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第二十話 化け物退治 in 夜の校舎①

 街が寝静まり、猫たちの喧嘩の音が響き渡っている。昼に一雨降ったためか空気がジメジメしており、濡れた土の匂いがわずかに感じる。


 散り終わった桜には青々しい葉っぱが生い茂り、黄色のたんぽぽは白い綿毛に変化している。


 春の浮かれた陽気は鳴りを潜め、雨音がヒタヒタと近づく時節。


 月光に照らされたアスファルトよりも、陸の顔は暗かった。校門前で音流を待っているのだが、時間になってもまだ姿を見せていない。周囲をキョロキョロ見渡しては、ビクビクする姿はまさに不審者そのものだった。いや、不審者に見える要素はもう一つあるのだが。


「コンバンワです!」


 ようやく姿を見せた音流に、陸は安堵の表情を向けた。


「こんばんは。遅かったじゃん」

「すみません。家をこっそり抜け出すのに手間取ってしまいました」

「え? 親に黙ってきたの?」


 陸は一応母親に出かけることを伝えていた。理由についてはウソをついているが、心配をかけないようにしている。それに対して、音流は諦めたような笑みを浮かべながら


「ウチの親は怒声の嵐になるに決まってるじゃないですか」と言った。

「心配するだろ」

「あの人達はいい親になろうとしているだけで、ウチのことを本当に心配していませんよ」


 陸は何も言えなくなり、視線を下へと向けた。音流が自分の親にいい感情を持っていないことを察したて、陸自身はそれを理解できない。両親のことが好きな陸にとっては、踏み込めない、踏み込みたくない領域だった。


 でもどうしても何か一言を掛けたくてボソリと次のように言った。


「……日向にもしものことがあったら、日向ぼっこが今後一生楽しめなくなんだけど」


 恥ずかしいせいで羽虫のような声だったが、音流は聞き逃さなかった。大きく目を見開いた後、優し気に目尻が下がる。


「それは困りますね。せっかくできた日向ぼっこ好きの同志ですから」


 まるでプロポーズの返答をするような、幸せに満ちた声音だった。陸はさらに恥ずかしくなり顔を背けた。そんな陸の仕草が面白かったのか、音流は鈴のように笑った。


「うん、ウチももうちょっと頑張って生きてみますね」

「生きること自体を頑張るの?」


 それは陸にとっては軽口のつもりだったのだが、音流は一瞬動きを止めてしまった。しかしすぐさま「あはは、そうですね。おかしい話ですよね」と笑い飛ばした。


「そういえば青木は? 誘うって言ってたよね」

「誘ったんですけど、用事があるからと断られてしまいました。鼻をぶつけたみたいで真っ赤でした。本人には申し訳ないですけど、少しかわいかったです」

「そうなんだ」

「かわいいといえば、ですよ。どうですか。今夜のウチは自信作です」


 音流はスポットライトの下に躍り出る主役のように、電灯の下に移った。


 7分袖の白いブラウス。胸元には猫のキャラクターがプリントされており、袖口と首元には赤の差し色が入っている。下は目が痛くなるほどに赤いブリーツスカートだ。


 化粧は普段よりも濃い目に施されて、多めにはたかれた白いパウダーはどこか仮面のような不気味さを醸し出している。口紅は目に焼き付くほどに赤色がきつい。全体的に、白と赤の極端なコントラストが印象的だ。


「髪型がおかっぱで肩ひもがついていればトイレの花子さんに見える」


 陸が正直な感想を告げると、音流はこれみよがしに頬を膨らませた。


 慌てて「もちろんかわいいけど」とお世辞を付け加えると、音流は少しだけ目尻を下げた。


「巫女さんイメージなんです。トレイの花子さんではなく、です」

「なんで巫女さん?」

「巫女さんと言えば化け物退治。化け物を見つけたら塩をぶつけて成仏させてみせます」


 音流はシャドーボクシングの振りをしたあと、回し蹴りをしたのだが全く脚が上がっていなかった。


 へなちょこキックを前に陸は


「いや、成仏させる前にまず逃げようよ」と弱々しく反論したのだが

「先手必勝で攻撃すれば大丈夫です!」と音流は勢いよく胸を叩いた。


 陸としては不安はぬぐえないのだが、音流は話を変える。


「同志は真っ黒ですね。泥棒さんみたいです」

「泥棒、か。間違ってないかも」


 派手に目を引く音流の格好に対して、陸の格好は地味そのものだった。いや、不審という面でいえば目立っているかもしれない。全身を黒で包んだコーデであり、明らかに隠れることを目的にしている。


 陸は音流とは違って、『化け物と戦う』のではなく『化け物から逃げる』ことを想定しているのだ。


「えっと、その、カッコイイです、よ……?」

「無理に褒めないで。居たたまれなくなる」

「……スミマセン」


 気を取り直して、一歩進む。


「そろそろ行こう。さっさと終わらせたい」

「そうですね。行きましょう。いざ侵入! 入っちゃいけない夜の校舎!」


 音流は意気揚々と宣言するや否や、走り出した。陸はその後を数歩遅れて追いかけた。


(なんでこんな時だけ動けるの?)


 ジムで運動音痴をさらした音流だが、この時ばかりは軽やかな身のこなしを見せていた。校庭側に移動してフェンスを登り始め、あっという間に登り切ってしまった。


 そうなれば次は陸がフェンスに上る番だ。


「ちょっと暗くない?」と陸は何かを押し殺すように口にした。


 先ほどまでは街灯がいくつもあったため比較的明るかったが、今は校庭に接する裏道にいる。灯りは無く、真っ暗だ。


「手元を照らしますよ」


 そう言いながら懐中電灯を陸の手元にかざした。わずかに照らされた陸の表情は不安げなもので、それを見た音流は不思議そうな顔を浮かべた。


(うわぁ、行かないとダメなのか。怖いなぁ)


 ふとフェンスの向こうで「はやくはやく」と子犬のように催促している音流が目に入る。


(さすがに放っておけないよな)


 気合を入れなおして、震える手足を抑えつけながらフェンスを登り切った。


 地面に着地して、ようやく安堵する。しかしそれも束の間だった。


 突如、音流の懐中電灯の光がパッと消えた。


「ありゃ、電池が切れたんですかね?」


 音流が呑気に言う横で、陸は慌ててバックから懐中電灯を取り出そうとしていた。しかし慌てすぎたせいで手を滑らせた上に、転倒してしまったのだ。


 何かを下敷きにして、バキベキと軽快な破壊音が響いた。


 焦りながら懐中電灯の安否を確認すると、無残にも割れてしまっていた。中身が見えており、スイッチを操作してもチカリとも光らない。


「同志。大丈夫ですか?」


 音流が心配して歩み寄った瞬間だった。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 絶叫が響き渡った。それと同時に、音流は強い衝撃を受けた。


 一瞬、化け物が突然出現したのかと身構えた。しかしそうではなかった。


「え?」


 突然の出来事に音流は唖然とするしかなかった。


 音流の腰には、怯え切った陸が抱き着いていたのだ。


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