第5話 能力行使と王女の思い
呪いによって意識不明のまま寝たきりになっている第一王女のスミレの呪いの原因である悪魔を神魔法でスミレの体からはじき出した俺は、その悪魔の華麗な土下座に困惑していた。
「お願いします!!いくら私でも超越者様には勝てないです!!服従しますので殺さないでください!!」
「とりあえず、土下座をやめろ。そして事情を詳しく話せ」
俺がそう言うと目の前の悪魔、夢魔の女王のリリスは土下座をやめ、正座したまま話し始めた。
リリスの話を要約すると、リリスは元魔王軍四天王だったが、ある日裏切りにあい殺されかけた。
何とか逃げ延び、人間界に来たが、そこで力尽き、気づいたら宝玉に封印されていたらしい。
だが、ある日宝玉から解放され、回復のために目の前の存在の体に入り、回復し続けたらしい。
もうすぐ、完全回復する予定だったが、その前に俺によって強制的に体外に弾き出された。
何とか逃げようと俺を鑑定したら明らかに自分が勝てるような存在じゃないために服従すると決めたらしい。
「とりあえず、お前の事情は分かった」
「じゃあ、私と契約してくれるのですか?」
「それに関しては保留だ」
「そんな!!」
この女を仲間に加えるのはやぶさかではないが、それよりもさっさとこの王女二人から貰うもん貰って出ていきたいから、この女のことはこの国を出てから考えるとしよう。
「さてと、取り敢えずこの王女二人から詫び代をもらうとするか」
俺がそういうと、さっきまで俺に感謝していたメイドたちが俺の前に立ち塞がった。
「姫様たちに何をするつもりですか!!」
「邪魔」
俺がそう言って、もう一度魔力の鎖でメイドたちを拘束し、部屋の隅に転がしておいた。
俺は拘束されてもいまだに叫んでいるメイドたちを無視して、スミレとソフィアの二人に魔法陣を展開して、今回の召喚で新たに加わったエクストラスキルを発動した。
悪夢の暴食は殺した相手のスキルを奪うことができるというものだ。
このスキルの便利な点は殺さずに意識を奪った場合はスキルをコピーできるという点にある。
それを使い、俺はスミレからユニークスキルの妖精術、ソフィアからユニークスキルの千里眼をそれぞれコピーした。
妖精術も千里眼もレベル性のスキルだからレベル1分だけだがな。
俺は二人からスキルをコピーできたことを神眼で確認し、意識のない二人に魔法をかけて起こした。
ソフィアは起きてすぐに周りの状況を確認し、俺に向かって魔法を放とうとしたので、消滅を使って魔法を消し、メイド同様に魔法の鎖で拘束した。
「く、離しなさい!!お姉さまに何をするつもりですか!!」
「さっきも謁見の間で言っただろ、今回の詫び代をお前ら王女姉妹から貰うことにしたんだよ」
「なぜ私たちから!!あなたを殺そうとしたのは宰相とあなたの友人たちでしょう!!」
「あいつらは友人じゃねよ。お前らから詫び代を貰った理由は単純にお前らのスキルが面白そうだったから」
「スキル?」
「あ、すでに貰ったがお前からは千里眼、スミレからは妖精術のスキルをそれぞれ奪わせてもらった」
「何ですか?そのスキル?」
「あ~、やっぱり知らなかったか。まあ、いいや。それとスミレの中にいた呪いも俺が貰ったからもうすぐスミレが目を覚ますぞ」
「本当ですか!!」
ソフィアがそう叫ぶと、タイミングよくベットに寝ていた、スミレが目を覚ました。
「うーーん。よく寝たわね~。あれ?ソフィアじゃない?おはよう。朝から何してるの?」
「お姉さま!!スミレお姉さま!!」
俺はソフィアとメイドたちの拘束を解除すると、三人はすぐにスミレに駆け寄り、スミレを抱きしめた。
「どうしたのよ、いきなり」
それから、三人が落ち着くまで、10分ほどして、ソフィアとメイドたちがスミレに今までのことを話し始めた。
「そっか・・・そんなことがあったのね・・・それで、私を助けてくれたのはそこのあなたなの?」
そう言って、スミレは俺に視線を向けてきた。
「まぁ、お前の呪いを解除したのは俺だ」
「ありがとうございます。ブルームーン王国第一王女スミレ・ミア・ブルームーンの名において最大限の感謝を」
スミレはそう言って、深々と頭を下げてきた。
「気にすんな。対価は貰ってるから」
「対価?」
「あぁ、お前のユニークスキル、妖精術をな」
「私にユニークスキルですか?」
