極秘の鼎談2
目の前に並べられた品々はどれも実用的で、簡素な物ばかりだった。リオンが特に気に入ったのは丈夫なマントと、消臭効果が刻まれている革靴だった。
マントの方は特殊な織り方をしているため、斬撃や刺突を中々通さない造りだ。糸から微弱や魔力を感じるのは、おそらく魔物由来の素材を使っているからだろう。
ツ商会の男は、この布の説明として糸一本一本が魔力を多く蓄える性質を持っているため、魔法攻撃も魔素を散らして吸収し、無効化に近い効力を持つと教えてくれた。
蓄えられた魔力はほつれていたり、断裂した部分を再生する力に変えられるため、ただ魔素を散らして終わりではないらしい。
このマントは、これまで出会ってきた様々な装備と比べても破格な性能を持っている。
それをこの男は、どこにでもある品の一つみたいな感じで端的に説明するだけ。
リオンが興味を示さないものにはわざわざ言葉を付け足すような事もしない。
革靴の方は、比較的よく見られる効果を付与されているが、この革靴の消臭効果は内部だけでなく、外部にも適用されている。
これは、リオンにとってとても魅力的な拡張だった。
鳥の島で気付かされた自分の隠密能力の低さ。他人の気配には敏感なつもりだったが、そもそも追われているようでは隠密としては二流以下。
相手に気取られない。悟られないというのがあるべき姿だ。
それに、魔物や動物達は気配察知能力が非常に長けている。聴覚、視覚、嗅覚のどれか、あるいは全てが想像を超えて発揮し、被捕食側は素早く身を隠し、捕食側は影からリオンを襲う。
自慢ではないが、リオンの風魔法に敵う存在はこの世界に片手で数えられるくらいしかいない。風魔法の技量だけで言えば最強格と言っていい。
そのため、音をかき消すという動作は簡単に行える。鳥の島では無自覚に行っていた。ただ、音を消せても、臭いや気配を隠すことには足りていないと気付かされた。
そこに強い消臭効果を持つ革靴が現れた。リオンはこの出会いを運命と錯覚する。
音を殺し、匂いを断つ。それだけすればリオンの隠密能力は一流クラスまで近くなれる。
ツ商会の男は、この革靴について、付与された効果は大陸で一般的に行われている付与術師や、魔導師による属性や効果付与ではなく、島に伝わる伝統的な護符によって行われた付与だと説明した。
媒介素材が魔石や魔素ではなく、伝統的な護符と術式によるもののため、経年変化で効果が薄れるのではなく寧ろ強くなり馴染んでいくらしい。
「どうして大陸とここまで違うんでしょうか?性能の差を見れば大陸が真似を、」
「大陸の連中はそんな事出来ねぇんだ。組合とか貴族とか、利権絡みの生産は、簡単に作り方を変えられないし、効果も高いやつを作らない。」
「作れないんじゃなくて、作らない。」
「いや、それもちょっと違うかも。そもそも文化と歴史が違うからな、大陸とここではな。それに、ここっていっても島によって全然違う。小さい大陸が沢山あるのと同じだ。小さいからこそ文化は継承されてより強固に精密に進化していく。文化が流れて、真似て、秘匿しての、大陸じゃあ、ここみたいな凄さは生まれねぇんだ。」
リオンは大陸での記憶を思い出しながら、男のいう事をなんとなく理解する。近代、魔術の発展が著しく遅いのは各国が能力の高い魔術を囲い、自国だけの発展を企むのが理由だと考えられている。
それが様々な技術分野でも同じ事が言えるのだろう。
「それで、耳長の兄さん、お気に召しそうな物は見つかったかい?」
ツ商会の男は、リオンが興味を示さなかった品物を片付けながら問いかける。
「このマントと革靴を買うことに決めました。」
「そりゃ良かったよ。どっちも残りがあんまり無かったからな。兄さんみたいな強い人に使ってもらえるなら大歓迎だ。」
