こそ泥
俺たち、俺と恋人のサラそれに親友のカズとカズの恋人の梨花は今、ドライブの途中見つけた廃墟の中を探検している。
立ち入り禁止の札がぶら下がったロープが張られていたけど無視。
廃墟の中は昼間だというのに薄暗い、当然電気なんて通って無いから灯りは車に載せてあった懐中電灯1本だけ。
「なんかオバケが出そうな雰囲気だね」
「怖いこと言うなよ、俺そっち系駄目なんだから」
「その割には一番ノリノリで此処に入り込んだじゃないか?」
「オバケは駄目だけど、探検は好きなんだよ。
しかし何にも無いな、何か金目の物でもあるかって思ったんだけど」
「廃墟になってから結構年月が経ってるみたいだから、金目の物なんて残ってるわけ無いだろ」
「それもそうか」
「ちょっと! 静かにして。
聞こえない?
奥の方から笑い声が聞こえるんだけど」
「え?」
「ヒヒヒヒヒヒ…………」
「ホントだ、気持ち悪い笑い声が聞こえるな」
「誰かいるのか? ヤバいんじゃね」
「いても、俺たちと同じ探訪者だろう」
「あそこの部屋じゃない」
サラが奥の部屋のドアを指差した。
俺とカズで譲りあったあと押し出された俺が、そっとドアを開け中を覗く。
部屋の中に大きな机が置かれその上にレトロなラジヲが置いてあり、そのラジヲから笑い声が聞こえていた。
「ラジヲだよ、ラジヲ」
「なんだ、ラジヲだったか」
ドアを開け中に入った俺に続いて皆も部屋に入って来る。
俺たちが部屋に入るとラジヲの笑い声は止まった。
カズがラジヲを指差し言う。
「なあ、此れ、古物商かリサイクルショップに持って行けば結構高く売れるんじゃね」
「ほんじゃ持って帰ろうぜ」
カズの言葉に同調して、ラジヲに手をかけ持ち上げようとしたが持ち上がらない。
「なにやってんだよ、早く持てよ」
「それが、持ち上がらねーんだよ」
「え? こんなにちっこいのに重いのか?
2人で持ち上げようぜ」
「「せーの」」
ラジヲの下を覗き込んでいたサラが俺たちに声を掛ける。
「持ち上がる筈無いわ。
此れ、机に接着されてるよ」
それを聞き俺たちもラジヲの下を覗き込む。
「確かに」
「机ごと持って行くか?」
「それこそ重くて持ち上がらないだろう」
重厚でどっしりとした机をみながら言う。
恨めしげにラジヲと机を眺めたあと俺たちは廃墟から出た。
車に戻ったところで廃墟の中では一言も喋らなかった梨花が話す。
「ねえ、あのラジヲ、コードが無かったけどどうして笑い声を発せたのかな?」
「乾電池じゃないの?」
「否、乾電池を入れる蓋なんて無かったぞ」
「それじゃどうして?」
そのとき突然、車のカーラジヲのスイッチが勝手に入り、車の中に笑い声が響き渡ったあと罵声が轟いた。
『ブファハハハハハハハ!
やっと気がついたか! このこそ泥共!』