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交錯する使命4

 リオンが怪鳥との死闘を制するよりずっと前、それこそ毒と裂傷によって生死を彷徨っていたのと同じ頃。


 バルインはクラウティスからの攻撃を受けていた。理由はハウマンを隠している疑いと、裏切りをしたティケティス海賊団への報復だった。


 その日はちょうどラパパが交易のために他島へ向かっていて、最高戦力で迎え撃つ事はできなかったが、特に重篤な負傷者を出す事なく追い返すことに成功した。

 ラパパがいない隙をついたのかもしれないが、ティケティス達は個人それぞれがそれなりの練度を持っている。


 アルト海随一とは言えないが、この辺りの海域では負けなしだろう。

 ちょうど、クラウティスの追っ手が置いていった2隻の船を回収し、交易のために利用できるいい手土産が出来たと喜んでいた時だった。


「船長!あれも忘れたやつですかね?」

 全員の一人が少し離れた場所に浮かぶ小舟を指差して、ティケティスに聞く。

「いやぁ、あんな船さっきあったっけな?、って、あれ、近づいて来てねぇか?」

「波のせいじゃないですかね?そんな、ってあれ。」

 明らかに小舟はこちらに向かって進んできている。それもなかなかの速さで。


「伏兵ってやつですかね。」

「いいや、いくら戦術素人のあいつらでも撤退した後に伏兵なんて話はあり得ない。」

「それならあいつは、」

「とにかく見張っとけ。俺は一旦ゴド達の様子確認しなきゃならねぇかな。なんかあったらプアかタマリに指示を聞け。」

「わかりました!」


 不穏な空気を感じながらも正体不明の一艘の船に左右されていては話が進まない。ハウマンの所在と、ティケティス海賊団がここバルインにいる事がバレた以上、今後について話し合うべき事は山積みだ。


 ティケティスが考えていたより、クラウティスはハウマンの所在を探すのに手間取っていたようなので、それまでの間用意した色々な準備含めて、ティケティスが立ち止まっている暇などなかった。


 ティケティスが離れ、少しした後船内では非常事態が起こっていた。

「タマリさん、ダメです。プアがどうにか粘ってますがこのままでは、」

「ティケティスは伝えに行った!?」

「はい!あの後すぐ、」

「粘るしかなさそうね。武器じゃなくて盾になりそうなものかき集めて甲板に集まれって言っといて。」

「はい!」


 甲板では激しい戦闘。ティケティス海賊団の中ではラパパ、ティケティスに次いで強いプアが防戦一方だった。

「カカカッ、猫の獣人なんてあいつ以来だな。お前さんも中々やるね、」

「……」

「なぁ、もっと楽しそうにやらねぇか。せっかくの戦いなんだ。せめて一言くらいなんか言ってくれよ、」

 プアは焦っていた。自分がここまで圧倒的に翻弄されている、つまり周りで見ている船員達が束になってかかっても瞬殺だろう。


 プアの目測ではティケティスとラパパが二人がかりでどうにか互角くらいだろう。プアの眼の良さと俊敏さのおかげで致命傷になる手前でどうにか耐えていられる。

 また、相手は戦闘を楽しむためにおそらく力を抜いている。どうにか時間稼ぎを、と思ったところでプアの後方から礫が飛んでくる。


 正体不明の隻眼の剣士は、その礫を全て剣で弾きながら後ろに下がった。

 礫をいなされた事で、「マジかよ、」というタマリの声が漏れている。タマリが助太刀に来たという事は、ティケティスが来るのももうしばらくだろう。


 それまでの間、致命傷を避けてどうにか耐えれば自分たちの損害は、

「お前さん、余計な事ばっかり考えて、集中切れてるんじゃね、」

 一瞬だった。


 プアは沖で停留する船から外へ吹き飛ばされる。目の前に来たと思った時には宙を待っている。その様子をタマリが理解した瞬間、タマリは脇腹に蹴りを受けて、船首の方に飛ばされた。


 隻眼の男が手を抜いていた事なんてわかっていたはずだったが、ここまで実力差が離れているとは思いもしなかった。村で1番、町で1番だった俺がティケティスに負かされ、ラパパに負かされ、最近までいたエルフの男には立ち向かうことすら足がすくんで出来なかった。

 空に投げ出される間、プアは何故かリオンを思い出す。彼なら若しくは。そんなふうに目の前の敵を分析する。


 底知れなさだけ見ればあのエルフの男の方が優っているようにも思える。

 甲板に立ち、船員達を見回し笑っている男を睨みつけたまま、プアは海に落ちた。


「あぁ、ここにもいないか。リオンの野郎はよ。」


 タマリは耳を疑う。蹴りを受けた痛みや、一瞬にしてプアが吹き飛ばされた驚きよりも、隻眼の男がつぶやいた一言に1番の衝撃を受ける。


「あいつがいなきゃ、」

 これまでヘラヘラとした様子でいた彼が一度下を向く。何か思うところがあるようだった。


「あんた、リオンの知り合いなの?」

 蹴りの痛みでうまく呼吸が出来ないタマリは、たどたどしくではあるが隻眼の男に質問を投げかける。

 単純な疑問と、時間稼ぎの二つの理由からだった。


「お嬢さん、リオンの事知ってんの??あの、偏屈エルフの事をさ、」

 

 ヘラヘラとした様子がより一層強まり、胡散臭いほどの笑顔を浮かべてタマリの方に歩み寄る。


「ちょ、っ、ちょっと、そこから近づかないで!何されるか分からないんだから、聞きたい事があるなら武器を置いて離れたところにいなさいよ!」

 タマリは自分で言っていて恥ずかしくなるほどの、惨めな命乞いだったが、隻眼の男はそれに抵抗する様子は一切なく、言う通りに動いた。


「もしあれだったら両手足くらい縛っても良いけどね、」

「いやっ、そこまでは、」

 とまで口に出して、相手がそこまで言うならやってやろうじゃないかと、なめられたと感じたタマリは一番丈夫な縄で縛りつけた。


「これで、十分かな。お嬢さんは。」

「そのお嬢さんってやつやめなさいよ。まずは自己紹介からしましょう。私はタマリって名前があるの。あなたは?」

「デルマテオ。みんなはデルって呼ぶ。リオンとは昔ダンジョンに潜っていた仲さ、」


 この日、クラウティスの襲撃や、今後に向けてのさまざまな舌戦が繰り広げられる中、今日1番の驚きがティケティス海賊団とバルインの地を襲った。

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