「この二つで幾らになりますか?」
「持ち込んできてくれた諸々全部買い取るとしたら、その二つと20万シムの返しになるな。」
「え?」
「やっぱり足らねぇって事かい、けどなぁ、俺も今シムが少なくてよ、おまけつけるからそれで勘弁してくれねぇか?」
リオンは、渡した品物で不足分を少しでも補填できればくらいの感覚だった。けれど、商会の男の口ぶり的には高性能な商品二つを差し引いても、支払いするほど価値のある物という雰囲気だ。
商会の男は引き出しから小さな袋を取り出した。
「耳長の兄さんは、アイテムボックスって知ってるか?」
リオンは小さく頷く。
「迷宮都市ミレアで獲れる遺物。その希少性は価値を高め、容量によっては国を買えるとも言われる物だ。商人からしたら垂涎の品物だ。自分で使っても良し、売っても良し、これはそういう代物だ。」
小袋の口を開いて、中をリオンに見せる。リオンは見知った空間。底の見えない真っ白な空白。
「これには2リット入る。買った時は教会金貨20枚くらいだった。これをおまけにつけよう。」
おまけとしては破格も破格。リオンの渡した品物の中にそれだけ価値ある物が紛れていたのだろう。
「条件はそれで大丈夫です。二つの品と20万シム、それと小袋のアイテムボックス。けど、一つだけ聞いても、」
「すまねぇが、買い取りの内訳に関しては言えないからな。そこに関して深く説明する事もない。これが返事だと思ってくれ。すまんな。」
リオンの態度から察したのか、商会の男はそう言うと、20万シムを小袋のアイテムボックスに入れ、全てをまとめてリオンの前に差し出した。
「また、出会いがあったら来てくれ。一応休みなしではやってるが大陸に行ったり、商品を買い付けに行く期間もあるから、やってなければそれはそういう運命だったって事だ。」
無駄話はしないぞと、商会の男は出口を指差し、また会おうと背中を押し出す言葉を吐いて、はじめの格好、肘をついて酒瓶に手をかける格好に戻ってしまった。
リオンは仕方ないなと諦め、店を出て来た道を戻る。道を抜けるとデルマテオが必死の形相でリオンの肩を掴んだ。
「おい、リオンお前どこまで言ってたんだよ、」
「どこって、買い物に、」
「あいつらずーっとついてきて鬱陶しいんだよ。お前から買わないって言ってやってくれ。」
リオンを金持ちで、デルマテオの主人だと勘違いしているサルマ商会の面々はデルマテオの言葉を一切聞き入れる事なく、ただ一方的に商品の説明を繰り返していた。
デルマテオが遠回しにまた来ると言っても、今手持ちがないと言っても、買う気がないという言葉さえも、主人の言葉ではなく従者の意見だからと考え、付き纏いながらリオンの帰宅を窺っていたのだ。
「すまないが、私の買い物はもう終わったんだ。ここにはいい品物が並んでいるが、今回は縁がなかった。またの機会に頼むよ。」
リオンが前に出てキッパリと断る。すると、
「かしこまりました。またの機会を一同、お待ちしております。」
サルマ商会の面々は深々と頭を下げ、リオンの決断を肯定した。
デルマテオは、彼らの商売根性と、その強かさに驚くとともについつい笑ってしまった。
「デル、素晴らしい買い物が出来たぞ。時間もちょうどいい。ずっと言えずにモジモジしてるそれを早く教えてくれ。気分が良いから今が1番良い時だと私は思うぞ。」
リオンは本心からそう告げた。鳥の島であった時から、ラパパが怪我を負った時、船で2人きりの時、何か引っ掛かる言葉を言い出せずにいるデルの姿を見て、リオンも同じようにモヤモヤとしていた。
心地の良い買い物が出来て今は気分が良い。リオンは、嫌な話だったとしても聞くなら今だと思ったのだ。
読んでいただきありがとうございます。
いいね、☆☆☆☆☆の評価頂けると励みになります。




