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ミレアでの懐古談1


 迷宮都市ミレア。太古から存在する迷宮の一回層に多くの者が住み、時を経て都市となったこの場所では、地下に無限と続く冒険を求めて、多くの来訪者が現れる。


 名もない村から、夢を握りしめてやって来たブラールは、迷宮都市の壮観さに息を呑んだ。


 この街唯一の外へ繋がる門、ファディアの前にはブラールと同じような若者が長蛇の列を成している。


 入るのにも出るのにも多くの関税を取られないミレアでは、彼らのような冒険者だけでなく、商人や、傭兵、貴族の私兵など、様々な目的を持って訪れる。


 ダンジョンが目的でなくとも、大陸で五つの指に入るコロシアムや、ダンジョン産の貴重な魔道具や、宝を目当てに世界から、王族、貴族、大商会の姿を見る事も珍しく無い。


 門を見上げるブラールはやっと入れると、溜まった眠気や疲れが吹き飛ぶくらいの興奮が湧き出す。今はちょうど列に並んで三日目。長い戦いになると覚悟をしていたため、思っていたより早く来れたと不思議な感覚になっていた。


 目の前に並んでいた人の山が、あっという間にさばかれて行く。


「ミレアに入る目的は?」

「ダンジョンを踏破するために。」

「過去、ミレアに入った経験は?」

「無いです。」

「確認のため、水晶に手を置いて、」


 微弱な白い光を放つ水晶に触れる。徐々に水晶の色が青っぽく変わって行く。


「はい、大丈夫。じゃあ500ゴラをここに。」


 握りしめていた100ゴラ硬貨を5枚入れる。


「はじめてらしいから、軽く説明をするよ。まず、入ってすぐは一回層だから、ほとんどが住居やら商業エリアになってる。低レベルのモンスターがたまに湧くけど、基本衛兵が対処するから大丈夫。

 都市内、つまり二回層までの中では殺人は禁止、略奪、強姦も犯罪対象になる。発覚した場合奴隷落ちか死刑だから、ちゃんと守るように。

 二回層は、基本的にコロシアムと貴族の別荘があって、北の方にギルドがあるから冒険したいなら最初に行くのはそこが良いかな。

 ギルドでは、宿、仕事、仲間の斡旋をしているから、登録料かかるけど何もわからないなら頼って損はない。これくらいかな。質問あるか?」


 慣れた様子で、時々メモのようなものに目をやっていたがある程度の予備知識は教えてもらえた。


「あ、えっと、」


 何が質問になるのかすらわからず、困惑する。そもそも、さっきの説明の段階ではまるで、三回層からは殺人やらなんやらは合法と言ってるようなものじゃないかと、衝撃を受けたせいでうまく整理がついていなかったのだ。


「なんかわからない事あったら、衛兵か自警団。さっき言ったギルドに聞けばいい。簡単な質問くらいなら金は取られないからな。じゃあ、いいか?」


「はい」と、答えた時にはもう後ろに並んでいた人の応対に入っていた。面食らったブラールだったが、ずっと夢見た都市迷宮に今いるんだという昂揚感が実感に変わり、目に映るすべての景色がキラキラとしたものに見えてくる。


