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復讐

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 やはり私を囲むように配置していたか。ヒナ雄くんとその仲間たちは、全部で六人。この場合姑息な策略というよりも、確実な勝利とキルを目指した戦法と見た方が良いだろう。


 何しろ彼らは、ワンショットワンキルの技術を手に入れているのである。まったく、若いってのは良いもんだ。次から次へと新しい技術を吸い込んでゆく。

 ただし、新たな技術にまだ戸惑いがあるようだ。どこか頼り無さげで、ともすれば儚い印象すら受ける。

 その正体は何か?



 ズバリ私は見抜いていた。当てる技術である。ワンショットワンキルの技術を身につけたところで、当たらなければ話にならない。つまり彼らは真剣の日本刀を手にした素人とでも言おうか。どれだけ名刀を手にしていても、それを当てる技術が無いのだろう。



「では……」



 私は意地悪く下段に構える。つまり誘いであった。そしてヒナ雄くんたちの不安を見抜いたという態度で、鷹揚にかまえていた。



「はじめようか、ヒナ雄くん……」



 彼ら以外にも敵はいないかと気を配りながら、ジリ……と前に出た。



「お、おう!」



 ヒナ雄くんは八相、二人の少年は中段。女の子は霞に剣をとる。背後の二人は……死ぬか生きるかの脇構えだな? まずは左端、落ち着きのある少年のメイスをからめ取った。そこから地面に叩きつける。メイスは苦もなく手の内を離れ、地面で弾んだ。


 次はヒナ雄くん、必殺の太刀を足だけでさばいて、したたか小手を打つ。虎徹の妙技を使っているので、防具は無事だが片手が欠損状態であった。


 情熱的な少年はすれ違いざまに胴を打った。あくまでもクリティカルの打ち、防具だけを吹き飛ばす。霞に構えたお嬢さんも、素早く小手を取って手首を欠損させる。


 背後から駆けてきた二人は、そのつもりは無かったのだがついつい虎徹を使い胴を打ってしまった。ワンショットワンキル、いや、ツーショットツーキルである。



 しかし自分の失敗などおくびにも出さず、さも当たり前であるかのように私は振る舞った。



「見たかい? これが無双流の『虎徹』……君たちが言うところのワンショットワンキルという打ちだ」



 若者、というか少年たちを相手に、こんな大人げない真似をするつもりはなかったのだが、仕方ない。人間は過ちを侵す生き物なのだ。



「で、では、もう一手!」



 そして若者というやつは大変に元気がよろしい。多少の躓きや敗北があったところで、昂然と顔を上げて前に前に進んでくる。そこに新たな技術があれば、なおさらであった。


 負傷者はポーションを使って欠損部位を修復。そしてフルヘルスで私に挑んできた。

 今度は胴を打った、虎徹である。当然のようにヒナ雄青年は撤退してゆく。



「よくよく吟味、精進すべし」



 消えゆく若者に言葉を授けた。残る二人の少年も胴を打って撤退させる。何故面を狙わないかというと、恐怖心を植えつけないようにするためだ。恐怖を知れば、剣は伸びなくなる。だから上位者が稽古をつけてやるときは、下位者の胴、もしくは肩を打つのである。ただしこれは我が流派、無双流の話である。他流派のことは知らない。


 そして残るはお嬢さんただ一人。



「拠点に帰ったらヒナ雄くんたちに言ってくれ。『虎徹』はよく出来ているから、今後は当てる技術を……白銀輝夜からでも学ぶといいってね」



 素直で豪快な、よく学んでいる打ちが降ってきた。

 しかし足捌きひとつ、軽く私はかわして彼女の胴をとった。情熱の嵐というチーム。このレベルで蹴っつまづくには惜しい若者たちである。伸びて来いよ、と心の中で祈った。


 そして私の祈りを邪魔するように、集団が向こうの通りを駆け抜けていった。三十人からいそうな集団である。右から左へ。そしてまた、左から現れて右へと駆けてゆく。どうやら集団で一人を追い回しているようだ。

追われているのは、女の子だろうか?

