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Re:ヒールオブザクリーク〜少女回復戦記〜  作者: 川口黒子
序章 首都陥落
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7話 歩める道は1つだけ

 ジェシカは職員の行き交う廊下を通り、首相らのいる部屋へと足を運ぶ。扉の前に立つと、2回ノックした。


「どうぞ」


 低い女性の声がした。


「失礼します」


 扉を開けて中に入る。ソファが前方に向かい合うようにして2つ並んでおり、その間にテーブルが置いてある。そのソファに座りながら書類をまとめているのは、総括秘書のアンナ=シュミットである。その奥には重鎮がよく使う机と椅子があり、そこに首相のトーマス=シュナイダーが座っており、またトーマスの背後の窓辺で外務大臣のヘレン=リヒターが外を眺めている。


「……それで、どうして我々をここに集めたのかね?呼んだのが君では無かったら、クーデタでも起こすんじゃないかと勘繰ってしまうところだよ」


 トーマスは手に持つライターを弄りながらジェシカの方を見る。彼は政治的摩擦や軍の思惑に特に敏感であり、それに的確に対処してきたからこそ、今の地位を築いている。政治における利害調整の卓越さにおいて、彼の右に出る者はいない。


「用事があるなら早く済ませてくださいね。ベリンが陥落したことでやるべき事務と集めるべき情報が山のようにできてしまったので」


 アンナはそう言いながらテーブルの上に置いてある書類に1つ1つ目を通して何やらメモを書いているようだ。

 アンナの役職である総括秘書とは、その名の通り秘書を総括する立場のことである。秘書は参謀を補佐する者たちのことを指し、参謀が作戦を練るために必要な情報を集めたり、彼らの事務の手助けをしたりする。

 アンナは秘書的事務能力に優れているが、それ以上に情報収集能力がずば抜けており、彼女がいなければ成り立たなかった作戦は数多くある。


「ベリンの陥落……戦争が始まった当初は考えもしなかったことだ。多くの市民があの虐殺兵器に殺されたが、もしジェシカ大佐がベリンの駐屯地にいなければ、今頃帝国は壊滅していただろう。改めて、礼を言いたい」


 窓の外を見ていたリヒターはジェシカの方に身体を向けると深々と頭を下げた。

 彼は語学に秀でておりまた誠実な性格のため、いく先々の外国で好印象を受けてきた。大戦勃発の瞬間まで彼は他国との交渉を続けていたが、ブリッシュ王国の国王ランス1世が帝国のスパイに暗殺されたことで戦争は始まってしまった。


「頭を上げてください。私は当然のことをしただけです。……今回皆さんに集まって頂いたのは、私がどうしてベリンの駐屯地にいたかの説明と、それに対する私の疑問です。このことは他言無用でお願います」


「疑問?君は確か北方戦線の援護のために引き抜かれたのではないのかね?あの時は北方のグリル戦線が崩壊していたから、すぐにでも立て直せる人材が必要だった。どこに疑問の余地があるんだい?」


「私が疑問に思っていることは、参謀総長はどうしてグリル戦線近くの作戦本部ではなく、ベリンの駐屯地に私たちを派遣したのかです。……上官の命令ですので従いましたが、ベリンから戦線まではかなりの距離があります。さらに、我々がベリンに到着した翌日、あの"雨"が降りました。偶然にしては、あまりに出来すぎている」


「……ジェシカ大佐、貴女はまさか参謀総長が意図的に命令したと言うのか?」


「杞憂ならばよろしいのですが、敵は御前会議のある日を把握していました。でなければあのように大胆な降下作戦を実行するとは思えません。そしてご存知のとおり、御前会議の存在を知っていたのは皆様と近衛部隊だけでした。私は近衛部隊からの連絡で初めて知ったのです。つまり……」


