極秘の鼎談5
今年もよろしくお願いします。
デルマテオ、リオン、ツ・ビィウズとの鼎談では基本的にデルマテオとツ・ビィウズが現状を報告し合う中で、リオンが質問するような形式を取っていた。
現在、タオス海戦は膠着状態が続いており、前線となっているタオス海域では張り詰めた空気が充満しているものの、頭領であるツ・ビィウズがその場を外せるくらいには緊急性が生まれていない。
とはいえ、戦況が長引けば長引くほどラオ島への影響は大きくなり、他二島も同じように疲弊していく。
デルマテオが危惧している大陸各国の属国、植民地化の魔の手がいつ伸びてくる可能性が高まっていくというわけだ。
デルマテオは元々リオンにはラオ島防衛と、中立介入を望んでいたが、ツ・ビィウズからティスブルクの近況を聞いた事で頭を悩ませていた。
ティスブルクは明らかに大陸の援助を受けている。そうでなければ勢いを失った現在、手を緩める事なく攻勢を演じられるはずがない。
そうなると、キュラスとの停戦と協定は簡単に締結できそうになるが、代わりにティスブルクは後に引けなくなってしまう。
デルマテオとツ・ビィウズからすれば大陸の介入が必要最低限で、本来のアルト海を大陸支配から守るという目的はとりあえず解決できるが、リオンの意見は違った。
「それでは、大陸の脅威を遠ざけているのではなく、ただ後回しにするだけにならないか。」
「それはどうして、」
「アルト海がこれまで大陸から支配を受けなかったのは、航海技術の問題と、アルト海という厳しい環境があったから。それと同時に三竦みの力関係があった事で、派閥意識が強くならずにいた事が理由だと思ってる。」
「確かに、それはそうだな。外からの参入はなく、中の世界ではそれぞれ自立した島々が自らのために日々生きている。あるべき姿だ。」
ツ・ビィウズはリオンの言葉に頷きながら、自分の解釈も添える。
「そうだとするなら、三竦みという力関係がないと成り立たなくなるんだ。キュラスとラオが派閥として生き残った場合、お互い大陸の後ろ盾や、旧ティスブルク派閥の取り込みに必死になる。相手が強くなるのを恐れて自分も強くならなければならないから。」
リオンの説明でデルマテオとツ・ビィウズは納得した。三竦みはお互いを監視し、様々な事柄に抑止力が働いていた事実。
「ただ、どちらにせよラオとキュラスの意思は統一しておく必要はある。二つの陣営が手を組む動きを見せればティスブルクと言えど、交渉には応じるだろう。」
デルマテオが今後の意思を統一させ、二人はその言葉に頷いた。
「ただ、」リオンは釘を刺すようにデルマテオの方を向き直し、
「殺しには手を貸さない。」目を見て、伝えた。
デルマテオはその言葉に深く頷き、ツ・ビィウズも同じように姿勢を正して頭を下げた。
当面の目標と行動が決まったため、各自の役割を決める事になった。
「私がキュラスに行こう。」
二人に頼まれる前にリオンが自らキュラス行きに名乗り出た。デルマテオとツ・ビィウズはどちらも面食らった様子だったが、なんとなくリオンの意図を理解し、それ以上言及する事はしなかった。
その後、それぞれの役目が決まり、ツ・ビィウズはこのままラオ島派閥の援助と、派閥に不介入を決める中立派との講和を行う事。デルマテオは、ラオ島派閥の島を周り戦闘面での援助をする事と、大陸との交渉、大陸での動きを調べる行う事に決まった。
話がまとまった事で、緊張の糸が切れたのか、「はぁーーー、」と、デルマテオは深い息をついた。
デルマテオからすれば、ひとまずアルト海に来た理由が達成された事になる。肩の荷が降りたような開放感と、安堵によって思わず声が漏れてしまうのも仕方ない。
話も一区切りした事で、ツ・ビィウズが外に立つ配下に向けて合図を送る。
すると、彼らは準備を始め、みるみるうちに宴の準備が出来ていった。リオンとデルマテオが困惑した様子でいることに気がついたツ・ビィウズは、にこやかに説明を始めた。
「せっかくの出会いと、目標が決まったんですよ。同じ皿で食べ物を取り合うような親しみと交流を深めていくべきなんです。わかりやすくいうなら歓迎会ってところでしょう。さぁさぁ、座って。」
