トニー、お前夜更ししてんだろ?
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さて、それなりに天才プログラマーなトニー皇帝陛下(笑)であるが、私たちとはなかなか対戦の機会が無かった。当然と言えば当然。彼が住んでいるのは地球の裏側とも言うべき、アメリカ合衆国。私たちが住んでいるのは日本である。生活の時間帯がまったく逆なのだ。
彼が学校に通っていれば私たちは寝ているし、彼がゲームで熱くなっている時間帯は、私たちが仕事や学校に通っているのだ。もちろん正確な時差を計算したものではない。しかし私たちが『王国の刃』にインしている時間帯に、彼は不在なのだ。
そんな私たちと対戦しようというのだから、自称天才くん、「ま、そんなモンだろ?」という程度の小僧なのだ。
そしてここからがまた面白い。私たち『嗚呼!!花のトヨム小隊』に対して、動画を送りつけてきたのだ。武将にチャレンジ♡ している自分の動画である。
そのデキが……悪い。まずは魔法がかかっていると考えられる甲冑だ。これにより動きが鈍くなっている。よってタイムアタックをしたい訳ではなさそうだ。そして戦闘を拝見すれば、キルを取るばかりで鎧を剥いでいない。つまり獲得ポイントが伸びないのである。
「シャルローネさん、トニー坊主はなにがしたいんだろうな?」
「ん〜〜……もしかして、『ボクはワンショットワンキルのできる凄腕プレイヤーなんだぞ!』って言いたいんでしょうか?」
「ということはリュウ先生の研究をしていない、ということになりますねー」
「いや、マミ。もしかしたらアタイたちの誰も研究してない、っつーかアタイたちのこと知らないんじゃないのか?」
「ありえるのう、忍者の話し方じゃこのクソ坊主、忍者にしか興味が無さそうだったからのう」
「自分以上のプレイヤーは存在しないという、驕り高ぶりでしょうか……なんだか気味が悪いですね」
カエデさんの言うとおりだ。天才を自称していれば、自分の思いついた手を他のプレイヤーも思いついているなどとは考えないものだ。まして彼が自作ツールで生み出したであろう『ワンショットワンキル』の技術。これを他者がより上手に使いこなしているなどとは、想像もできないに違いない。何故なら、天才は自分一人だと思っているからだ。
「……それで、どうしましょうかねぇ小隊長。このソバカス坊や」
「そうだな、まずは動画を忍者に送りつけてやるか」
「嫌がらせですか、小隊長!?」
「シャルローネがやらないなら、アタイがやるぞ。どれどれ……『マイダーリン忍者へ、君のスィートの動画だよ』っと。これで送信ポチッとな」
数分後、忍者が現れた。現れるなり、トヨムに頭突き! トヨムは死んだ。
「なんてことしてくれるんだ、イタズラ小僧め! 晩飯リバースするところだっただろ!」
「忍者、アタイ女の子だよ?」
生き返ったトヨムが言う。
「お前を女の子と認定してるなら、私の百合センサーが働く! しかし私の百合センサーはお前にはピクリとも反応しとらん! よってお前は私にとって女の子の数には入っとらん!」
「リュウ先生、私知ってます。こういうのを同族嫌悪って言うんですよね?」
「カエデ、いらんことを言うな」
「だって、忍者も小隊長みたいなイタズラしそうじゃない」
「やるやらんで判定するならば、やる! っつーか絶対にやる! 冗談と嫌がらせを兼ねてな。だからトヨムの意図が透けて見えてイヤなんだ!」
「やっぱり同族嫌悪じゃない」
「こーゆーのを、『同じ穴のマシラ』ってゆーんですよねー」
マミさん、それは同じ穴のムジナだ。っつーか猿と書いてマシラと読める人間が、何人いるだろう?
「マミ、それを言うなら同じ穴のモスラだ」
トヨムも訳のわからんボケをかますな。
「儂は同じ穴のキムジナーかと思ったぞい?」
「あ、セキトリさんはそっちで覚えちゃったんですね? あれはキジムナーが正しいそうですよ?」
シャルローネさんは何故そんなことを知っている? というか、キジムナーって何さ?