「我々の中に内通者がいる、ということですね。そしてその可能性が最も高いのが参謀総長であると」


 アンナは動かしていた手を止め、ジェシカの方を向いて座り直す。


「他言無用とおっしゃっていましたが、私の直属の上司が誰だか忘れましたか?私と参謀総長が結託している可能性もあるのですよ?」


「いえ、それはないと考えています。貴女は少なくとも、"戦争に勝つ気でいる"」


「……私のことを、よく理解していらっしゃいますね」


 アンナは不敵に微笑む。ジェシカは目を逸らしつつ、話しを続けた。


「私はむしろ、ドミニク将軍の関与を疑っています。彼と殉職したジーク将軍は野心家であり、互い対抗心を持っていて、それが海軍と陸軍の不和を招いていることは、大っぴらには言えませんが皆知っています。ジーク将軍は回復(ヒール)が使えるので、雨で怪物化させれば殉職という形で始末することが可能です」


「……ドミニク将軍とジーク将軍のことに関しては、私の悩みの種でもあった。彼らは自身の持つ軍のみで作戦を遂行することにこだわっている。陸は陸、海は海、実際に彼らはその領域において多大なる戦果をもたらした。だが、陸と海の連携が上手くいかず、失敗した作戦も数多くある。敵国の陸海相互援助システムが進化するにつれて敗北を重ねることが多くなり、彼らも焦りを見せていた。……しかし、だとしても、陛下を危険に晒すような真似をあのドミニクが行うとは思えないのだ……」


 ドミニク将軍とジーク将軍、そしてトーマス=シュナイダー首相は大戦勃発以前から共に帝国を、皇帝を支えてきた同志でもある。たとえ馬が合わなくとも、彼らには共通の決意があったのだ。


【帝国を恒久の繁栄国とする】


 だがこの戦争に勝たねば、恒久どころか繁栄すら危うくなる。ドミニクとジークも陸軍と海軍が連携することの重要性を理解していないわけではない。だからこそドミニクはジークを殺し、次の将軍に自身の息がかかった者を推薦することで、陸海両軍を掌握しようとしているのかもしれない。


「……もちろん今述べた考察は全て私の意見です。証拠はありませんし、疑うのも失礼かと思いましたが、私自身命が危険に晒されたこともあり、一応報告しました」


「そういえば、君も回復(ヒール)が使えたのではなかったかね?あの場にいてどうして無事なのかい?」


「私の回復(ヒール)は少し特殊ですので、恐らく助かったのかと。ですが一般的な回復(ヒール)を使う市民はただ1人を除いて全員怪物になりました」


「今回の救出作戦を立案し、参加した少女のことか。我々の命の恩人だな」


「彼女は父から受け取った特殊な傘のおかげで雨の直撃を防ぐことが出来ていました。父ボードウィン=アルスは何らかの形で雨に関与していると思われます」


「傘とボードウィン=アルスの調査に関しては私が引き受けましょう。結果が分かり次第あなた方に報告します」


「ではそれと同時に、貴女の上司である参謀総長の監視もお願いできますか。トーマス首相とリヒター大臣殿にはドミニク将軍の動向に注意して頂けると幸いです」


「ふっ、我々に命令するとは、随分と偉くなったものだね、

 死に鳴く啼鳥(グレイバンシー)


 トーマスは机から煙草を取り出しライターで火をつける。


「だがよかろう。君の懸念には私も同意する。彼らには秘密裏に監視を付けておく。君たちもそれで良いかね?」


「はい」

「問題ありません」


 リヒターとアンナは同時に返答する。


「場を設けて頂いたこと、感謝申し上げます。それでは、失礼致しました」


 ジェシカは敬礼し、部屋を退出しようとする。


「待ちたまえ」


 それをトーマスが引き止めた。


「フラン=アルスとレベッカ=ロンドブルク、並びに本作戦に参加した全ての兵士諸君に我々からの感謝の言葉と、皇帝陛下から救国勲章が授与されると伝えておいてくれ」


「はっ!有り難く頂戴致します。隊員もきっと喜ぶでしょう。では改めて、失礼致しました」


 扉を開けてジェシカが退出する。トーマスは煙草の火を消して立ち上がった。その顔には悲壮感が漂っている。


「……首都を失った国家が、果たして戦争に勝てるのだろうか。これ以上帝国の維持のために戦争という業火に国民を焚べ続ける意味が、果たしてあるのだろうか」


「貴方にしては、弱気な発言ですね。トーマス。確かに首都は陥落しましたが、幸い食糧を生産する農場と加工場、そして主要な軍事工場と資源採掘場は帝国の中部にあり、依然として侵略されていません。それに北方戦線も一部穴が空いたに過ぎず、ベリン侵攻は局所的なものなので兵站が間に合っていません。我々と皇帝陛下が今ここにいる以上、敵の短期決着作戦は失敗したのです」


