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暗殺術

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 さて、死神のように佇んでしまったが、だからといって話が終わった訳ではない。ストリートファイトのミニイベントも続行中だ。しかも今はカエデさんというお荷物まで背負わされている。


 この条件ではハッキリ言って、綺麗も汚いも言っていられない。



「カエデさん、ここはひとつ暗殺術を使ってみようか?」


「え!? 暗殺術ですか!?」


「こらこら、そんな単語で瞳をキラキラさせないの」



 いかにバトルがメインのゲーム、チカラこそ正義という趣旨の世界観であっても、あまりよろしい技術ではない。


 そして暗殺術などというものは所詮流儀の亜流、応用に過ぎないので、これに溺れたり看板とする者は案外つまらないものだ。


 まずは身を隠す。路地裏である。そこで待つことから始まる。ここで暗殺術についてカエデさんに少しレクチャー、彼女は理解してくれたようだ。そして人の群れが近づいてくるのを待つ。



 来た。



 クランと思われる六人の一隊だ。その一隊が路地を通り過ぎた瞬間、私は一人を捕まえ口を塞ぐ。路地裏に引きずり込んだところで、カエデさんが楯を使った浸透勁。


 何をされたのかわからなかったかもしれない、このプレイヤーは撤退していった。まあ、大変に単純ではあるがこれが暗殺術だ。実につまらないものである。残った五人は、談笑しながら去っていった。一人消えたことに、まだ気づいていない。そして私とカエデさんは、何くわぬ顔で路地裏を抜け出したのだ。


 そこからは路地裏から路地裏へ。とにかく『敵』となるものなのかにみつからないように移動を繰り返す。カエデさんと一緒では、まともに闘えないからだ。すると物陰から眺める表通りを、見知った顔が通り過ぎた。セキトリだ。


 マミさんも一緒、シャルローネさんもである。それが十人以上の集団に囲まれて、バトルである。三人はよく闘っていた。入れ代わり立ち代わり、セキトリが長得物で距離をとり、シャルローネさんが追撃する。


 そのシャルローネさんを守るのは、双棍のマミさんだ。三人ともスパイク……つまりトゲトゲはついていない得物だった。浸透勁を使う気まんまんである。


 それにしても……。



「リュウ先生?」

「うん、私も疑問に思っていた」


「なんでシャルローネって、敵のお尻ばっかり叩いているんでしょうね?」

「叩きやすいのかな? お仕置きとか、折檻っていう意味で……」



 敵プレイヤーたちも、シャルローネさんの奇行には気がついているようだ。



「なんだあの女、ケツばっかり狙ってくるぞ!」

「スパンキングの女王さまかよ!?」


ケツバット女だな」

「海軍精神注入棒だ! 海軍の女軍曹だぜ!」



 こうしてシャルローネさんは、ケツバットの女軍曹という二つ名を冠することになった。

 のちに聞いたところによると、シャルローネさんはこの頃独自に『スイングによる浸透勁』を研究していたようで、フルスイングにはお尻が一番ねらいやすかったそうである。



「ねえ、リュウ先生?」

「またまた何かな、カエデさん?」


「シャルローネのメイスに一本だけ……一本だけスパイクが付いていたら、どうなるんでしょうね?」

「打たれたプレイヤーが新しい世界に旅立つ……って、年頃の娘が何をコクか」


「すすす、すみません!」



 ということで、身内が囲まれていることをいいことに、ここでも暗殺術をレクチャー。


 まずは私が実践してみる。バトルに夢中になっている敵プレイヤーに、後ろから近づいてゆく。もちろん気配を消してだ。そっと鯉口を切って右手で抜刀、片手斬りに後頭部を斬った。


 派手なエフェクトは発生してしまったが、兜は消滅した。そこで両手に持ち替え、背中を袈裟斬りに浸透勁。一人消滅、撤退。その頃には木刀は鞘の内。私は何くわぬ顔で、別のプレイヤーの背後に立った。


