第5話
信頼
自分の生活もままならない中、たまに娘鈴への3万の仕送りを
やめてしまおうと思うことが正一にはあった。
成人を迎えた20歳の娘鈴に会うのは、正一にとっておよそ5年ぶりになる。
「いつまでたってもだめな父親で悪かったな!成人おめでとう!」
娘鈴を前に正一は、ぼそぼそとつぶやいている。
けれど正一の言葉は、少しずつそこから逸れていく。
妻静香が亡くなった時、
普通の父親ならどんなことをしても娘を引き取ったはずだ。
正一は娘鈴と離れて暮らすようになってからも、生活を立てなおして、
娘と暮らそうという思いはあった。
しかし稼ぎが悪いのを言い訳にして、そこから逃げていた。
娘鈴にとっては、5年間わだかまっていた寂しさが解けるような話だった。
幼いころ父親が大好きだった娘鈴は、
頭の中が漂白されたように真っ白になっていく。
父親正一と過ごした時間、交わした会話。
飛び散って砕けたパズルのピースが、また再び組み合わさっていく。
「ママが死んだ時は本当につらかった。」
「すまない。自分の不甲斐なさが・・・。」
「つなぎ止めておけなかった・・・・。」
正一のぼそぼそと話す言葉も、表情も、
すべてが娘鈴にとって意味を変えていく。
正一は苦しいながら仕送りを続けた。
幼かった娘鈴の小さな手をぎゅっと握り、なんとか離さないでいた。