「……アンナ秘書、今日の貴女はよく喋る。内心恐怖したのではないか?突如として空を覆い、瞬く間にベリンを地獄へと変貌させたあの"雨"に」


「ヘレン、貴方は私が臆病だと言いたいのですか?」


「そういうわけではない。ただ貴女にもそういった人間らしい心があることを期待しただけだ」


 アンナとリヒターは互いに睨み合う。


「……よさないか、君たち。我々まで対立してしまったら本当に帝国は瓦解するぞ。今はこの難局を乗り越えるために団結し、耐え忍ぶのだ。必ず、転機は来る」


 トーマスはそう言いながら扉横の棚の前まで移動し、中から自身のペンを取り出す。


「……それが帝国にとって有益なものになるかは、誰にもわからんが」


 廊下から聞こえる少女の声に耳を傾けながら、それをポケットに入れた。



 ▲▽▲▽▲



 役所の中へと足を踏み入れた私は、まず受付にいた女性職員にジェシカさんがどこにいるのか聞いてみることにした。


「ジェシカ様なら2階の会議室にいらしていると思いますよ。あそこの階段を上がって見えた廊下を真っ直ぐ進めば会議室と書かれた扉があるのでそこが会議室です」


「分かりました。ありがとうございます」


 私は早速言われた階段を登り、扉を見ながら廊下を進んでいく。


(えっと、会議室、会議室……あった!)


「うわっ!」


 会議室の前で足を止めると、背後から誰かに押された。振り返ってみると、書類が床に散らばっており、さらに軍服を着た男性がその後ろで尻餅をついていた。恐らく私が急に止まったせいでぶつかってしまったのだろう。


「す、すいません!」


 私は慌ててしゃがんで書類をかき集める。


「いやいや私もちゃんと前を見ていなかったよ。すまないね」


 彼も体勢を整えて書類を集め始める。


「会議室に入りたかったのかい?だったら今はやめた方がいい。お偉いさんたちが話し合いをしているからね。終わるまで待った方がいい。はぁ……私も早くアンナさんにこの書類を渡して外の大騒ぎに混ざりたいよ」


 軍人は愚痴りながらも動かす手は止めない。


「あの、ジェシカさんが会議室にいると聞いたんですが……」


「そうなのかい?あの人ならさっきこことは別の階段で1階に降りていくのを見たよ」


「本当ですか?!ありがとうございます!」


 私は集めた書類を軍人に手渡し、先程使った階段を降りて1階に戻る。すると丁度役所から出ようとしているジェシカさんの姿を発見した。


「ジェシカさん!」


 名前を叫んだが気づかなかったらしく、そのまま出て行ってしまう。私は走って追いかけた。


「ジェシカさん!!」


 外に出て、私はもう一度名前を叫ぶ。すると前方にいたジェシカさんは声に反応して振り返り、私のところにまで来てくれた。


「どうした?私に何か用か?」


「はい。あの、少し相談したいことがあるんです。なので……」


 私は辺りを見渡す。ここはレベッカのいるテントに近い。もし万が一見つかったら大変だ。どこか2人きりで話せる場所のほうがいい。


「……どうやら人に知られたくない相談のようだな。ついて来い。有難いことに役所に私の部屋が用意されている。そこに行くぞ」


 私の考えを察してくれたらしく、私たちはジェシカさんの部屋に向かうことになった。役所に入って早速部屋に行くのかと思いきや、ジェシカさんは受付の前で立ち止まった。


「どうかいたしましたか?」


 対応したのはさっきのお姉さんだった。


「私に当てがわれた部屋の鍵をくれないか。急用があって貰いそびれていたんだ」


「かしこまりました。……どうぞ。3階にある第2執務室の鍵です。返却の際は受付までお越し下さい」


「分かった。ありがとう」


 ジェシカさんは鍵を受け取り、今度こそ部屋へと向かう。3階に到着して第2執務室と書かれた扉の前に来る。ここは廊下の奥のほうなのであまり人が来ず、辺りは静寂に包まれている。鍵を開けて入室し、私たちは適当な椅子に座った。