 誰も私には気づいていない。気に止めていなかった。今度は抜刀のあと両手で木刀をとり、一発で浸透勁、虎徹を打ち込んだ。このプレイヤーも撤退、消滅した。


 カエデさんも見よう見まね、とはいえ直剣で居合はできない。鞘の形状が異なるからだ。それに諸刃でもある。さらに言えば、カエデさんの浸透勁は突きでしか使えない。

 影のように構えて、スッとひと突き。敵プレイヤーからキルを奪った。しかしそのあとが良くない。敵に気づかれてしまったのだ。



「おい、後ろにも敵がいるぞ!」

「なんだこの卑怯女、囲め囲め!」



 ということで、私が救出に駆けつける一幕も。ただそのおかげで敵の包囲網は完全に崩れ、セキトリたちが一気呵成に敵軍をなぎ倒すことができたのだが……。



「やっぱり人気者のオーラがあるんだね、カエデさんは」



 ことが済んで、私は笑った。



「まあ、これで暗殺術が君に向かないってわかっただろ?」

「ぶ〜〜……」



 ふくれるカエデさんだが、シャルローネさんたちは羨ましそうに言う。



「なになにカエデちゃん!? リュウ先生から新しい技でも授かったの!?」

「ズルいです〜〜カエデさん〜〜!!」

「ねねねリュウ先生、どんな技? どんな技?」



 小娘どもというか、お嬢さんズは押しが強い。私が口を割るまで離してくれなさそうだ。



「あんまり羨ましがるような技じゃないよ。今までの応用で暗殺術を少々。……だけど結果はご覧の通りさ」

「「暗殺術!?」」



 だからシャルローネさんもマミさんも、暗殺術なんぞで瞳をキラキラ輝かせないの。



「ででで、どんな内容だったのカエデちゃん?」

「どうって……路地裏に敵を引きずり込んだり、後ろからこっそり近づいて斬ったりで、そんなに目新しいことは無かったけど……」

「けど?」



 シャルローネさんはしつこい。まだまだ食い下がる。



「私の見た感じでは『こーしてあーして』よりも、どうあっても気づかれないようにするのが暗殺術ってカンジだったかな?」

「気づかれないって、具体的には?」


「……リュウ先生の使う、居合かな? 敵が何かに意識を集中させているときに、パッと抜いてサッと斬ってスッとおさめて。音も無く去って行くような……」



 するとシャルローネさんたち、目にも明らかにしぼんでゆく。



「居合かぁ……難しいんだよねぇ、あれ……」

「マミさんにも出来るような気はしません……」



 若者たちがしなびている。ここで手を差し伸べるのが大人というものだ。



「居合が難しいなら、二人にもできそうな技を教えようか?」

「いいんですか!?」

「いやぁ〜悪いですねぇ〜♪」



 口ではそう言っているが、顔はへのへのにほころんでいる。ちっとも悪いだなんて思ってないだろ、君たち。

 まあ、それはそれ。まず私は腰の木刀を鞘ぐるみに掴んだ。



「みんなそれぞれに得物は違うけど、共通して使える技だよ」



 ちょうど良く、敵の群れが近づいてくる。人数は六人ほど。



「みんな、散って」



 巻き添えを食わぬよう、四人を路地裏に避難させる。そこから見ているんだ、と言って私は敵の群れに近づく。

 六人とも、スパイクの付いた長得物、メイスというやつだ。私は足さばきだけでこれをスイスイとかわす。そしてまず一人。


 柄頭を押し当ててからの浸透勁。つまり至近距離からの『虎徹』を入れた。当然、敵は撤退。姿を消す。

 この技のコツは、柄頭が触れるほど間合を詰めたときには、すでに敵の鎧を押し込んでいることだ。


 そこから『虎徹』を打ち込むのである。浸透勁の成功は間違いない。むしろ遠間の『虎徹』よりも成功率は高いだろう。ただこの技は近間の技、しっかりとした歩法、足の技を得ていなければ危険度は高い。


 しかし危険を避ける方法も無いではない。まずは確実に『虎徹』を入れる。そしてキルとする。そして見ることだ。


 次は誰にとりつくか? すでに決めておくこと。もちろんその相手の内懐に侵入する経路も見通しておくべきだ。この技術は『虎徹』を決めることは当然。むしろそれを入れる距離までどのようにして詰めるか?

そちらの方が肝なのである。 


六人の敵はすべてメイス。しかもお行儀がよろしいことに、お揃いで袈裟に構えているのだ。隙は右脇腹。そこにとりつくのである。そこへ柄頭による浸透勁。懐に入ったときにはすでに鎧を押し付けているのだ。

 あとは『虎徹』ひとつ。




 暗殺術など本当につまらないものであった。


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