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不戦の願い5

「俺が起きたら今度はラパパが意識を失うなんてな、」


 リオン達が村に帰ってきたころ、ちょうどデルマテオは目を覚まして全身の調子を試していた。


 デルマテオがリオン達の再会を喜ぼうと、顔を綻ばせた瞬間、パドンカに背負われ顔を真っ青にしたラパパを見て、状況を把握した。


 とりあえずリオンが使っていたサバの部屋に寝かせ、サバの治癒魔法を常時かけている。ただ、ラパパに今必要なものは治癒魔法でも、薬でもなく、増血に繋がる食料だった。


 そのため、リオン達はシケムの作る料理を待ちながら、軽く現在の状況についてデルマテオと話す事にした。


 本来なら再会を噛み締め、酒でも酌み交わしたいところだったが、それはラパパが起きてからのお楽しみという事で、情報重視の意見交換会が始まった。


 参加者はリオン、パドンカ、デルマテオ、サバの4人だ。サバはラパパに魔法をかけながらの参加で、パドンカはシケムの料理に意識が移っているので、実質リオンとデルマテオ2人の話し合いだった。


 最悪の事態は避けられたが、現在ラパパは相当弱っている。いつも通りになるまでどれくらい時間がかかるのか。


 リオンからすればラパパの寛解まで待つのは一向に構わない。しかし、デルマテオがリオンを探しにきた理由――


「ダメだデル。ラパパの状態が優先だ。そうじゃなきゃ私は手を貸さない。」


「明日死ぬってわけじゃないだ。あと2晩でも寝てれば大丈夫。ラパパだって、バルインに戻ってゆっくり休んだ方がいいって言うはずだ。」


「デルにはこの毒の苦しみがわからないはずだ。ただでさえ意識が混濁してるのに数日間船の上に乗せるなんて私は出来ない。」


「リオン、ダメなんだ。早くしないと、取り返しのつかない事に、」


 デルマテオがリオンを求めた理由。それはラオ島防衛の援助だった。

 アルト海の争いで、最も大陸に影響を与えたのはラオ島を中心とする交易圏の停滞だった。


 アルト海には様々な島があり、島特有の資源が沢山存在している。代表的な例でいえば香辛料や、希少な獣の毛皮など、貴族や商人に好まれるものを大陸に運んでいる。


 ラオ島はそういったアルト海原産の品々を独自の海路と繋がりで集め、大陸との交易を行っていた。


 これら商品はその希少性や、大陸では見られない美しさ、味わえない美味しさ、で多くのものを魅了した。


 ラオ島が大陸に負けない商業都市をもつのもその中毒者あってのものだといえる。


 そして、そのアルト海産商品の中毒者には大国ザーモンドの王家も名を連ねており、デルマテオはその国の伯爵家に生まれた三男だった。


 冒険者時代、伯爵家を勘当覚悟で様々な場所へ行き冒険を楽しんだ。その時リオンとデルマテオは出会った。


 デルマテオにも長命種の血が流れている事もあり、彼らは意気投合しミレアでパーティを作り、毎日のようにダンジョンに潜り新鮮な経験を浴び続けていた。


 しかし、ある出来事によってパーティは解散し、そこからデルマテオとリオンが出会うことはなかった。

 ただ、デルマテオがリオンを探しにアルト海へ渡って来れたのは、リオンがアルト海へ旅立つ前、大陸で生まれた多くの縁を持つ人々に手紙を送ったからだった。


 そして、その手紙を受け取った時、デルマテオはちょうどアルト海で起こる戦いについて頭を悩ませている時だった。


 リオンに出会うまでデルマテオは負けなしだった。国にいた頃は次期近衛兵長と言われ、国から出た後は冒険者として最高ランクに上り詰めていた。当時のデルマテオは思いあがり自分が世界の中心だと傲慢になっていた。


 そんなデルマテオの鼻っ柱を折ったのがリオンだった。リオンの強さはデルマテオが一番理解している。それにリオンは純潔のエルフだ。大国の人間がアルト海の争いに加わるとそれだけで面倒は増える。


 どれだけ考えてもリオン以外に適任者が思い浮かばなかった。考えを固め覚悟を決めたデルマテオはその日のうちにアルト海に旅立った。


 デルマテオがリオンに求めるのは停戦や、派閥への攻撃ではない。どの派閥にも所属せず、公平な立場を貫くことのできる者が会談の機会を作ってもらいたかった。三竦みの派閥争いはどこかの陣営が完全に潰えるまで終わることはない。

 よって争いは泥沼化し、最後に大陸のどこかの国に漁夫の利されるのが見えている。


 それを狙う国も多くいるのが現状で、実際デルマテオが属するザーモンドも目的としてはアルト海の植民地化だった。しかし、デルマテオはそのような帝国主義は持っておらず、むしろその働きをどうにか止められないかと画策していた。

 

 今もなおどこかで争いが生まれている以上、リオンへ協力を仰ぎ、行動するのは早ければ早い方が良い。

 そのため、ラパパの状態が回復に向かっているのであれば、多少無理をしてでも先を急ぐ必要があった。


 しかし、リオンはこういう時、仲間のことを第一優先にするのは知っている。簡単に首を縦に振ることはないだろう。大陸から旅立ち大体二か月くらい経っただろう。それだけ時間があれば戦況は大きく変化しているはずだ。現にティスブルク派閥のクラウティスが強引な攻勢に出ているのをこの目で見た。


 この焦りをこのままリオンに伝えたいところだが、余計にラパパ優先の意志は固くなってしまいそうだ。リオンは戦い自体好きだが戦争は忌み嫌っている。金のない時代は傭兵稼業をしていたようだが、そこで嫌う気持ちに拍車がかかったらしい。


 はじめアルト海に出向いたときは良い休暇になりそうだと吞気なことを思っていたが、そんなわけなかったのだと、この島を訪れて理解させられた。こうして難題を目の前に頭を悩ませ続けるのは中々辛い。


「パドはどうしたい?」


「おらはこの島好きだ。きっとラパパも好きだから、おら達で待ってもいいぞ。」


 リオンの問いかけに誰も予想できなかった返答をする。その意見乗っかるように


「私もそれが良いと思います。デルマテオ様の剣幕は急を要するものでしょうし、私の魔力波動をお教えするので帰ってくるのもそう難しくはない筈です。」


「おら、あの鳥好きだ。脂いっぱいでなかなか食えないから。」


 リオンとデルマテオ以外の意見は残って治療というものに固まっているようだ。デルマテオはリオンの方にちらっと視線を送る。リオンも同じようなことを考えていたようで、その視線に対して小さくうなずいた。


―――――――――――――――――――――――――――


 久しぶりの感覚。世界が揺れ続け、その大いなる力の前には自分がどれだけちっぽけなのか考えさせられる。一艘の船はそんな世界に漕ぎ出した。

 

 岸に立つ見送りのパドンカとシケムの姿がだんだん小さくなっていき、砂粒みたいに海の彼方へ見えなくなった。


「それで、最初はどこに行くんだ。」


 リオンは直感的にデルマテオの意図を感じ取っていた。なかなか言い出せない様子に反して、何か焦って急いでる様子。伝えづらいがリオンに頼まなければどうにもならない相談。ミレアでのダンジョン生活の中でもこんな様子の時は何度かあった。


 「最終地点、グライバイオスに向かう。」


 リオンとデルマテオの久しぶりの冒険は熾烈なものになっていく。


読んでいただきありがとうございます。


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