「なんだ、お前もユニークスキルのことを知らなかったのか」
「えぇ」
俺は神眼で得た情報をスミレとソフィアに教えた。
そのうえで、スキルの使いかたをレクチャーした。
二人とも最初は戸惑っていたが、飲み込みが早く、10分ほどですぐにスキルを使えるようになっていた。
「ありがとうございます。ノブユキ様」
「ありがとうございます」
「気にするな、ついでだ」
俺はそう言って、そろそろこの王城から脱出しようと思った。
しかし、謁見の間に目を向けた瞬間、その存在を察知した。
「謁見の間に魔王軍四天王が現れた?」
「どういうことですか?」
俺のつぶやきが聞こえたのか、ソフィアが聞き返してきたが俺は千里眼で謁見の間に視覚を飛ばした。
すると、そこには謁見の間の壁を破壊してバカでかい大剣を肩に担いだ魔族がおびえる国王や元クラスメイト達を見て笑っている。
元クラスメイトには復活した勇者や見た目だけヤンキー軍団の姿もあった。
謁見の間から転移する寸前に俺は神魔法を使って殺した奴らを蘇生させた。
あいつらには魔王討伐をしてもらわなきゃいけないからな。
だが、俺は千里眼で見た魔族を神眼で鑑定したのだが、まず間違いなく今謁見の間にいる奴だけじゃ勝てないだろう。
全員が間違いなく殺される。
そう思った俺は一度大きくため息をつき、千里眼を解除した。
「謁見の間に魔族が現れた。それも四天王の一角だ」
「そんな・・・」
「どうして・・・結界があるはずなのに」
俺の言葉にスミレとソフィアが絶句し、メイドたちも顔を青くしている。
確かにこの王都には魔族の侵入を阻む結界が張られているが、それが破られた形跡はない。
だとすれば、特殊なスキルか魔道具・・・もしくは内通者か。
そんな思考が浮かんだが、俺は頭を振ってその思考をかき消した。
俺には関係ないことだからな。
「とりあえず、俺は謁見の間にいく。せっかく復活させてやった勇者たちが復活していきなり殺されるのはムカつくからな」
俺がそう言うと、ソフィアが驚いた表情を浮かべ、俺を見た。
俺はそれを無視して、千里眼で謁見の間の隅に視覚を飛ばし、そこに転移しようとした。
「待ってください」
しかし、そんな俺を呼び止める奴がいた。
スミレだ。
「私も行きます」
スミレはそう言ってベットから降り、俺の元に歩み寄ってきた。
「やめておけ。死ぬぞ」
「ですが、王家に籍を持つものとして王国のために魔族に立ち向かう方にすべてを任せて、安全な場所で引きこもっているわけにはいきません。ともに戦えなくとも、せめて近くでともにありたいのです」
そう言って、俺の目をまっすぐに見つめた。
「お姉さまがそうおっしゃるなら第二王女として私も同行します」
そう言って、ソフィアも俺の目の前に立った。
その後ろには2人のメイドも覚悟を決めた表情で立っていた。
俺は数秒、スミレとソフィアを見つめたが・・・大きなため息をついた。
「わかった。ただし、離れていろよ。巻き込まれても自己責任だからな」
「「わかりました」」
俺はそういう2人にもう一度ため息をついた。
「マリア、ルー、クゥー出てきていいぞ」
俺がそう言うと、さっきまで精霊化していた3人が現れた。
いきなり現れた3人にスミレたちは驚いていたが、俺はそれを無視して3人に指示を出す。
「謁見の間に現れた魔王軍四天王を倒しに転移魔法で謁見の間に戻るぞ。そいつらもついてくるというから連れていく。スミレとソフィアはマリアと手をつなげ、メイドたちはそれぞれスミレとマリアと手をつなげ。リリスはどうする?」
「もちろん私もついていくよ!!ご主人様の性奴隷だからね!!」
「そうか、勝手にしろ。・・・契約するかどうかは後で決めるからな」
俺がそう言うと、首をかしげていた4人は言うとおりに行動し、リリスもマリアの腕をつかんでいた。
俺と契約しているマリア、ルー、クゥーは俺に触れていなくても自動的に転移魔法の対象に入っているがほかの連中は俺か俺と契約している3人に触れていないと転移魔法の対象に入らない。
俺は改めて5人がマリアに触れていることを確認して、転移魔法を発動した。
一瞬のうちに視界が切り替わり、俺が状況を把握しようと周りを見渡すとそこには血を流して倒れている安藤隆也と魔族の持つ大剣で切り殺されそうになっている高橋美紀の姿があった。