「いったい何の相談だ?私ではなくレベッカのほうが親身になって考えてくれると思うぞ」


「いえ、これはレベッカには知られたくない話なんです。私は、私の目的のために、軍の将校になりたいと考えています。ですので、その方法を教えてもらいたいんです」


「……ほう、その目的とはなんだ?」


「もうこれ以上、戦争を悲惨なものにさせないこと。父を探し出して全ての秘密を話してもらうことです」


「これ以上戦争を悲惨なものにさせない、か。つまり、お前は戦争を終わらせようとしているのか……自惚れるなよ。ただの人間1人が終止符を打てるほど、戦争は甘くない」


「……はい。私1人の力では戦争を終わらせることなど出来ません。特にこの戦争は怨恨が重なって歯止めが効かず、国家が限界に達しない限り止まることのない暴走機関車へと成り果てました。ですので私は、この機関車に轢き殺される人間を少しでも減らしたいんです」


「どうやるつもりだ?」


「それを貴女から学びます」


「———!ふっ、はははっ!やはりお前には才能がある。戦争を生き抜く才能がな」


 私はジェシカさんが声をだして笑う姿を今日初めて見た。


「その才能を帝国のために使ってくれるというなら、私が反対する理由は無い。だが、お前が士官学校に通っている間に戦争が集結する可能性もあるぞ。最も悲惨な形でな」


「……」


 やはり一人前の将校となるには長い時間を必要とする。大戦末期となりつつある今、私に残された時間は少ない。


「しかし、1つだけ方法がある。隣町のヒンデンにある帝国軍年幼学校と呼ばれる学校を卒業することだ」


「帝国軍年幼学校……?」


「そこは満13歳以上、15歳未満の子どものみが受験することができる。倍率は非常に高いが、そこの卒業生は"年幼組"と呼ばれ軍内での昇級がしやすくなる。それだけではなく卒業した者は約半年間、随隊訓練生として軍隊に参加し作戦立案の現場に立ち会うことができる。お前にはうってつけの制度だ」


 確かにその制度を活用すれば半年という短い期間の中ではあるが軍隊での活躍の機会が得られる。隋隊訓練生が上官に向かって意見ができるのか不安だが、必要があればやるしかない。そのための力もつけていく必要がある。


「本来なら5年かけて卒業する学校だが……半年、半年以内で卒業しろ」


「え!?そんなこと出来るんですか?」


「卒業試験に合格さえすればいつでも卒業できる。もちろん生半可なものじゃない。逆に留年する奴もいる。もしお前が半年以内に卒業できたら、お前の隋隊先に私の大隊を推薦しよう。第1回復(ヒール)大隊、精鋭中の精鋭だ。そして恐らく我が大隊は、半年後首都奪還を命じられる。そこでお前の力を存分に発揮しろ」


 これ以上ないほどの好条件。もちろん入学出来なければ意味が無いし、入学したとしても期間内に卒業出来なければジェシカさんの大隊に入るのは不可能だろう。勉学には自信があるが、それでも受かるかはわからない。


 だがこのチャンス、絶対に逃さない。


「分かりました。私はその学校に入学します」


「よし、ならば———


「ちょっと待てよ!!」


「———!!」


 私は扉のほうに勢いよく首を回す。そこには困惑した顔のレベッカが立っていた。


「れ、レベッカ……どうして……」


「……腕相撲大会で優勝したから、その報告をしようと思ったんだ……そしたらテントにまだ戻ってきてなくて、丁度役所から来た軍人にお前の居場所を聞いたんだよ……それで役所にいるって言うからそこに行って、受付にどこにいるか尋ねたら、ジェシカさんとここの部屋を使ってることを教えて貰ったんだ……」