「で、このウ〇コったれのトニーだけどな」
唐突に話題を変える忍者だ。
「動画を見て思ったんだが、コイツやっぱり阿呆だろ? タイムアタックに挑むでなし、パーフェクトを狙う訳でなし。いったい何がやりたいんだ、コイツ?」
「なー忍者? コイツ今頃、パーフェクト名簿にもランキングにも自分の名前が載ってなくて不思議がってるかもしれないぞ?」
「おいおい、そこまでバカじゃないだろ?」
「なんでパーフェクトとれなかったのかなー? おかしいなー? そもそもこの士郎ってのとリュウってのは、誰だ? とか言って、首を捻ってるかもな!」
「だとしたら、滑稽を通り越してもはや哀れじゃないのか?」
しかし、無い話では無いかもしれない。繰り返し申し上げるが、自称天才などというものは自分の思いついたことを他人が思いつくなどとは想像だにしないものだから。
「というかだな、お前たちトヨム小隊はこのクソガキのことを甘く見過ぎだ。もう少しくらいいい点数つけてみろ」
「ですがー忍者さん? こんな動画を私たちトヨム小隊に送りつけてドヤリとしてるんですよー? どこをどう拾えば、良い点数をつけられるんですかー?」
「例えばだな、お前たちにはまったく意味を成さないこの魔法《不正》のかかった甲冑だ。これがどんな仕組みでダメージを相殺しているのかな? とか……」
「そういうプログラムなんですよねー?」
「そういうプログラムなんでしょ?」
「そういうプログラムとしか考えられませんねぇ」
「ま、それしか取り柄のないお坊ちゃんだからな」
忍者の提案全否定である。しかし忍びはこの程度では挫けない。
「だったらこのワンショットワンキルの技術、どう対処すればいいんだよ!? なんて嘆いてみろ」
「このテレフォンパンチをかー?」
「当たらなければどうってことはありませんよー?」
「モーションに入ってどのタイミングで『必殺・雲龍剣』をキメるか? いい参考動画ですね」
「じゃあ私は浅間山荘突きをカウンターで合わせてあげちゃおっかな♪」
「むしろ無敵の魔法鎧を通して、浸透勁で死人部屋送りになったときが見物じゃのう?」
「私は公務員だからノルマ仕事は苦手なのだが、『一人一殺』のノルマが発生しそうだな」
さすがの忍者も嫌そうな声を出す。
「お前らもう少し真剣に考えろよ! 私の数少ない娯楽、ゲーム人生がかかってんだぞ!」
「「「無理です!」」」
まかり間違って私たちが敗北したとしても、忍者なら自分のことは自分でなんとかするだろう。
もしもどうにもならなかったら、美人秘書の御剣かなめさんや鬼将軍がいる。大人とはこういう時に使うべきものである。
それからしばらく、私たちは『アホたれトニー』のことなどすっかり忘れ去っていた。
つまり、対戦の時は唐突にやってきたのである。
トニー皇帝軍と六人制で対戦することになったのだ。
「あー、なんだか気の毒な方に当たっちゃいましたねー……」
「トニー皇帝軍? 誰だ、それ?」
トヨムなどは完全に記憶から拭い去っていた。
「ほら、小隊長。アレですよアレ! 鬼組の忍者を見初めた奇っ怪なクソガキ……っと、失礼。お坊ちゃんですよ」
「あー、なんかいたような気がするな、そんな奇特な奴が」
「気をつけてください、小隊長。あんなハナタレでもワンショットワンキルは使いますよ?」
「たしかテレフォンパンチもいいとこの、格闘技ド素人だった記憶が……」
「ちなみにトヨム、先月の第三土曜日は夕食に何を食べた?」
「餃子だよ、旦那!」
「その記憶力をすこしは気の毒トニーのために使ってやれ。一応天才を語ってるんだからさ……」
「気の毒すぎるアメリカ人じゃのう……」
ブリーフィングもへったくれも無い。天才少年トニーの扱いなど、うちではこの程度でしかないのだ。
そして、銅鑼。私たちは接近、向こうも無造作に接近。ディフェンスには絶大な自信があるようだ。だからこそ、トヨム小隊の先鋒は私。トニー陛下の軍がどのようなものか、すでに知れているので、いきなり無双流『虎徹』をお見舞いする。
トニーくんのファニーなお友だち、ゴテゴテ甲冑の一人だ。これがまた、上手いことに一発キルに繋がった。気を良くして、もう一人虎徹で仕留める。
するとトヨムが甲冑兵士をむんずと掴み、必殺の山嵐を食らわせた。私の相手もトヨムの相手も、スルリと死人部屋に送られた。復活ありのルールだが、いま現在残存しているのはトニーくんと仲間二人。
いや、カカシのような下僕が二人と言った方がいいか? その辺りは白百合剣士団が取り囲む。