。


 アメリアがなんでここにいるのか。彼女は新藤と今回の映画の打ち合わせをしているはずである。こだわるべきところには妥協を許さないところのあるアメリアである。彼女が自分の『作品』を放り出して偶然この部屋にやってくるなどと言うことは有り得ない。


 そう思って考えていた誠が戸口を見ると、アメリアとかなめの罵り合いを見下ろしているカウラの姿が見えた。


「カウラ!オメエはめやがったな!眠ってたのも芝居か!毎回毎回人を陥れるのがそんなに楽しいか?良い役者に慣れるぞ!アタシの役オメエに譲ってやるよ!」 


 かなめも同様に戸口のカウラに気づいて叫んだ。


「勝手に悲劇のヒロイン気取ってる貴様に腹が立ったんでな。別にやきもちとかじゃ無い。クバルカ中佐のいつも言っているように神前が『漢』になるまで恋愛禁止と言う掟に従ったまでだ」 


 まだ顔は赤いもののカウラは冷静にそう言ってかなめを見上げた。


「そうなの?私に車の中からひそひそ声で連絡が来た時は相当怒ってるみたいだったけどなあ……カウラちゃんのあの時の口調。嫉妬以外の何物でもないと思うんだけど、私は」 


 アメリアの言葉で再びカウラの頬が赤く染まる。そこで一つ良い考えが思いついたと言うようにかなめが手を打った。


「まったく冗談も分からねえのか?こいつにはかえでって言う『許婚』が居るんだぜ。泥棒猫になるのは御免だな!いくらこいつのアレがでかくてもそんなの関係ねえ!」


 誠に向ってあざけるような顔をしてかなめはそう言い放った。 


「冗談?本当に冗談なのかしら?それに私はかえでちゃんを誠ちゃんの『許婚』だなんて認めてない。泥棒猫?上等じゃないの。なってやろうじゃないの。泥棒猫になるのは私。かなめちゃんみたいな怪力だけが取り柄のサイボーグに先を越されてなるものですか!」 


 アメリアに顔を突き出されてかなめはあきらめたようにため息をついた。あわてて戸口を見る誠の前には真剣にそのことを考えているカウラがいた。


「貴様等は神前一人を取り合ってそんなに楽しいのか?遼帝国の後宮じゃあるまいし……」 


 カウラはまだ酔っているようでおぼつかない足下で立ち上がるとそう言って二人に笑いかけた。


「おい、カウラが冗談言ってるぜ」 


「ええ、珍しいわね」 


 真剣に考えた解決策をあっさりとかなめとアメリアに潰されてカウラは力が抜けたと言うようにうなだれた。


「盛り上がっているところ大変申し訳ないんですが……」 


 そう言って現れたのは島田正人准尉だった。技術部整備班長であり、この寮の寮長である彼の介入はある意味予想できたはずだが、誠はその威圧するような瞳にただたじろぐだけだった。


「おう、島田。こいつがドアぶち破ったから何とか言ってやれ!」


 そう言ってかなめは勤務服姿のアメリアを指差した。 


「島田君、誠ちゃんを襲おうとしたかなめちゃんから守ってあげただけよ」 


 突っかかる二人を抑えながら島田はそのまま誠に近づいてきた。


「神前。もう少し配慮してくれよ。俺にも立場ってものがあるんだから。元々このお三方が寮に入る前は俺以外は女を連れ込むのは禁止するって言う寮則もあったんだ。それが今じゃ……全部オメエが悪いんだ。反省しろ」 


 誠の耳元でそう囁くと島田は倒れたままの誠を起こした。


「それと皆さんに行っときますけど別に俺も隊長とおんなじで野暮なことは言いたくないんですがね。そんなに男女の関係に拘るならここを出て行ってもらいますよ。神前を連れて同棲でもなんでもすればいいじゃないですか。寮長として他の隊員への示しがつきません!だから今回は不問に付しますが、ドアの修理費は皆さんで何とかしてくださいね」 


 そう言って場を収めようとする島田だが、かなめは不服そうに彼をにらみつけた。


「まあ、オメエとサラの関係からしておかしいじゃねえか……まあ、それが寮長特権とやらならオメエを射殺してアタシが寮長に……ってオメエは射殺しても死なねえんだな」 


「かなめちゃん!正人を射殺なんて物騒なことを言うのは止めてよね!不死人でも痛いものは痛いんだから!」 


 野次馬の後ろにサラのピンクの髪が揺れている。


「ああ、すいません。ベルガー大尉!そこに集まってる馬鹿共蹴散らしてくださいよ!」 


 島田のその声にカウラが手を出すまでも無く野次馬達は去っていった。そこに残されたのは心配そうに誠を見つめるサラの赤い瞳と汚いものを見るようなパーラの青い瞳だった。


「問題になってるのはこいつでしょ?ちょっと説教しますから借りていきますよ。まあこのドアの修繕費についてはお三方で話し合ってくださいね」 


 そう言うと島田は誠の襟首をつかみ上げて引きずっていった。かなめとアメリアは呆然として去っていく誠を見送っていた。


「ああ、ベルガー大尉も同罪ですから。きっちり修理代の何割か支払ってくださいよ」 


 ドアに寄りかかっていたカウラも唖然として誠を連れ出す島田、サラ、パーラを目で追っていく。そのまま誠は階段まで連行され、かなめの部屋から見えない階段の裏でようやく開放された。



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