第2話
廃墟工場の屋上から見える景色
「悪いことも覚えたなあ!清がいなかったら野球も続けてなかったかもな!」
正一は、薄茶色のハイボールの中の氷をみつめながらつぶやいた。
正一も清も自分たちが小学校、中学校と育った時を思い出しながら酒を酌み交わしていた。
煙を吐き出す工場群が、続いてのっぺりとした街並みが、
その向こうにはたくさんの船が駐留する港を見渡すことができた。
雨風に晒され錆びた梯子をおそるおそる上ってたどり着いたあの場所は、
中学の不良仲間がたむろする廃墟工場の、屋上だった。
正一の父親は、正一を保育園に入れようとした際、
「定員がいっぱいの可能性がありまして!」
という理由で拒否された苦しい体験を経て、
必死に働いて洋一をなんとか隣町の野球が強い公立高校に入学させてくれた。
そんな親の背中を見て洋一は甲子園に出て、
プロ野球に進みたいと考えるようになった。
少年野球時代から一緒だった清の「いっしょに甲子園に行こう!」という言葉も
洋一の励みとなった。洋一は3年間必死に努力した。
その何年か前は人の目を盗んで廃墟工場の屋上に上っていた。
その景色を、中年になった正一は、今でも覚えている。
「家は貧しかったけど、みんな同じような状況だったよな!
屋上行って、みんなでこっそりタバコを吸って。
中学1年生で、あいつらとつるむようなってから、
野球とも清ともちょっと距離ができてたかなあ!」
「そんなことあったっけか?」清がハイボールを口に含みながら答えた。
昔話を肴に充実した時間を過ごし、家路についた。
自宅は一人暮らしでは十分の広さ1LDKの間取り。
家に帰ると、静かさに寂しさを感じながら
好きなつまみを準備して晩酌をする。
テレビ横には元嫁と子供の写真が飾ってあり、
酒を飲みながら、昔をよく思い出していた。