第11話
娘鈴にとってとても大きかった両親へのの思い
ある夜、正一が部屋で一人、
家族3人で暮らしていた当時のことを思い出していた時、
突然娘鈴から連絡があった。
「一緒に映画見に行かない?」
頻繁に連絡を取り合ってもいなかったので、
娘鈴からの突然の連絡に驚きながらも、昔は映画が好きだったことをふと思い出し、
行くことを決めた。
「元気にしてたか?仕事の状況はどうだ?どした?映画見に行くなんて。」
「うん。お父さんと一緒にみたい映画があってさ。」
最近流行っている「高校野球」を題材にした映画だった。
鈴からの突然の誘いは、
疲れ切った中年への道を辿りつつあった正一への栄養剤になった。
「好きな俳優が出ていて見たかったんだぁ。それにこないだ
お父さん野球の事もう大丈夫って言ってたし・・・・。
とにかく見に行かない?」
誰かと一緒に映画館に行って映画を見ることなんてもうないと思っていた正一だったが、
まさかの娘鈴からの誘いに約束した場所に向かった。
「好きな俳優かあ。他にも好きな俳優いるのか?」
と、たわいもない父正一の話を聞きながら、
たぶん小学校入りたての頃に父と2人で映画を見にいったことがあるという
うっすらとした記憶を、鈴は辿っていた。
弱小高が、甲子園を目指す高校野球ならではの内容で
正一は、自分の学生の頃を思い出しながら、映画に見入っていた。
「今日は一緒に映画見てくれて、ありがとう。またね」
娘鈴は、
帰る途中でも父正一と昔みた映画の内容を思い出そうとしていた。
一方、正一は、駄目な父親だった自分自身を、娘鈴が映画に誘ってくれたことが嬉しく
少しずつだが、地に足をつけ、いったんは消えかけた娘との関係を取り戻しながら
自分の人生が少しだけ動いている事を感じていた。




