裸の皇帝
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私です。リュウです。何故かは知りませんが、いきなり忍者が私たちの拠点に来ました。
なんでも、「そのうち気色悪いクソガキがケンカ吹っ掛けてくるから、気をつけてくれ」ということです。
「忍者、意味がわからん。省略しないで事の顛末をわかりやすく話してくれ」
「つまりリュウ先生からの依頼をこなしていたら、茶房で気色の悪いクソガキにからまれてな……」
「ほうほう」
「なんでも自称天才ハッカーだかプログラマーだかでさ、自分の組んだキャラクターにえらい自信があるみたいでな」
「なるほど、それで愛の告白でもされたのか?」
冗談のつもりで言った。しかし私が悪い訳ではない。この忍者が冗談そのもののような存在である、ということが悪いのだ。
しかし忍者は大変にシリアスな顔で答える。
「鬼組が負けたら私は奴のクランに組み込まれるそうだ」
「それが私たちトヨム小隊とどんな関係が?」
「まず手始めにトヨム小隊をノシてからウチに挑むそうだ」
「小手調べ、もしくは当流派のクセをお披露目ってヤツか」
「悪いがクッションになってもらいたい」
手痛いクッションだぜ、私たちは。とは言わない。そのかわりに質問。
「で? どんなヤツだ?」
「陸奥屋メキシコ支店経由で調べてもらったところ、テキサスの田舎に住むトニーってガキらしいんだ」
「荒くれ者かい?」
「いや、荒くれ者が周りにいすぎて、ヒネこびたクソガキらしい。男らしいところはひとつも無いそうだ」
「PC関連の腕前は?」
「その辺りは折り紙つきのようだ。しかしヒネたクソガキらしく、まともなことはロクにできないらしい。企業のデータにアクセスしたり、町のデータを改ざんしたりと。まあ自己顕示の固まりみたいなガキさ」
「よく捕まらないな、そいつ」
「未成年ってことと親父が州議会議員とかいうことで、なんとかな。で、これがそのクソガキの試合内容だ」
忍者はウィンドウを開いて、クソガキチームの試合を再生する。ちなみにクラン名は『トニー皇帝軍』だそうだ。……皇帝名乗るのかよ、と苦笑させられてしまう。
とはいえ小隊メンバー全員で再生動画に見入る。
「あは〜〜ん♡」
なんだ? 裸の女の子と女の子が、妖しくからみ合っているぞ?
「間違い間違い、これは私の個人的なコレクションだ。本物はこっちこっち……」
「いや、だから女の子同士で裸になってからみ合って……」
「個人的なコレクションだ」
その一言で、忍者は押し通した。白百合の三人娘は、いささか引いてしまっている。
で、今度こそ本物の六人制試合の動画である。まずは両陣営の紹介。敵は必殺技ブッパで有名なクラン。私たちがシメたことのある連中だ。そして『トニー皇帝軍(笑)』。チビのトニー皇帝と、大型アバターしかいない。しかも甲冑がゴテゴテと重たそうである。
カウントダウンから……銅鑼!
