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フェイクマッチからセメントマッチへ

 久しぶりの六人制の試合結果、私たちは僅差の判定勝利をものにした。

 まあ、この程度のチームが相手ならば、圧勝も蹂躪も思いのままなのだが、それをしてはいたずらに嫌われ、敬遠されてしまう。対戦相手に楽しんでもらうのが最高の目的ではあったが、とりあえず悲劇を招くようなことは無さそうだ。



「ん〜〜アタイももっとカエデみたいに、相手の技を受けた方がいいのかなぁ?」



 トヨムは反省しきり。



「いえいえ、小隊長のジャイアント・プロレスは最高でしたよ? それとセキトリさんもすごい迫力だったのに、わざとキルに繋げない絶妙の加減」

「そーですよね〜〜。どうせ技を受けるなら、私たち女の子が痛めつけられた方が、対戦相手のみなさんも喜んでくれるでしょうね〜〜」


 なにかこう、プロレスの極意を突くようなマミさんとシャルローネさんの発言だ。

「そして私たちのピンチでカットに入ってくれるのが、小隊長たちという役割分担の方が、対戦相手も楽しんでくれるのでは? というか、この試合……」



 カエデさんが私をジットリと視線を向けてくる。

「リュウ先生、なんにもしませんでしたねぇ……」

「わ、私が出ると興ざめだろ?」

「そこを上手に立ち回るのがプロレスっていうものです」



 おっしゃる通り、ごもっともです、ハイ。



「まーまー……旦那はほら、負け試合にならないようにする試合の決定権者だからさ。試合の流れを読み違えたときにだけ、勝ち戦さにしてもらおうよ」



 さすが小隊長、プロレスではもっとも出番の無さそうな私にも、ちゃんと仕事を与えてくれる。



「なんたってウチの小隊の中じゃ、セキトリと並んで『のされるのが似合わないキャラクター』だからさ」



 うむ、やはり本職のプロレスラーのように、男子でありながらダウンシーンがやけに色っぽいというのは、私ごときにはまだまだ出来そうもない。プロレスの真髄は、やられる側、痛めつけられる側にあるのだ。その点女の子たちは女の子だというだけで、痛めつけられる姿に華がある。失礼な物言いだが、それだけで色っぽいのだ。



「そうなると、布陣も少し考えた方が良さそうですよね。まずは白百合剣士団で引っかき回して捕まってしまう。そこから見せ場たっぷりに痛めつけられて、あわや撤退、というところで小隊長たちのカット。女の子たちがキル寸前でも連携プレイで窮地を持ちこたえて、リュウ先生がさり気なくキルを稼いだおかげで辛くも勝利……」



 筋書きとしては上々だ。まさしくプロレスそのものである。

 ということで、もう一戦。男女混合六人制タッグマッチである。

 しかしいかにプロレスチック、とはいえスリルも必要だろう。シャルローネさん、カエデさん、マミさんが元気よく飛び出したあと、私はこっそりとひとつだけキルを取っておく。もちろん情け容赦のないワンショットワンキルではない。二合三合と打ち合ってから小手の防具、それから兜を奪い、揉み合いの中から面打ちでキルに繋げたものだ。



 その頃すでに、ウチの美少女(笑)現役女子高生レスラーたちは、敵に囲まれ窮地に陥っていた。彼女たちが痛めつけられている現場が中央ならば、その拾遺にセキトリとトヨムが控えていた。いつでも救出に入れる態勢だ。そこからさらに離れた場所に私のポジション。全体を眺めている。


 ゲスッという鈍い当たりに、シャルローネさんはバンザイをしながらひっくり返る。まるでハーリーレイスのようなダウンである。追撃からトドメに入ろうとした敵をセキトリが上手投げでゴロリと転がす。上手い、ダメージを与えぬ投げ技だ。


 そしてカエデさんには二人がかり、二発三発と連打をもらいフラついているが、革兜の損傷は小さい。背中から倒れたカエデさん、こちらもなかなかの名演技だ。カットに入るのはジャイアント・トヨム。後ろから十六文キックで敵をよろめかせ、もう一人には脳天唐竹割り。どちらも大きなダメージは無い。


 セキトリとトヨムで敵を蹴散らすと、やはり嫌気が差したのか敵の鉾は白百合の女の子たちに向かう。しかしシャルローネさんの杖つきドロップキックを皮切りに、乙女たちの反撃が始まった。マミさんの大外刈り三連発、カエデさんのフライングニールキック。敵軍はジリジリと追い詰められた。



 ここでアブドーラ・ザ・シャルローネの凶器攻撃!

……いや、メイスで突いたのだから反則ではない。堂々のクリティカルヒットで胴の防具を奪う。そこをセキトリが上手投げでフォロー、倒れた敵にアブドーラは脚をからませた。


 いや、シャルローネさん……その技は……。アブドーラを名乗っておきながら、シャルローネさんは回転式足首固め、スピニング・トゥ・ホールドをキメたのだ!


