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面倒くさい男! NPC武将!!

 次々と現れる黒備えの武者ども。隊列も横三列に、正面から左右からと、大変に面倒くさい。

 ここをトヨムはノーファイト、ノーダメージで切り抜けることを選択した。可能な限りダメージを減らして敵将に挑むという考えだ。



 そしてまともに相手をしていたら、手間ばかり食って仕方ないという状況でもあった。

 トヨムは黒武者にボディーアッパーを食らわせて、遠くへ吹き飛ばす。トドメは刺さない。とにかく突破口を開いて囲みを脱出する考えである。



 そう、吹き飛ばしの現象はボディーへのアッパーを、クリティカルで入れたときに発生するものだった。あるいはボディーへのフックをクリティカルで入れると、敵兵は横薙ぎに吹き飛びバタバタと将棋倒しになる。


 ただし、フック、アッパー系のスイングパンチはフォロースルーから構えに戻るのに時間が少しだけかかった。ダブルで打つときにはタイムラグが生じやすい。できればスイング系のパンチはコンパクトな浸透勁の打撃を決めてもらいたいと私は考えていた。

 難関の黒武者たちは尽きた。



 トヨムは回復ポーションを使って、ダメージを回復する。いよいよ敵将の待つ砦前に到着したのだ。

 お前は病気だろ? といいたくなるような、スケベったらしい虹色武者が現れた。



「トヨム、こんな変態武者に負けたら恥だぞ……」

「旦那、アタイも同じこと考えてた……」



 なにしろ虹色仮面と呼びたくなるこの武者、面の目が山なりに曲線を描き、ニコニコ顔になっていたのだ。口元部分も口角が上がり、正しく笑い顔なのである。

 トヨムはピーカーブーのインファイトスタイルを解いて、直立姿勢。両ヒジを脇に着けた柔道スタイルに構えを直した。すり足で右へ、右へ。変態武者を中心にサークリングする。



 物の本で読んだことがある。闘う者同士相対した場合、格下がサークリングするものだと。

 ウソかホントかはわからない。しかしトヨムは間違いなくプレッシャーを感じていた。

 変態武者は長槍。穂先は地面に近い下段。そこからトヨムの動きに合わせて、鎌首を跳ね上げてくる構えだ。



 行くぞ、行くぞとトヨムはフェイントをかけるが、変態は誘いに乗ってこない。丁寧に丁寧に、トヨムは間合いを詰めていた。

 変態武者が出る!



 トヨムの腹をねらっての突きだ。トヨムは真半身に身体を切ってこれをかわす。

 突いた槍を小さく引いて、二の突きを変態武者はねらってくる。トヨムはバックステップでこれを逃れた。

 間合いがふたたび遠のく。槍の有利な間合いにされてしまった。


 そこで変態武者がグイグイと押してくる。初手の交換こそトヨムは後退を余儀なくされたが、槍の動きに慣れたか腰を落とし、わざわざ顔面でよけるようになった。



 すると変態武者、今度はトヨムの足をねらってくる。トヨムは足さばきでしか、これを避けられない。先ほどのような顔面でよける上体ならば、槍のケラ首を捕らえることも可能だったのが、そうもいかなくなったのだ。そして足狙いは、トヨムの動きをコントロールできる。トヨムが逃げる方向を変態武者が決めることができるのだ。



 本当にこれ、NPCか?

 思わず疑ってしまうような変態武者のデキの良さである。


 しかし変態度数では、トヨムが上であった。低い場所に突き出された槍の上を駆け上り、変態兜を両手で掴むや、変態面にヒザをくれたのである。パットの入ったサポーターは武具として認められている。トヨムのヒザ蹴りは有効打として認められ、変態武者は消滅していった。




 トヨム、戦利品トロフィーとして、アイテム『ちゃんこ鍋』をゲットした。これを五個集めると、回復ポーション一個と交換してくれると説明書がある。



「お疲れさま、トヨム」



 拠点に帰還したトヨムをねぎらう。



「とにかく数だね、旦那。それに動きがいい」



 武将攻略を済ませたトヨムの感想だ。とりあえず数が多くて面倒くさい。という意味である。そしてNPCとは思えないほどの動きを見せてくれるという。

 まあ、見たまんまの感想ではあるが、実際に体験した者の言葉である。貴重な情報だ。



「あーーっ!」



 唐突にシャルローネさんが声を上げた。



「これ見てください、小隊長!」



 みんなでシャルローネさんの指差すウィンドウを覗き込む。




武将にチャレンジ♡ タイムアタック

第一位 『陸奥屋一党鬼組』 忍者

第二位 まほろば連合『まほろば本宮』 三条歩

第三位 『陸奥屋一党嗚呼!!花のトヨム小隊』 トヨム




 なんだ? いつの間にタイムを計測されていつの間に順位が決められていたのだ?

