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戦闘シーンはまだ続く

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 さて、NPCの武将を目指して走るトヨムだが、その姿を私たちはひとりひとりウィンドウを開いてモニタリングしていた。ナビゲーター役のマミさんが知らせる。

「小隊長、前方に敵兵の群れ! 数は五人です!」

「よしきたーー! 片っ端からぶっ飛ばしてやるぞーー!」

「元気があってよろしいが、トヨム。あくまで武将を倒すのがこのステージの目的だ、雑魚はあまりかまうな」

「わかったよ、旦那!」

 ということで会敵、五人の甲冑剣士がトヨム目掛けて走ってくる。一の太刀をくぐり抜けて、ボディへのツースリー。右ストレートから返しの左フックを打ち込むトヨム。滑り出しは順調だ。と思ったら、敵兵がサイドに回り込んできた。この太刀もトヨムはくぐり抜ける。そしてボディへの浸透勁。ワンショットワンキルだ。

「トヨム、こいつら進路をふさぐ動きをするぞ。かまわずに武将を目指せ!」

 あいよ、という軽い返事とともに、トヨムは駆け出した。なるほど、甲冑を着込んでいるだけあって、敵兵はついてこられない。いや、通常の六人制試合よりも足は遅い。

「小隊長、次は正面と右側から! 三人と六人です!」

 マミさんの言葉が終わるや否や、敵兵が現れた。ここでもトヨムはワンキルをとっただけで、あまり相手にはしない。するとすぐに左手から敵兵が。今度は六人だ。しかも……。

「小隊長、右手にも三人!」

 左手の敵に注意を払っていたら、背後からも襲われる始末。トヨムは抜群のスピードでこれを逃れ、また走り出す。今回はノーキルだ。

「今度は面倒くさいですよ、小隊長。六人六人の二列、十二人が正面から!」


 本当に面倒くさそうだ。トヨムはバンバンと拳を振るうが、いずれもクリティカル。防具が剥げて敵兵は宙に舞う。なかなか派手な演出である。もしかしたら運営は、この派手な演出でプレイヤーを惑わせるつもりなのだろうか?

「トヨム、気持ちよくぶっ飛ばしたな!?」

「愉快痛快だね、コレ!」

「気をつけろ、トヨム! ぶっ飛ばすことに夢中になってたら、武将までたどり着けないぞ!」

「ありゃ? ホントだ」

 そう、十二人を相手に敵兵を飛ばしていたトヨムは、一歩も前進していない。あっという間に五キルを取ったのにだ。

「こりゃいけね、さっさと突破しなきゃ!」

 顔面へのワンツスリーでキル。そこを突破口としてトヨムは囲みを食い破った。後ろの敵を振り切るや否や、今度は三方向から二列の三十六人が押し寄せてきた。

 キルを取るより飛ばす。その戦法でトヨムは突破口を形成した。しかしこの辺りまで来ると、手傷が多くなってくる。トヨムの体力が徐々に削られ始めた。ダメージとしては、ほんの些細なものでしかない。しかしそれが重なり、それなりのダメージへと蓄積されていたのだ。

「トヨム、時間を作って体力回復のポーションを使え」

「う〜〜ん、まだ早いかと思うんだけど。一応使っておくか!」

 ポーションは一度使うとしばらくは使えない。しかしこのままダメージを蓄積させて、いきなり強敵が現れたら、その場でチャレンジ終了である。ポーションの使い所が肝となるステージだ。そしてヴァージンチャレンジであるが故に、ここは慎重に対処する必要があった。

 ポーションの使用は正解だったか。敵兵の数がさらに増えてトヨムを囲んでくる。四十五人の敵兵だ。しかも囲み方が上手い、三人ずつ当たってきて、一人飛ばされたらすぐに別の兵士が穴を埋めるという戦法だ。

 しかも飛ばされた兵士は甲冑無しの姿で戻って来て、後列に加わり出番を待っている。

「トヨム、ここは辛抱のラウンドだ。丁寧にキルを取っていけ。簡単に飛ばしたりするな」

 ぶっ飛ばすことに酔いしれるな、という指示を与えた。刻々と時間は過ぎてゆく。こう言うと時間制限があるように聞こえるかもしれないが、とくにそういった制限は無い。しかしトヨムの集中力が削られていきそうだ。