これはプロレス界の巨匠アブドーラ・ザ・ブッチャーがライバルとする、テリー・ファンクの必殺技なのだ。掟破りといえば掟破り。問答無用というならば問答無用。とにかく徹底的に敵の脚を痛めつけた。

 防具、破壊。そしてヒザ関節、破壊。そして足首まで破壊していた。つまり敵は、回復ポーションをヒザか足首にしか使えない。そしてシャルローネさんはさらに回転して、ポーションで回復したヒザをもう一度破壊したのだ。


 ヒザを破壊したならば、もう脚に用はない。手を離すと起き上がろうとする敵にメイスでひと突き。さらにはフワリと浮いて体重をかけたヒジを落とす。喉笛だ。これはバイタルと認定されたのだろう、キルをひとついただいた。


 これでテイク・キルはふたつ。まともにクリティカルを取れない敵だ、もう逆転の目は無いだろう。いぶし銀カエデさんは、キューティーの冠に似合わぬ関節技「脇固め」で関節破壊ビッグポイント。そこから雲龍剣の必殺技でキルとした。そしてマミさんも柔道の内股を決めるや、腰から抜いた双棍で連打連打連打。どれひとつ取っても、クリティカルな打撃をダース単位でお見舞いした。



 もう、楽しませる試合はいいかな? 私はトヨムに目配せした。しかし、トヨムは首を横に振る。敵はまだまだ意欲がある。ここは打って打たれてを繰り返して終了の銅鑼ゴングとしよう、というのだ。つまり私の出番は無い。


 経験者、熟練者、実力者が見れば低俗な殴り合いになった。キルどころかクリティカルすらまともに入らない。そんなどつきあいを繰り返して、この一戦は終了となった。

 勝利をゲット。敵にも見せ場たっぷり。自己評点でしかないが、この一戦は上々のデキではなかったか? と思う。


 そしてエンターテイメントの娯楽試合もここまで。

 いよいよ不正者たちが対戦相手として浮上してきた。クリティカルが入らないということで有名なクランである。もっとも、クリティカルが入るか入らないかはクリティカル率が一定以上でなければ計れないもの。本当に不正者かどうかは試合の中で検証するしかない。


 しかしこの不正者というもの、ゲーム全体ではどれだけいるものやら。いくらでもいる、というくらいには存在している。まさかとは思うが、どこかの誰かが不正を是認するようなことを言って、たきつけているのではあるまいか?

 いちおう陸奥屋本店に打診はしておこう。



 では、試合開始だ。

 娯楽試合とは正反対の布陣、つまり私が先頭。続くのはトヨムとセキトリ。まずは探り針を入れるか……と思っていたら、なんの捻りも無く必殺技が飛んできた。


 クリティカルが入りにくいという評判ではあったが、評判は所詮評判。なんのことはない、普通にブッパツールを入れた反則プレイヤーの集団でしかなかった。惜しみなく出される必殺技、そんなものはケロリとかわして、こちらもワンショットワンキルを出させていただく。


 なに、遠慮などいらないさ。『王国の刃』では不正ツールなど入れなくとも、練習次第ではこんなこともできるんだぜ、という『楽しみ』を教えてあげているだけなのだから。


 六人制試合で、私ひとりが三人斬った。トヨムがキルを取りセキトリが撤退させる。その次の犠牲者はカエデさんの必殺技『雲龍剣』によって発生。まずは敵軍オール撤退。ここで戦闘にからんでいないシャルローネさんとマミさんが突っ走る。私たちを追い抜いて行ったのだ。



 目指すは敵陣、復活地点。キルからよみがえった相手を、即座に死人部屋送りにするのだ。

 ただ、敵はすでに復活して駆けて来ていた。私がワンショットワンキルで撤退させたため、防具の補修をしなくて済んだので、すぐに復活できたのだ。私が倒した三人対シャルローネ・マミさんチーム。


 まずはシャルローネさんが先頭の敵をスルー。二番手の敵にクリティカルを入れる。マミさんは先頭の敵を止めていた。双棍を使っての鍔迫り合い、がっぷり四つの態勢だ。その隙にシャルローネさんは三人目の敵をチョンチョンと小突いて距離を維持。そこにトヨムが追いついた。


 二対一の状態からシャルローネさんの攻撃がヒット。ここでもクリティカル、そこへトヨムがトドメ。鎧の剥げた二人目を残し、新たな敵が復活してくる。その頃には私もセキトリも敵陣に到着。生き残りの敵をセキトリにまかせて、私はマミさんの援護射撃。カエデさんは復活した敵を引き付けて、キルを取らない取らせないを演じていた。



 カエデさんの元へトヨムとシャルローネさんが駆けつけ、セキトリが追いつき、私とマミさんも攻撃を始める。

 復活有りの闘いはポイントの稼ぎ所であった。『チャレンジコンテンツ』でポイントを荒稼ぎした私などは、そろそろ豪傑格へ上がるのではないかと思われる。そして今回の敵は根性があった。いつもならば敵わないと知るや不正者チームというものは棄権するのだが、試合終了のそのときまで抵抗を続けてくれる。

 そして試合終了の銅鑼。果たして何周敵を撤退させたものか?


 とりあえず私はこの一戦で豪傑格に昇格したのである。


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