 というか、忍者のアホまがいの記録はさて置くとして、トヨムが第三位とは……。敵兵に構っていなければもしかしたら、第二位に入っていたかもしれないではないか。



「ん〜〜……リュウ先生? いま現在は空位になってますけど、キルやクリティカルの最高得点も計測されるみたいですねぇ……。どうします、リュウ先生?」

「なぁ、シャルローネさん。この展開で私を名指しにするのはやめてくれないかな?」



「ですけどリュウ先生、忍者がトップレコードっていうことは陸奥屋鬼組で『武将にチャレンジ♡』に取り組んでるってことになりますよ? もしかしたら士郎先生の名前がレコードされるとか……」

「よし、行ってみるか! 士郎さんだけにレコードは残させないぜ!」



 私は木刀を握り締める。



「シャルローネさん、『武将にチャレンジ♡』を開いてくれ!」

「そう来なくっちゃ、リュウ先生!」



「……いいの、シャルローネ? リュウ先生が不正者みたいな名を高めちゃうよ?」

「ダイジョブジョブ♪ 先生の名前が高まるなら、イベントでとっくのトンマに高まってるって♪ じゃあ行きますよ、リュウ先生!」

「よし来い!」





 私は一人、戦場へと飛ばされた。どこまでも続く平野、草木が生えていて杭の壁が仕切っているエリア。私はトヨムがそうしたように、左斜めに歩き出した。ナビゲーターの声が届く。



「リュウ先生、走らないんですか?」



 シャルローネさんである。



「タイムアタックは興味が無いからね。士郎さんもそのはずだ。みんなには悪いけど、少し長い時間付き合ってもらうよ」



 そう言っている間に、敵兵があらわれた。私は丁寧に防具を剥いで欠損部位を発生させたところで、一人ひとりキルを取る。もちろんキルは、丸裸の敵には必要の無い浸透勁で取る。なんとなくその方がポイントが高そうな気がしたからだ。



 段々敵兵の数が多くなってくる。そして連携も上々なものである。トヨムの時と同じだ。

 しかしそれでも、私は丁寧に防具を剥いで手足を奪い、それからキルとした。

 集団を相手にするときは、とにかく回り込まれないことだ。そして挟まれないことである。



 トヨムほどちょこまかとはしていないが、私も足を使って敵兵を操作する。この場合有効なのは、後退であった。前進すれば敵は囲んでくる。しかし後退すると、敵は囲みの手を一度緩めなくてはならない。



「いまの敵の動きを見たかい? 囲まれそうになったら後退だ。これで敵はバラけなくてはならなくなる!」

「わかりましたー、リュウ先生〜〜♪」



 マミさんの返事に力が抜けそうになるが、脱力は必要不可欠だ。三列横隊の雑兵を残さず平らげて、ここまで私はノーダメージ。一発も敵に許していない。


 パーフェクトレコードに気をよくして、赤備えのラウンドに突入する。鎧に色が付くと、クリティカルの判定が厳しくなる。が、私や士郎さんには無意味な設定だ。何故なら私たちの打ちは、機械ごときでは計り切れない精度の打ちだからだ。




 ここでも私はポイントを荒稼ぎする。出てくるやつらにクリティカルヒット、まさしく私はヒットの鬼であった。沢村忠である。赤備えの憎いアンチクショウどもの急所めがけ、叩いて叩いて叩きまくるジョーでもある。


 そして黒備えが現れたときには剣術一代を誓っていた。もちろん今だけだ。命も捨てられなければ富も遊興も欲しいからである。ただし、剣術ひとすじバカになり、修行の日々をまっしぐらに駆け抜けてきたという自負はある。



 恋も遊びもかなぐり捨てて生きてきた、自分の人生に復讐するかのように、私は敵兵を倒して倒して倒しまくった。



「旦那って実は歴史に名前残すくらいの剣豪だったりするんじゃないのか?」



 トヨムが変な感心をしていた。というか、私はその積りで修行に励んで、剣術に打ち込んできた積りだ。今さら何言ってやがんだ、コンチキショー。と、私の人生への復讐とは関係の無いトヨムに、ちょっとだけ八つ当たりする。


 天下無双、日下開山ヒノシタカイサン。私は自分が自分であることを証明するために、そこを目指して剣を振ってきたのだ。




 俺強えぇぇぇえ! ではない。そんなものは単なる自己満足でしかない。私は立ち合いによりそれを証明できるだけのモノになろうと励んできたのだ。別な言い方をすれば、「俺より強い奴がいるのは許せねぇ」となるだろうか? これは自己満足に過ぎない「俺強えぇぇぇえ!」とはまったく別物である。


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