 決して楽ではない、このNPCステージ。というか、これは来る冬イベントに対する格好の鍛錬場になるのではないだろうか? これをこなしておくのとおかないのとでは、雲泥の差が現れてきそうである。事実、イベントであれだけ活躍したトヨムが、忍耐を強いられているではないか。

 一点突破、ようやく囲みを破ったトヨムは全身傷だらけ。しかしポーションを使える時間はまだ来ない。逃亡するように敵将を目指すトヨムへ、罠のように三人の敵が迫る。鎧の色が違う。明らかに強い敵兵だ。これがいきなり必殺技を繰り出してきた。間一髪、トヨムはかわしてカウンターを決めた。しかし鎧の耐久値が高い。クリティカル一発では剥げもしないし飛びもしない。そんな敵がトヨムを囲みに来たのだ。

 どうする、トヨム……? しかしトヨムは冷静であった。一人の敵に集中攻撃、しかも回り込んで回り込んで敵をできるだけ正面縦一列に並べるように動き回る。そして丁寧にワンキル。次の敵に集中する。

 上手い、私もその戦法を使うだろう。このラウンドはノーダメージで切り抜けることができた。しかしこの赤い鎧を着た敵が、六人現れたときには私も嫌気が刺してきた。得物も剣から槍に変わっている。しかしここでトヨムは、思い出したように敵兵を一人だけ倒してスルーした。

 冷静さは私たちセコンドよりも上かもしれない。

 赤備えの西洋武者がゾロゾロと現れる。

「右、六人! 左、六人! 正面も六人です、小隊長!」

 いずれも槍兵、しかし真っ直ぐストレートの攻撃にトヨムは強い。ポジションを細かく変えて頭を振って、ギリギリのラインで槍をかわす。そしてかわしたと思ったら弾丸ダッシュで間合いを詰めて、顔といわず腹といわず、ドンドン拳を叩き込んでいく。

 敵は一列横隊だ。一人キルを取ってしまえば、簡単に突破口は開ける。のこる十七人の赤備えを尻目に、トヨムはこの難関を軽々と突破した。

 しかし次がまたいやらしい。赤備え三列。例の上手く囲んでくる奴だ。

「トヨム、左端をねらえ!」

 左をねらえばトヨムはオーソドックススタイルのまま闘える。そして一番端の武者をねらえば、囲まれることは無い。そして赤備えの武者は、クリティカル判定が厳しかっただけのようだ。トヨムは一撃で鎧を破壊した。そしてきっちり当てると敵は吹っ飛ぶことなく、その場に留まっている。トヨムのボディフックが命中。精度の高い一発だったか、赤武者はキルとして消滅した。

 そこからトヨムは逃げる逃げる。軽装を活かしてひたすら走った。

 すると今回最大の難関、赤備え三列三方向。五十四人の赤備えが現れた。

「敵はトヨムの動きに合わせて動いてくる! トヨム、左へ走れ!」

 囲まれる前に仕掛ける。敵をコントロールするのだ。案の定、左の十八人がトヨムに迫る。しかし正面の十八人は遅れ、右の十八人はさらに遅れる。まともに全員相手にする必要など無いのだ。ということで、ここはワンキル。一人消したところからさらに歩を進める。

 しかしこのステージはしつこい。今度は黒備えが現れた。これで銀色の甲冑武者が現れたり虹色の甲冑武者が現れたら、私は絶対に笑ってしまうだろう。

「敵の鎧の色が変わったぞ、トヨム! いままで以上にキビシくいけ! キビシく!」

「もちろんさ、旦那!」

 とても良い返事があったところで、トヨムの初手は必殺『山嵐』だ。脳天逆落としに敵を叩き落とす。プロレスの神さまと言われるカール・ゴッチは、『スープレックスというものは投げるのではない、落とすものだ』と言ったか言わないか。しかしトヨムはその法則に従うように、黒武者を脳天から地面に落っことした。

 結果、もちろんキルである。しかし他の黒武者が槍を突き込んでくる。

 転がるようにしてトヨムは逃げた。逃げて逃げて逃げまくる。

 そうだ、それでいい。出るときは出る、守るときは守る。中途半端が一番よろしくない。ということで、窮地から危ない。危ないからなんとかなる。なんとかなるから安全地帯へ逃れたトヨムは反撃態勢に入った。

 ポジションは真正面に黒武者を一列に眺める場所。トヨムは丁寧に黒武者の鎧を剥いで、キルへと繋げた。


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