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天才・皇帝軍の崩壊

ブックマーク登録ならびにポイント投票まことにありがとうございます。作者ますますの励みとさせていただきます。

 さて、まずはキルを軽くいただいたところで、天才トニー君の皇帝軍を分析評価してみよう。

 まずは重武装、大型アバターを使用している。


 これがまず動きが鈍重だ。小回りが効かないし速度も遅い。

 そしてその甲冑にかけられた不正と言う名の魔法であるが、どうやらこれは本当に甲冑にのみかけられた魔法のようであり、浸透勁や投げ技を使う私たちにはまったく効果を発揮していない。

 そして私たちの浸透勁に相当する、ワンショットワンキルの技術。これに関しては評価のしようが無い。


 テレフォンパンチな上にスローモーションのようなトロ臭い攻撃なので、もらうことができないのだ。もらっていない以上、彼らの攻撃あるいはトニー君の組んだプログラムとやらの効果を検証することができない。よってこれは評価対象外とする。

 総評としてまとめてみよう。


 いくらPC関連の天才少年であろうとも、このゲームの下地は『自分のできることは全てできる。自分のできないことはひとつもできない。』なのだ。

 もちろんイベントではラグなどを利用して、空中浮遊やワープなどの荒業を披露してくれるプレイヤーもいたが、トニー軍団とくらべればよほどあちらの方が手強かった。


 他のプレイヤーにとってはどうかはわからないが、トニー軍団。私たちトヨム小隊にとってはただの『間抜けなカモ』でしかなかった。色気づいた小童ジャリに過ぎない『自分は万能の天才だと』夢見がちなトニー君には申し訳ないが、これが現実というものである。


 とはいえ、遠いアメリカ合衆国在住で夜更ししてまで私たちとの対戦を待ち望んでくれていたんだ。ここは日本の精神『お・も・て・な・し』を存分に馳走してやろうではないか。

 まずはセキトリ、君からだ。シャルローネさん、マミさんの二人がドン助甲冑武者を引き付けている間に、セキトリがトニー君の前に立つ。


 ヒョロガリちびっ子のトニー君と、鍛えに鍛え抜かれた巨漢、セキトリが相対する。その図柄はまだ一合と打ち合ってもいないのに、『止めてあげて! 彼のライフはもう0よ!』と涙ながらに訴えたくなるものであった。



 昔、缶コーヒーのTVコマーシャルにあった。優男が女の子の気を引くために「君のためならどんな奴とでも闘ってあげるよ」、みたいなことを口走ってしまったために、大相撲の土俵に上げられ時の横綱アケボノ関との対戦を強いられるという、のっぴきならない状況に追い込まれるというCMだ。


 一般人と横綱の体格差も痛々しいものがあったが、この図柄はそれ以上である。

 戦艦大和にゴムボートか公園の手こぎボートで挑むようなものだ。

 セキトリは得物を腰の後ろにスイと差した。トニー少年は明らかに怯えた雰囲気でそれを眺めている。さり気なく右手を差し出すセキトリ。それがトニー少年のマワシに差し込まれた。


 片手で投げる大きな上手投げ! じゃない、トニー少年を頭よりも高く差し上げて、二階の高さからのジャイアント上手投げだ!

 まるで鞠でも投げつけるように、という表現があるがその通り。まるで軟式テニスボールでも地面に叩きつけるかのように、トニー少年を打ちつけた。


 ……なあ、セキトリ。一応彼の甲冑は不正と言う名の魔法がかかっていて、ダメージが入らない仕様になってんだぞ?

 それを粉微塵のバラッバラに破壊するって、お前の投げ技どんだけ強力なのよ?


 トニー少年、初めての撤退。そしてマミさんとシャルローネさんも、浸透勁を使ってドン助を撤退させる。先に私とトヨムで撤退させていた三人のドン助は、すでに復活を遂げていて、カエデさんとトヨムの二人で足止めしている。が、トニー君が涙の撤退となったのを知って、必殺の雲龍剣とボディブローで軽く仕留めていた。


「トニー君が復活してきたら、つぎは誰が仕留めてみる?」

「あ、それはアタイが行く!」


 トヨムが手を挙げた。トヨムが言うには、今のトニー君はセキトリの体格差に負けたと思っている。そこで背格好の大して変わらないトヨムが行くのだ。体格差が無ければと、勇んで出てくるトニー君だろう。しかしそれが泣きの撤退ともなれば……?