 声が震えている。怒っているのか、それとも悲しんでいるのか、それともその両方なのか……どれにしたって、レベッカに辛い思いをさせている事実に変わりはない。


「どうして……どうして嘘ついたんだよ!私と一緒にじいちゃんの家に行くんじゃなかったのかよ!軍に入りたいんだったら、正直にそう言ってくれよ!」


「…………ごめん。レベッカを巻き込みたくなかったから」


「巻き込むってなんだよ……私は一度たりともお前から被害を被ったなんて思ったことないぞ!私はいつも私の判断でお前に付いていったんだ!お前と友達になったのだって、私が友達になりたくて声をかけたんだ!私はフランと一緒にいられるならどこだって文句は———


「レベッカは全然わかってない!!」


「———!」


 私は立ち上がり、レベッカの前に行く。こうなったら、何とかしてレベッカを説得しなければならない。


「私だって、この決断は私が私のためにしたものだよ!レベッカを巻き込みたくないのだって、レベッカに苦しい思いをして欲しくないっていう、私のエゴだよ!……今だって辛い思いをさせてるのはわかってる……だけど、私がこれから行く道は、常に死と隣り合わせ……そんなところにレベッカを連れていきたくない、連れていきたくないんだよ!」


 レベッカは一瞬驚いた顔をして一歩後ろに下がるが、すぐに歯を食いしばってニ歩前に出る。


「わかってないのはお前だフラン!!フランが私のことを心配してくれているのは十分理解できる。だけど、心配なのは私もなんだよ!親友が戦場に行って死ぬのをじいちゃんの家でずっと待ってろって言うのか!そんなの我慢できない!フランにはフランなりのエゴあるなら、私にも私なりのエゴがあるんだよ!」


 互いに一歩も譲らない。どちらも相手のことを想っているからこそ、ここで引くわけにはいかない。だがしかし、私たちが歩める道は1つだけ。選択しなくてはならない。その道を。


「レベッカ!お願いだから言うことを聞いて!」


「フラン!お前が軍に入るなら、私も絶対軍に入る!」


「待て。お前たち。一旦落ち着け。自分の意思をただ相手にぶつけるだけでは問題は解決しない。そこに座れ」


 私たちは2人並んで床に正座させられた。


「フラン、今一度聞くが、お前は年幼学校に入学して、軍に所属するつもりでいるんだな?」


「はい」


「そしてレベッカも、同じく軍に所属して、フランの側で戦いたいと」


「お……はい」


「だがフランはレベッカに戦場に出て欲しくない」


「はい」


「互いに譲らないのであれば、妥協点を探す他ない。まずフラン、分かってはいると思うが、戦場に出る出ないは本人次第だ。それに戦局が悪化している現状、遅かれ早かれ強制的に徴兵することになる。レベッカの潜在能力を鑑みれば、前線に送られる可能性は十分にあるぞ」


「……」


「次にレベッカ、お前はフランを側で守ってやりたりようだが、お前とフランでは戦場における役割が違いすぎる。もしお前たちが私の隊に来たのなら、レベッカは前線、フランは後方だ。お前に守れる範囲は限られている。フランもレベッカも、己の身は己が守るしかない」


「……」


「……戦術、作戦、戦略の領域において、そのどれもが互いに影響し合い、そして"勝利"を目的としている。戦略が疎かになれば多くの国民が血を流し、作戦が疎かになれば多くの兵士が無駄死にし、戦術が疎かになれば仲間が孤立し倒れていく。そしてそれを繰り返せば、戦争に負ける。フラン、レベッカを死なせたく無いのなら、全ての領域を掌握しろ。レベッカ、フランを守りたいのなら、全ての戦場で勝ち続けろ。そうすれば、お前たちは"生き残れる"。軍内でも、戦場でも。戦争は、"生き残った者"が勝者だ」


「「………」」


 もしレベッカが戦場に出て、無茶な作戦に参加させられたら、彼女が死ぬ確率は格段に跳ね上がる。そうならないためにも、より良い作戦をたてる必要がある。私が、より良い作戦を立てられるようになる。私が、より良い作戦を実行できるようにする。

 そのために、私には"力"が必要だ。権力と実力が。


「私は軍に行く。レベッカのことを守るために」


「私も戦場に行くぜ。フランのことを守るためにな」


 互いの"道"が今、ようやく合致した。



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