第7話
正一は、娘鈴の就職祝いをしようと食事に誘った。
四谷の静かな住宅街の一角にある小さな門を開けると、
石畳の路地に置行燈の灯りがともっている。
そこを入って茶室めいた客室の前へ立つとき、出迎えの女中さんが二人、
すでに待ちうけていて、小庭に面した障子がしずかに開く。
すべては、このような気ばたらきで料理がつくられ、客に出される。
完全個室のお店だ。
「うわぁ。すごい雰囲気が良いお店だね。
お父さんありがとう。」
娘鈴を喜ばせたく、職場の同僚などや普段あまり使わないインターネットに
四苦八苦しながら情報を集めて、予約したお店だ。
「大人になったらこんなお店も行くことあるだろうし、
今までも連れてこれなかったしな。」
普段正一は、財布に優しいお店しかいっていないのだが、
見栄もあって、高級なお店に招待した。
「就職おめでとう!」
食べなれない料理を口にしながら、娘鈴の学校生活の話を聞いていた。
正一は、口数は多くはない事もあり
盛り上げるようなことはできず、娘鈴の話を聞いていた。
「今日はごちそうさまでした。お父さんありがとう。」
娘鈴は満足してくれたようでよかった。
面と向かって話を聞いてみて思ったのは、もう立派な大人にになったと感じた。
正一は、しっかりした自分を見せて、
恥ずかしくない父親になれればと思いながら、岐路についた。