ツ・ビィウズがそう言うと、食事を抱えた女中達がゾロゾロとやってきた。皿に盛られた食事はどれも豪勢で見た事ないものばかりだった。
「リオン殿はお酒飲まれますか?」
「はい。好物です。」
「ちょうど、具合のいい葡萄酒が入っているので良かった。」
三人は食事を囲みながら会話を楽しむ。ツ・ビィウズはリオンの一言一言に興味を示し、深い相槌を打っていた。まるで少年が憧れの英雄を前にした時のような表情でその空間と時間を味わっていた。
リオンは久しぶりの酒と、凝った料理の味に感動を覚え、娯楽の一つに形を変えた食事に僅かな物足りなさを感じていた。
生き血を啜り、生臭さや苦味が味として主張していたあの経験が色濃く残っている。
酒が入ってくると、ツ・ビィウズは、ミレア時代の話をリオンとデルマテオに求め始めた。その度に二人は思い出話を披露し、ツ・ビィウズは興奮抑えられない様子で聞き入る。
「ブラの見つけたあそこが、今ではミレアの主要鉱脈になってるなんて信じられないよ。」
「ほんとだよな。アプと戯れあってたまたま逃げた先にあったんだっけか。」
「ブラは変なところで運あるからな。海底空間の時とか、」
「カッカッ、あの時ブラが、人魚の棲み家見つけなかったら今の俺たちはいないだろうな。」
「人魚の棲み家もおたくらが見つけたんかいな。そりゃかしらも手を出すなって言うわな。」
食事会から常駐し始めた警護の男が、二人の会話を遮るように入ってきた。当のリオンとデルマテオは笑みを浮かべて返したが、ツ・ビィウズと他の警護達は空気を一変させ、睨みつけるようにして警戒する。
「そんな睨まなくなって良いじゃないの。」
警護の男は自らの影に溶け沈み、一瞬にしてその場に残るのは空虚だけだった。けれど、言葉は続く。人の気配も確かに存在している。
「リオン殿!デルマテオ殿!注意を!」
ツ・ビィウズは合図を送り、脱出経路の準備と警護の陣形を変更させる。左右、上下、必ずどこかに誰かの視線が向いているようにして、声の正体を探る。
「あーあ。だからダメなんだ。ビィウズ。お前が諦めて弟に家督を譲ればラオ島はアルト海の覇者になれた。父上のライバラ殿の唯一の失態は跡目を決めずに亡くなられた事だけだな。」
虚から漏れる言葉は、どこからというものではなく、その部屋にいる者たちすべての耳元で囁かれているような不思議な声によるものだった。
その声の正体を探し出そうとツ・ビィウズは、必死になって部下たちに指示を送るが、その光景を滑稽だと笑われるだけで何も変わらない。
「「そこか、」」
リオンの声が二重に聞こえ、デルマテオとツ・ビィウズは驚いた様子でリオンの方を振り向く。
リオンは喉を抑えながら、硝子窓から見えるある一室に視線を向けて、話を続けた。
「「様子まで見るのは調整できないけど、声を飛ばすのとそっちの音くらいはわかる。4、いや5人か。」」
「流石はリオンディーラ。ぱっと見で真似されるようなものじゃないんだけどな。その実力を勝って、一つ頼みがあるんだが、あっしらティスブルクと手を組まねぇか?聡いお前さんなら横の男がどれだけ無能かわかるんだろ?」
「な、お前、」
「「私が組むと言った場合、ティスブルクは武器を置くか?」」
「そりゃ、場合によるな。そもそもティスブルクはアルト海統一、打倒大陸だ。アルト海での争いは即刻やめさせられるが、裏切り者のラオの連中と、大陸には矛を収めるのはちと厳しい。」
「「、、」」
リオンは静かに頷くだけ。
「まぁ、いい。すぐ決めるような話でもない。リオンディーラはキュラスに行くんだろ?そこで決めろよ。ラオ島と大陸が何をしようとしてるのか、お前の正義はどっちに向くのかを。」
「「それは、」」
それまで部屋中に響いていた声は空気に溶けていくように、消えていき、残ったのはそれぞれの思いをかき乱す火種だけだった。
しばらく不定期です。更新頻度決まり次第ご報告させていただきます。
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