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連なる怨毒3

「じゃあ、これで手合いだ。」

 ティケティスの掛け声で一騎打ちが行われる。クラウティス陣営からはクロウマン。アザリ陣営からはシィペフが名乗りをあげて代表を務めた。


 後ろ盾であるティスブルクからの援護が無く、アザリ側のバルインではバルインを中心とする交易圏が元のアザリ交易圏よりも大きくなった事で、戦況は一転。

 援護物資やティケティス率いる海賊の協力もあって両島の争いは終結が目に見えていた。


 クラウティス島内でも様々な動きがあり、首長に選ばれたクロウマンだったが、その権力は著しく低下しており、いつ島内で反乱が起こっても不思議ではなかった。

 無益な争いを好まないアザリ陣営と、なるべく少ない被害で争いを終わらせたい両陣営の思惑が一致した事で、ティケティスを立会人とした決闘が行われる事となった。


 公平を期すために会場はバルインで行われ、決闘を見守るそれぞれの陣営の人数も同数で行われる。

 ティケティスの掛け声を受け、はじめに動いたのはクロウマン。海太刀と呼ばれる軽くて丈夫な太刀をシィペフの頭上へ向けて振り下ろす。戦争が始まるまで、海夫として生きてきたクロウマンらしい全身を使った太刀捌き。


 シィペフはクロウマンの攻撃を簡単にかわし、ガラ空きの胴に棍棒を叩き込む。クロウマンは衝撃で息ができなくなり、立て直そうと一度後退するがシィペフがそれを許すわけもなく距離をとったまま、隙だらけの全身に突きを何度も食らわせる。


 その度にクロウマンは苦痛の表情を浮かべる。しかし、痛みの意識が全身に向いたことで初激の苦しみから解放されたようで、防御から転じて攻撃の構えを取った。シィペフはアザリで警邏隊隊長を務める実力者。単純な攻撃でははじめのように避けられて、反撃を喰らうだけ。

 クロウマンは頭を悩ませながら海太刀を振るう。一撃でも強いのを与えられれば戦況は変わるはずだ。戦闘の経験は天と地の差があるが、単純な力勝負であればクロウマンに軍配が上がる。


 はっ、とクロウマンに妙案が浮かぶ。実行に移す為、シィペフの攻撃を受ける際大袈裟に後退し、距離を取る。シィペフは間髪入れずに詰め寄るがシィペフの動きに合わせてクロウマンは逃げ続ける。このままでは無駄な体力を消耗すると考えたシィペフはその場に立ち止まり、息を整える。


 今だと考えたクロウマンはその隙をつき、腰を下ろす。不自然に思ったシィペフだったが、このまま逃げ回られるよりかは相手の挑発に乗った方が早く終わると考え、助走をつけると勢いそのままにクロウマンへ飛びかかった。


 ここまで上手くいくのか、と内心クロウマンは高笑い。飛びかかってきたシィペフの顔に向けて砂礫を投げ込んで視覚を奪いにかかる。クロウマンの考えついた妙案、なんとも小物らしい最後の足掻き。クロウマンからするとこの一撃は必殺にも等しい行為に思っていた為、つい上がってしまう口角を落ち着かせながら腰を上げる勢いと同時にシィペフへ斬りかかる。


 ガキンッ


 クロウマンの予想していた事態とは全く異なり、振り切った海太刀は軌道を変えられ横に弾かれる。呆気に取られるクロウマンの顔面に鈍痛が走る。一度ではなく何度も。

 シィペフはクロウマンの意識が無くならない程度に殴打を続ける。降参の意を示すか、死なない限りこの決闘は終わらない約束になっているため、態勢を崩し倒れ込んだクロウマンに馬乗りで殴り続ける。目、鼻、首、皮膚が薄く痛みが伝わりやすい場所を狙って拳をたてる。ゴン、ドン、と鈍い音が段々と水気を増したようなグチャ、ベチャという音に変わっていく。


 シィペフは一撃加えるごとに負けを認めてくれと、耳元で呟く。しかし、クロウマンは頑なに負けの二文字を口にしない。クロウマンの敗北宣言は自身の死を意味し、それだけでなくクラウティスは良くて割譲、最悪属島扱いにされるだろう。自分が色気を出した結果故郷が奪われるなんて事あってはならない、そう考えるクロウマンにとって頭蓋が破られるような殴打など痛みにすら感じなかった。


 結果、

「なぁ、これ息してない。」

 ちょうどシィペフが胸部に打撃を与え始めた時だった、拳を胸に当てた時それを受け入れる胸の動きが止まっていた。呼吸による胸の上下運動は生じず、微かに漏れていた呼吸音も聞こえなくなっていた。

 

 最後の抵抗。一部始終を見ていた見守り人の面々の中でスッキリとした表情を浮かべるのは、クラウティス陣営であるケルアマンただ一人。戦争の終結、それも戦勝島として終わりを迎えたアザリ陣営の人間は誰一人晴れやかな面持ちではなかった。

 それは立会人としてこの場を仕切るティケティスを中心としたバルインの住人達も同じ様子だった。決闘の勝利はその日のうちに両島、両島陣営に知らされ長い間苦渋を呑んできたアザリ陣営の島々にとっては何よりの吉報となった。


 決闘の結果、それまでの戦況などを鑑みてクラウティス含めた陣営中枢の3島はアザリ、バルインの属島となり、他派閥島にはアザリ陣営の監視が置かれることとなった。また、敗戦島となったクラウティス陣営の島々には税が課せられる事となり、他にも少量備蓄の早急の回復のために救荒作物の強制栽培も決定された。


 アザリ側の島々も戦争の影響は大きく、その日の食事に困るような島もあったがバルインの交易支援によって日に日に明るさを取り戻していった。


「次はどこの島だ?」

 バルイン交易圏は元々のアザリ交易圏以上に広がりを見せ、クラウティス-アザリの争いとは関係のない島からも参加の意思が示された。ラパパのいないバルインではティケティスとキロ・ラウ主導で取引内容と取引島との交渉を進めていた。


「トラタ島です。特産品は海藻、それと貝殻を使った装飾品、干し草の編み物です。」

 クラウティスから押収した多くの船を利用し、片道5日までの距離にある島々に交易圏参加の意思と、その場合何を取引したいのか調べる事にしたティケティスは今日もキロ・ラウと新規参加島の情報を精査していた。


「それら品の特徴は何かあるか?それがないと、中々、」


「海藻は魔力の浸透によって成長が早くなるようです。貝殻の装飾品に関しても微量の魔力が込められているので丈夫との事ですが、」


「ん、もう一回島の名前教えてもらえるか?それと、方角も」


「トラタ島、ここバルインから西南の方向にあります。近海にはトンドの岩礁があるようです。」


 ティケティスは思い出す。食料に飢えていたバルイン、初期の交易圏を支えた重要物質の海藻。友人から譲り受けた宝物はこの島からの贈り物だった。


「トラタ島は最重要取引相手だ。近いうちに俺とお前で行くぞ。沢山の物資も用意するように伝えておいてくれ。」


 ティケティスの物語も動き出そうとしていた。

 

読んでいただきありがとうございます。


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