 ふざけた坊やにはふざけただけの対価を支払っていただく。ただそれだけのことでしかないのである。

 ということで、先頭トニー君で走ってくる皇帝(笑)軍。対するは我らが小隊長のトヨム。


 まったくドン臭いトニー君の攻撃をかわして、さらにトニー君の攻撃をかわして、まずは挨拶代わりのジャブをひとつ。不正の……ではなく、魔法の兜にまもられているので、防具にダメージは無い。

 兜にダメージが入らないことを、不思議そうに自分の拳を眺めるとは、なかなかの役者である、トヨム。


 そこにトニー君がさらなる攻撃。魔法の効果に気を良くしたのか、ノビノビと打ってくる。

 しかしそれがトヨムの罠。グンと出てくるトニー君の横面に、ゆるく握った拳で左フック! ヴァイブレーションが入ったのか、動きを止めたトニー少年。トヨムはその太ももにローキック。


 ここも痺れが走っているのだろう。トニー君はヒザを着いた。その兜を掴まえて、もう容赦はしないトヨムのヒザ蹴り。そして腹部へドイインという右。

 いかに魔法のよろいに守られていようとも、これは浸透勁。トニー君は二度目の撤退であった。


 ただ、褒めるべきなのだろうか。それとも憐れむべきなのか、トニー君は棄権することなく最後まで勝負を挑んできた。そう、私の浸透勁技、『虎徹』で撤退するまでは……。


 つまり私たちは一人残らずトニー君を撤退させたのだ。これをイジメと眉をひそめるだろうか? それとも格安の授業料で教育を施したと取るだろうか?

それは読者諸兄の判断にまかせよう。


 キル数三十六対ゼロ。パーフェクトとも言える圧勝で私たちは勝利した。


 しかし丸裸の皇帝をシバいただけなので、私たちには感慨も何も無かった。不正者退治をしたという高揚感すら無い。不正に手を染めすぎた小僧をシバき倒しただけだからだ。

 ちょっと格好をつけて言わせてもらおう。



「……またツマラぬモノを斬ってしまった」



 どんなに天才を誇ったところで、闘いには闘いのコツというものがある。それを押さえることができるのは、闘う人だけだ。決して『情報を得ただけで出来るつもりになっているオタク』ではないのだ。


 トニー君がどれだけ王国の刃の情報を得たのかは知らないが、彼は決定的に『闘う人』ではなかったということだ。ただ単に鎧に魔法をかけた、打撃が『当たればキル』というだけでは勝てないものなのである。そう、私たちが弱い者いじめをしていると考えている方がもしもいらっしゃるのなら、少し考えていただきたい。


 私たちは公平なルールの上でトニー君を葬り続けただけだ。しかし彼はどうだろう? 私たちと闘う以前、不正に染めた鎧に身を固め、不正に染めた得物で何も知らないプレイヤーたちをシバいてきたのだ。果たして、弱い者いじめをしてきたのはどちらであろう?


 そして彼はおそらく、敗者をねぎらうことなどしていまい。敗者は彼の中では、人間として認定されてはいないのだ。


 天才とはそういうものだろう。だから驕り高ぶり、人間以下の私たちに動画を送りつけてきたのだ。

 そしてそれとなくやるせない気分になった私たちに、運営から新たなミニイベントのお知らせが届いた。





 2021秋のストリート王者決定戦!


 ……なんじゃこりゃ?


「ということで旦那、こんな通知が運営から届いてたよ?」

「だからトヨム、これは何だと訊いている」

「旦那向けのイベントっぽいけどさ」


「だから何だ、その私っぽいイベントってのは」

「ここで物知りシャルローネさんが解説してあげましょう♪」


 男爵ヒゲをつけたシャルローネさんの登場だ。


「ストリート王者キングってことは、全裸で走り回ることかいのう?」

「セキトリ、それはストリーキングだ」

「全裸疾走がリュウ先生に向いてるって……小隊長?」


「カエデ、旦那もストレスを抱える社会人なんだ。わかってやってくれ」

「したり顔で何をコクか、お前は」

 トヨムの頭にツッコミを入れておく。

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