不戦の願い2
デルマテオが殿の役割をして、怪鳥の攻撃をどうにか受けている。数が数だけに少しの油断も許さない状況だ。
パドンカとラパパの先導で海岸に向かっていくが、足元が歩きづらい事もあり思うように進めない。そうこうしているうちに鳥の鳴き声が頭上で響き渡る。二、三歩進むだけで時間がかかっているのだから、何の縛りもない空を自由に飛ぶ彼らから逃げるなんてまず無理な話だった。
ふらふらと歩くリオンの肩を抱きながら、デルマテオは頭を悩ます。交戦した場合、魔力量の多いリオンが一番最初に狙われるのは明白だ。誰かを助けながら守るというのが一番難しい。仮に必死にリオンを守ったとして、どれだけ耐えることが出来るのか。
いくら考えても答えは出ない。考えに夢中になっていたせいでラパパからの呼びかけに気付くのが遅れた。
「ル、おい、デル!」
「あぁ、悪い。どうしたラパパ。」
「後ろの方から凄い魔力を感じるんだけど、デルの仕掛けってことではないよな?」
「わりぃけど、何にも知らないやつだ。」
考えることに夢中で、背後に迫るとてつもない魔力にやっと気がついた。あの鳥達の攻撃なのか、それともさっき倒したやつらが何か用意していたのか、どちらにせよ自分たちにとっては良くないものだと判断する。
「ラパパ、パドンカ、一旦海に行くのなしで、とにかくあれから離れるぞ。当たったら多分一発で終わりだ。」
「なんとなくそんな気はしてたよ。パド、俺はあっち行くから、パドは反対行けるか?」
「おら走るの早く無いけど、頑張るだ。ここで死ぬわけにはいかねぇ。」
ラパパ、パドンカ、リオンを背負う事にしたデルマテオの三人はそれぞれ違う方向にバラける事にした。
この方が正続確率が高くなるに違いない。
少しして、溜まった魔力が暴発しそうな圧を感じ始める。ミレアにいた頃、ブラールが調整をミスってよくやっていた。
衝撃を全身で受けないよう、そして勢いよく飛ばされた時に制御できるように飛んで体を少し浮かせる。最悪、空を蹴れば大木にぶつかって意識を失うなんて事はないだろう。
デルマテオがちょうど衝撃に備えたタイミングで、眩い閃光が辺りを包む。遅れて衝撃波が広がり、発信源の方では大木が薙ぎ倒されている。
恐ろしいほどの威力。近距離で食らっていたら、どうなっていたのかとゾッとすると同時にリオンと自分にほとんど被害が無いことをホッとする。
ラパパとパドンカも無事だと良いが、と考える。衝撃に伴う爆音のおかげで耳鳴りが止まず、これはしばらく残りそうだなと経験から理解し、完全に全身をデルマテオに預けたリオンが唸るような寝言を漏らしていた。
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サバは祈りの民から報告を受け、風の妖精、つまりエルフの発見を喜ぶ。
そして、それと同時に島のざわめき、アイバドロ、この島ではゴバと呼ばれている臆病者が暴走している事態の対処を考え始める。
場合によっては呪われた宝具を使わなければとも考えるが、それに対する贄は足りていない。仮に祈りの民を使ったとしても不十分な発動になりかねない。
サバは頭を悩ます。神託を遂行できねば神力が減衰してしまう。そんな事をしていたら――
司祭のシケムが焦った様子でサバを呼ぶ。エルフの明らかな衰弱と、キュラスの罪人達がリオンを求めて戦闘しているという報告。
悩んでいる場合ではなかったと後悔しつつ、反省するような猶予がない事から、宝具を用意しシケムの案内でエルフの元へ向かった。
現場は思っていたより悲惨ではなかった。むしろ、兆しが見える。エルフに肩を貸す隻眼の男。エルフの弱々しい魔力の波長に比べ、赤眼の男の方は猛々しい波長を纏っている。
陰から様子を窺い、二人の動向を見ているとアイバドロ達がエルフを喰らおうと動き始めた。
それに気付いた隻眼の男がリオンを支えながら、海に向かって走り出す。仲間もいたようで、指示を出しながら逃げているがおそらくこのスピードではアイバドロの追跡から逃れる事は出来ない。
まだ息はあるが意識がなく倒れている者も多い。これならば贄として十分だろう。不完全な形で発動することにならないで良かったと、安堵しながら宝具を発動させる。
贄はこの辺りで倒れる無垢の人族。対象はアイバドロ。発動した瞬間、宝具は贄である人族から致死量の魔力を吸い上げる。意識がないためその作業はあっという間に終わり、ほとんどの者はここで生命を絶たれる。
宝具に溜まった魔力の量は三分の一程度だが発動には申し分ないだろう。サバはシケムと自分に防御魔法を張ると、宝具を振るう。
瞬間、眩い閃光が辺り一帯を支配し、アイバドロを撃ち落とす。中々強い個体もいたようで、魔力に余りが出るかと思ったがほとんど使い果たしてしまった。
衝撃波が島中に轟き、宝具から出た波動は近くの大木を根から倒すほどの威力だった。久しぶりに使ったため、サバもその威力に驚きながら、エルフの無事を確認するため彼らの向かった方向に進んだ。