 人に流れに押され、門をくぐった次の瞬間には今自分がどこにいるのかわからないくらい、あっちこっちに体が持っていかれる。


 人酔いと、ぐるぐる動かされた気持ち悪さを落ち着かせるために、どうにか人波を抜けるために力を振り絞り光の指す方へ駆け込んだ。


 はじめて見る世界。ブラールの想像の域なんて簡単に飛び越えて、ブラールの期待してたものなんてとてもちっぽけに思えるほど、魂が震える光景がそこには広がっていた。


「おい、どけよ、」

「何やってんだよこの獣人はよ、」

「蹴り飛ばすぞ!」


 門の前で立ち止まって感激に震えていたブラールは、ドンッと強い衝撃を背後から受けて、門から迷宮につながる大階段を転がり落ちていく。


「何するんですかー!!」


 ブラールの嘆きは深いダンジョンの暗闇に溶けて消えていった。


 勢いよく転がり落ちたブラールは迷宮都市の中央広場で止まると、注目の的にされた。みんなお上りさんの田舎者を揶揄うのが好きなようだ。


「あらあら、犬の獣人のくせに転がるしか芸がないなんて、飼い主に捨てられたのかしら、」


「ドワーフより土臭い奴がいるなんてな、ひょっとするとあいつらの言う地の神かもしれないぞ」


「おい、お前土臭いって、ガハハハ」


 最初は周りの視線など気にならず、迷宮都市の誇る螺旋状の建築や、群れのように成した建造物、隙間なく密接しあう建物に意識を全てとられていた。


 そんな空気の読めていないさまも、馬鹿にして笑う彼らからすると格好の餌だ。


 周りの嘲笑に気づくかぬまま、ブラールは門兵に聞いたギルドへの登録をするために地下に進む方向を探しに向かう。


 陽が届かないミレアではドワーフ達から灯りの魔道具を大量に買っていて、街中は光に溢れている。朝や夜という概念が無く、眠らない都市として街の活気は落ち着く時間がない。


 時間の感覚は地域ごとに設置された時計台とその鐘によって認識され、数日いるだけでミレア特有の時間感覚に支配されてしまう。


 ブラールは街中をあちこち見た後、結局地下への通路が分からず、衛兵を頼る事に決めた。道探し兼観光をしていた時は何度も衛兵の姿を見たはずなのに、いざ衛兵を探すとなると一向に見つからない。


 幸い、暗くなるという事が無いため、ブラールの体力が尽きるまでという制限時間が来なければ探す時間はかなりある。

 とは言っても、ミレアに来るまで、ミレアの門にたどり着くまで、そして、慣れない環境に来た事でブラールは自分でも思っていた以上に弱っていて、体はかなり限界が近かった。


 ブラールはこの事をまだ自覚していないが、これも時間の問題だろう。仮に衛兵を探せたとしてもすぐにギルドへ辿り着けるかという問題もある。


 道の途中で意識を、なんて事になったら心配を装った奴らに見ぐるみ剥がされて終わりだ。


 街中は魔道具に照らされて明るいが、その分暗闇も深く、濃くなる。地下都市なんて裏側を少し見れば犯罪の温床だと言うことは、この街に足を運ばなくてもわかる話だ。


 当然、この事はブラールも知っている。そして、路地や物陰から都会に憧れた田舎者をどう利用してやろうかと企む人間が監視しているのも、直感的に感じ取っていた。


 つまり、ブラールの本能がブラール自身に疲れを感じさせまいと働いているのだろう。隙を見せるのは最後の最後だけにしようと。


 そんなブラールな気持ちに反して、衛兵の発見も、地下への行き方もないまま、時間と疲労だけが募っていく。ブラール自身自覚は無かったが、この時ブラールがミレアに来てから外の時間に直すと二晩と半日経っていた。


 驚異的な集中力と呼ぶべきか、計り知れない鈍感さと呼ぶべきか。どちらにしろ極めて高い精神力を持ち合わせている事は確かだった。


 しかし、それもここまで。ブラールの意識は魔道具の効力が失う時と同じように、耐え難い疲労感が一瞬にして全身を支配しそれと同じくして堪えようのない暴力的眠気が襲いかかる。


「これじゃ、だめ、ぁ、」


 倒れ込むブラールを見て、死を予感した者いるだろう。それほどまでの突然で急激で心配を掻き毟る果て方。


 地方都市ミレアにて力尽き、果てて倒れる事が意味する事は一つ。命以外の全てが無くなると同義だろう。何も残らない。それはブラールにとって死にも等しい行いだった。


 だからこそ、動けるはずのない脳を動かし、身体中に強制的な命令を送る。この場からハナレロ、ダレモイナイ、ソノバショマデ。


 ブラールは駆ける。正しくいうならブラールだった彼は獣のように涎を垂らしたまま、道行く視線を気にする素振りもせず、意識のあったあの時は中々出会えずにいた衛兵達も、なぜかこの時はよく見かける。


 しかし、衛兵もダメだ。誰もいない場所でなければ。


 ブラールは、駆ける。最後に意識と呼べるギリギリのそれが見た景色は二匹の魔物を切り裂いた所までだった。

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