青くて短いマントにウルト〇マンのような柄の革防具。片手剣に丸楯。そして青い地下足袋。……そんなコスチュームのプレイヤーを、私はひとりだけ知っている。



「リュウ先生! 見てないで助けてくださーーい!!」



 やっぱり、カエデさんでした……。



「いやぁ、イベントだけでなくこのステージでも人気者だなぁって、感心してたのさ」

「お願いなのよさ、たちけてプリーズ!」



 よほど必死なのだろう、言葉遣いが変だ。面白いのでもう少し見ていたかったが、あとからジト目で睨まれても困る。どれ、ひとつオジサンが救出してあげよう。


カエデさんを追い回す連中の前に立ち、虎徹を連打する。「乱」という技が無双流居合の中にある。とにかく斬って斬って斬りまくる、ともすれば「斬り過ぎ斬り過ぎ」と笑われてしまうような技だ。


 しかしその技には理由があって、とにかく手数を出すというのが第一義。そしてあらゆる斬り、どの大刀でも斬れる技を繋げてゆく、というのが第二義。つまり稽古のための技なのである。


 それを虎徹で使った。集団は次々と消え去ってゆく。そしてついに、カエデさんを追い回していた集団は足を止めた。



「な、なんだコイツ!」

「あっという間に十人も斬ったぞ!?」


「気をつけろ、コイツとんでもねぇ不正者だぞ!」



 おいおい、女の子ひとりを集団で追い回してた連中が、それを言うかね?

 しかしここは、時代劇の善玉のごとく振る舞うことにする。



「ケガはなかったかい、カエデさん?」

「はい、なんとか……」



 確認すると、あれだけの数に追い回されていながら、カエデさんはフルヘルスであった。これを「チッ、助け甲斐が無ぇなぁ」と舌打ちするべきか?

驚異の回避能力に舌を巻くべきか? 相変わらず判断に迷う娘である。しかし……。



「ヘイヘイ! 女の子一人追いかけ回すしかできないオタンチン! こっちにはリュウ先生がいるんだよ! どうしたどうした、かかって来ないのかーい!?」



 急に強気な煽りを入れるのはいただけない。



「だってリュウ先生、アイツらしつこかったんですよ〜〜」



 そして男心を惑わすような、そんな上目遣いはもっといただけない。



「とはいえ、あまり品のある煽りじゃないね、謹んだ方がいいね」

「は〜〜い」



 わかっていただけたようでありがたい。ということで、残る二十人である。



「ところで君たち……」



 十人を斬ったときから構えは解いていない。そのまま二十人を威圧する。



「私のことを不正者と言ったかな? いや、もちろん怒っている訳じゃないよ? 人間誰しも未知の技術を目の当たりにすれば、不正だと疑いたくなるものさ。しかしこの技術は武将チャレンジでもイベントでも披露した根拠のある技術なんだ。……どうだい? 味見してみてもいいんじゃないかな?」



 百聞は一見にしかずという。そして一見に勝るは一度の経験である。私とて現実世界でおいそれと『虎徹』を使う訳にはいかない。つまり彼ら二十人は千載一遇の好機を得たということになる。


 しかし、嗚呼それなのにそれなのに、誰一人として『虎徹』を受けてみようという者が出てこないのだ。



「お前行けよ……」

「嫌だよ、お前が行けよ……」

「撤退したら雑魚呼ばわりされるじゃん、嫌だよ……」



 嗚呼、なんと嘆かわしいことか、この国の若者よ。

 岩手諸賞流の遠当てにも、勝るとも劣らない秘術をいまここで体験できるというのに。ケチくさい価値観にとらわれて絶好の機会を逃すとは。



「お前行けよ、どうせ最下層だろ?」

「うわ、すっごい選民エリート思想! たかだかゲームで、なに偉そうにしてんの?」

「バ、そうじゃなくってよ! 新兵が撤退するのは当たり前だけど、英雄格はそう簡単に撤退できねぇんだよ!」


「じゃあそう簡単に撤退せずに、ひと大刀浴びせてやってくださいよ」

「あ、そーゆー言い方するんだ、ふ〜ん……」

「なんとでも思ってください、僕はもうクランを抜けますから」


「おま、クラン抜けて俺の悪口言いふらすつもりだろ!」

「いえ、事実を事実のまま語らせてもらうだけですよ、僕の視点で語らせていただきますけどね」


「おう、みんな! こんなヤツ破門にしようぷめらっ!」

「なに可愛らしい声上げてぷぷっぴどぅ!」



 仲間割れは勝手だが、戦闘最中だということを忘れないでもらいたい。『王国の刃』における醜いやりとりを断つように、私は木刀を振るった。

 もちろんすべての攻撃が『虎徹』である。基本技でしかない、そして奥伝に通じる技でバタバタと斬り倒していった。




そして、またもや残ったのは私とカエデさんだけ。まるで死神が人々を葬り、ただ一人生き残ったかのように私は佇んでいた。


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