連なる怨毒2
アルト海に面するクラビアは、これまでラオ商会が用意する数々の品物によって莫大な利益を生んでいた。ラオ島やグラバイオス島に直接買い付けが出来るのは、一部の貴族と商人のみ。
それ以外でアルト海産の商品を手に入れる場合は、直接買い付けした商人から買うか、ここクラビアで行われる競や、市場で買うしかなかった。直接買い付けした商人達と違い、国同士でやり取りする分、品質や量、値段などがある程度安定しているクラビアには多くの人々が足を運び、クラビアは通行税だけでも相当の儲けを出していた。
しかし、現在。突如起こったカムナバの日を皮切りに、アルト海の状況は日を増すごとに大きく変化していった。その結果タオス海戦の影響でアルト海商品は殆どが品薄。大陸に近くラオ島派閥の島原産のものであれば定期的に届くが、アルト海の商品は多種多様な事が魅力であり、一部商品が安定供給される意味はあまりなかった。
大陸の住人からすれば、アルト海産の品物の一番の特徴は目新しさであり、その価値や効能、効力などは二の次だった。品物の魅力に気付き虜になっている者も少なくないが、大多数は好奇心が理由で買っている。
いくらアルト海産の品物であっても、月が一周する間、品揃えに変化が無ければ日常の風景として溶け込む。見慣れたアルト海産の品物など、少し割高な商品でしかない。
クラビアにとってタオス海戦は最悪の事態でしかなく、ここ最近では大陸に近いアルト海の島々から難民が逃げてくるなんて事も起こっていた。
これらの事態を受け、クラビアの宰相アイファバールは近隣諸国に呼びかけ、タオス海戦終戦に向けて、大陸同盟を発足した。同盟には、近隣諸国のみならず、クムバ教やアルト海三大派閥でありタオス海戦参戦島のラオ島も参加する事が決まった。
第一の目的はタオス海戦終戦。それに付随した大陸アルト海間の貿易圏の復活。
第二の目的として、大陸排斥運動色の強いティスブルク、キュラスの2大派閥の勢力減退。特にティスブルクは排斥だけでなくアルト海を国として独立させ、大陸と対等に並び立つ事を目的としているため、ティスブルクの戦力を削ぐ事は第一の目的にも繋げて、必須条件として掲げていた。
アイファバールは、終戦を早めたい一心で関係の強い大国ザーモンドに協力を要請した。
アルト海への直接的な関与は大陸内では避難対象であり、場合によっては経済制裁や、強制的な軍縮を求められる可能性がある。アルト海と貿易出来ているのは、大陸一の商会の力と、クラビア以外では立地的に他国が不可能だったからだ。
それであっても時々非難を浴びるのだから、今回の同盟の件が大陸中にバレた場合、相当の問題になる事は周知の事実であった。
そのため、経済的な理由に加え世論の事も考え、大国の力が必要だとアイファバールは判断した。
当初、乗り気ではなかったザーモンドも数回の交渉と、有力貴族であるバイシュタイン・デルマテオの働きかけもあり、同盟参加を決めた。
現在、大陸とラオ島の動きによってティスブルクとラオ島の戦線は停滞している。しかし、いつ動きが活発になるかわからない。先を許した結果がタオス海戦にまで広がってしまった。攻めるならこの機を逃すわけにはいかないだろう。
戦線後退の報せを聞いたアイファバールは、すぐに命を出した。教会には宝具。近隣国には贄の用意。ザーモンドにはラオ島を通じてデルマテオへ指示。
少し前の報告で、デルマテオとツ・ビィウズの話では優秀な協力者を得たらしく、完全に自分たちは勝利の流れに乗っているのだと確信する。方々へ手を回し、一刻も早くクラビアを立て直さなければならない。
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リオンは船を進め、陽光反射する海面を眺めながら思いに耽る。キュラスまで海路は、ツ・ビィウズからもらった海路図のおかげでなにも問題なく進んでいる。なにもなさすぎて退屈を感じるほどに。
刺激が欲しいわけではないが、冒険というのは新たな発見とそれに刺激された好奇心でほとんどが構成されている。開発されて整えられた道の上を歩くのではその驚きと興奮は生まれない。
後方から海面を叩く音が近づいてくる。船ごと影に覆われる。これで何度目になるだろうか。背後にはリオンの乗る小船など比べようもないほど大きい船。
キュラスへの海路という事もあり、これまでなかなか出会うことのなかった航海者と度々出くわす。海路が整備された区間というのは、道として視認できなくても行き交う場所としての役目が確立されている。
戦争の影響でリオンのような小船を漕いでいるような者はいないが、大きな船は何度も目にしている。魔力での移動は目立つため、ゆったりと船を漕いで進むことにしている。無理して急く必要のない旅路という事もあって、流れる時間はゆったりとしたものだった。
後ろから向かってくる船に巻き込まれないよう、船の方向を少しずらして進ませる。後ろの船はリオンがいた事に気づいていなかったようで、死角から外れて突然現れた小船に驚きつつも交戦の意思はないと旗を振る。
リオンも大丈夫だと合図を返し、船を先に行かせた。こんな時期に一人で船を漕いでる者など当然警戒される。リオンを抜いて進んでいった船も、ギリギリまでリオンの動向を気にしている様子だった。好奇や疑心の目というのは慣れている。けれどそれの心地よくない部分はどうにも慣れない。
リオンはここで決心した。これまでなら変えていた、ズレたままの進行方向を変えず、海路には載っていない方向へ船を進めた。
どうせならワクワクする方を選ぼう。リオンの目線の先には船尾ではなくどこまでも続く青い空が広がっていた。
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