両陣営飛び出した。両軍正面から激突。まず先制は必殺技ブッパ、とにかく手数が出ている。トニー軍はそれをまともに浴びているはずなのに、防具ひとつ傷ついていない。しかもひるむことなく反撃している。普通は攻撃をもらえば、姿勢が崩れたりヨロめいたりするのだが、皇帝軍(笑)はまったく意に介せず反撃していた。
「敵の攻撃を無効にしてるんでしょうか?」
カエデさんが生唾を飲む。
「ん〜〜というか、甲冑に魔法がかかってるだけ?」
シャルローネさんの見解の方が正しそうだ。敵の攻撃をすべて無効にするよりも、甲冑に特殊効果を与える方が簡単そうな気がしたからだ。
そして皇帝軍(笑)の攻撃は、ことごとくワンショットワンキルというもの。しかし……。
「こりゃ変じゃのう?」
「あぁ、アタイたちの浸透勁とは別物だな」
そう、ただのどつき合いなのに、低俗な打ち合いでしかないのに、キルを取れているのだ。
「ということは、アバターをあれこれイジってるってことですか?」
カエデさんの見解は正解なのだろう。しかし満点は与えられない。この場合の正解は、忍者が答える。
「つまりただの不正者ってことだな。不正者ってのは敵が強ければ敵のことを不正者と罵るクセがある。つまり……他者がどんな技術を磨いているか? ということはまったく考えてない。奴にとってトヨム小隊の技術は、永遠の謎になるだろう」
そう、このトニー坊やがどれだけ私たちの動画を研究しようとも、先入観として『コイツら不正者』があるものだから、私たちの技量を計ることはできないのだ。
もしかしたら私たちの浸透勁を、自分の不正キルと同じに捉えて、対策を講じてくるかもしれない。しかしその対策はトンチンカンと言わせてもらおう。しかし私たちは浸透勁が通じなくなっても、投げ技と関節技がある。どれだけ鎧に魔法《不正》を仕込もうとも、こればかりはふせげないはずだ。
何故ならトニー皇帝の軍(笑)は一切投げ技を使っていないからだ。
検証すればするほど、このクソガキ皇帝のすべてが見えてくる。いまやこの小僧は、私たちの目によって丸裸の皇帝陛下でしかなかった。
つまらん。まったくもってつまらん。
「なあ、忍者?」
「言わないでくれ、リュウ先生……」
「つまらん奴にからまれちまったな」
「お恥ずかしい限りだ」
「ですがー、忍者さん? 忍者さんの趣味は置いておくとしてー、忍者さんってソバカス小僧に入れ込まれるほど、美人さんなんですかー?」
今日も忍者は覆面姿であった。もちろんいつもの忍者装束だ。
「マミ助、私の素顔を知りたいか?」
「興味ありますねー?」
「見れば、ホレるぞ?」
「格好いいな、忍者! 今度アタイも使ってみるよ! ……いいのかい、アタイにホレるぜ?」
トヨムの小隊と忍者は、もうすでに平常運転。いつもどおりの姿に戻っていた。
このクソガキとやらがどれだけの天才なのかはわからないが、一芸の天才などというものは他のことがダメダメなものなのだ。特にこのクソガキ、忍者に色気を出したらしいが対人経験が低すぎるし、人生経験そのものが少なすぎる。こと挫折というものは経験がほとんど無いのだろう。
読者初経は天才少年というものにあこがれるだろうか? わざわざ一度死んでから、異世界転生までして天才少年とかなんとかで人生をやり直したいものだろうか?
私は思わない。
その理由を物的証拠を挙げながらいわせてもらおう。
天才〇〇少年とか謳われてマスコミに取り上げられた子供たちが、テレビや新聞に登場していたが、彼らの誰か一人でもノーベル賞を取ったであろうか?
もう一言。ノーベル賞を受賞したり世の中に貢献できる者というのは、天才ではない。秀才もしくは努力の人でしかない。
かく言う私も師匠から相伝を授かったようなものだが、実は私などよりも物覚えが良く、筋の良いものだったがは数多いたのだ。しかし結果は、私が流派を継いだのである。
それが私の言えるすべてだ。
天才は残らないし残さない。ただ流れ星のように命を削りながら夜空をひと時駆け抜け、消え去る存在でしかないのである。世の天才少年たちは、すでに駆け抜け燃え尽きてしまったのである。
そしてこの天才クソガキは、トヨム小隊と対戦した直後、消えてしまう存在なのだ。何故ならば、私がゆるさないからだ。
ウチの若いモンにちょっかい出しといて、まともな人生送れると思うなよ?
一見するとチンピラヤクザの物言いに聞こえるかもしれないだろうが、これが仁義というものなのだ。男の掟というものである。冗談の固まりのような忍者ではあるが、困りごとを抱えた娘であることには違いない。だから『男』の私が立ち上がるのである。
古流という独特の体臭を放ちながら、血刀を提げて己の信念と、守るべき者を守るために。