チーム『まほろば』と仲間たち
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盆をすぎたけれども、盛夏の勢いいまだ衰えず。しかし強い日差しがあればこそ、木陰の涼しさはありがた味をます。ただし、それは現実世界でのこと。ゲーム世界『王国の刃』においては四季を通じて快適な空間が用意されていた。
そして杜の奥深く、静かな湖畔を眺める場所に神社が建っている。中世ヨーロッパの世界観はどうしたよ?
というくらいに堂々と建っていた。その敷地のさらに奥深く本殿の広間に、チーム『まほろば』とその同盟組織が集まっていた。
チーム『まほろば』、『情熱の嵐』、『迷走戦隊マヨウンジャー』である。最奥の御簾の向こうには、日本を陰から支えると言われている『まほろば』筆頭者、天宮緋影が一段高い場所からみなを見下ろしている。その御前に控えるのは、いずれも巫女服の娘たち。左右八の字に広がるようにして、ポニーテールの御門芙蓉とショートボブの比良坂瑠璃。銀髪の剣士白銀輝夜と、金髪のクセっ毛近衛咲夜。子供子供した三条歩と、三条葵。オールバックに栗色の長い髪をカチューシャで留めた出雲鏡花は太鼓の前に控えている。
その出雲鏡花が、太鼓をひとつトン! と鳴らした。
「これより、まほろば連合総員による夏イベント反省会をおこないます。まずは筆頭、天宮緋影さまより御挨拶」
ポニーテールの御門芙蓉が紐を引いて、御簾をスッと上げる。日章を模したティアラを冠とした黒髪の娘、前髪パッツン。雪よりも白い肌、黒々とした瞳。指先で押したくなるような頬、さくら貝の唇。袖からちょこんと出た指先には扇子が握られている。どこからどう見ても和風なお姫さまの、天宮緋影である。
「みな、楽に……」
清涼な本殿の空気の中、鈴のような声。天宮緋影の言葉に、座礼の『情熱の嵐』、『マヨウンジャー』のメンバーは面を上げた。
「この度のイベントはみなさまのご協力をいただき、私たちまほろば連合は団体としては大変に素晴らしい成績をおさめ、周囲から一目も二目も置かれる存在となることができました。ですが大変に残念なことに、私たち西軍は敗北という恥辱にまみれてしまいました。本日は夏イベントを振り返り、行状の良し悪しを反省し明日への糧としたいと思います」
「それじゃあまず、お姉さんから行こっか♪」
天宮緋影にもっとも近い位置に座した、ポニーテールの娘。御門芙蓉が口火を切った。
「まずお姉さんがコケたのは、陸奥屋一党とぶつかったとき。『嗚呼!!花のトヨム小隊』に属するカエデっていう女の子にキルを献上しちゃったんだよね♪」
自分がキルを取られた話なのに、口調は明るい。
「ねえ、ひ〜ちゃん。お姉さんは思うんだけどさ、陸奥屋一党っていうのはかなりの手練だと思うんだ。……なにしろこの御門芙蓉をあっという間に死人部屋送りにしちゃうんだから!」
筆頭者天宮緋影は、そっと眉をひそめた。
「芙蓉、呼び方……!」
「あ〜〜そうそう、緋影さま。だけど私の感想はあながち的外れじゃないと思うんだよね。ウチも陸奥屋一党にはかなり苦杯をなめさせられてるはずだから」
どれどれ、と言いながら天宮緋影はウィンドウを開こうとする。しかし上手くいかない。あれこれポチポチとタップしているが、思う通りのページは開かれないようだ。脂汗を流しながら、天宮緋影はタップを繰り返すが、とうとうギブアップしたようだ。潤んだ瞳を出雲鏡花を見詰める。
やれやれ、といった体で出雲鏡花はウィンドウに向き合った。タップ、タップ、タップ……。カチューシャで留めているため、露出している額に珠の汗を浮かべた。次に立ち上がったのは三条歩。子供子供した風貌の小娘だ。これがポチポチとウィンドウをタップすると、天宮緋影の表情が明るくなった。
「ありがとうございます、歩さん」
礼を述べたのは出雲鏡花であり、天宮緋影ではなかった。
「葵? 貴女も陸奥屋一党を相手に撤退してますね? どのような相手でしたか?」
茶房店主、三条葵。まずは一礼して口を開く。
「我らまほろば連合、それこそ芙蓉さま輝夜さまを筆頭に考え得る限りの手練を揃えておりますが、陸奥屋一党はそれを上回る猛者を集め、鍛えているものと思われます。それが証拠に私の相手、トヨムという娘は部活動柔道。競技も競技、必死必殺の技ではなかったはず。それでいながら私の目突きにもひるまず、むしろ闘志を燃え上がらせておりましたので、というかケダモノに近い生き物だったと記憶しています」
「禽獣ですか……」
天宮緋影は卑しいモノを見たかのように眉をひそめた。
「ということは、陸奥屋一党。知性や理性に乏しい者の集団なのでしょうか? 私にはそうは見えませんでしたが……」
「お言葉ですが緋影さま」
剣士、白銀輝夜が礼を尽くす。
「私と引き分けたユキという剣士。それはそれは立派な使い手でありました。彼女を禽獣と評するのは、いささか納得のいかぬところ」
「なるほど、それではみなに問います。使い手、と思われる者は陸奥屋一党にどれだけおりましたか?」
「よろしいでしょうか、緋影さま」
迷走戦隊マヨウンジャーの緑髪も長い娘、チビっ子のホロホロが挙手。
「恐ろしいことを申し上げますが、連合筆頭戦力のまほろばを相手にした者たちよりも、むしろ私たち下部組織を相手取った者たちの方が上位の使い手だったのではないかと……」
「……ホロホロ、でしたね? 何を根拠に?」
「はい、チーム『情熱の嵐』リーダーヒナ雄さんが、敵将士郎に一撃で死人部屋送りとされていました。一撃キルなどという技は連合を見渡しても、誰もできない技かと……」
「一撃キルですか……」
天宮緋影、白銀輝夜を見る。
白銀輝夜は一言、「未熟ゆえ……」とのみ答えた。
「ホロホロ、その陸奥屋一党の使い手はなんと申しましたか?」
「陸奥屋一党鬼組、士郎とだけ」
他にも……、と切り出したのは無口な比良坂瑠璃。
「リュウという剣士も一撃キルを……」
「どう思いますか、鏡花?」
天宮緋影の問いに、出雲鏡花は即答。
「我らが筆頭剣士、輝夜さまに芙蓉さま、瑠璃さままで討たれているということは、間違いなく陸奥屋一党の火力が上ですわ。それに、人数。まほろばの同盟がようやく十八人であるのに対し、陸奥屋は四十二人。それもことごとくが一撃クリティカルを狙える猛者となれば、かなり分が悪いというものですわ」
「では今後の方針は?」
「まずは一撃キルの正体をわたくしどもで解明、習得。そして人数の増強ですわね」
「可能そうですか?」
「無理ですわ」
明確な回答に、天宮緋影もズッコケる。萌え袖の両手で日章のティアラを直し、出雲鏡花に改めて問う。
「無理ですか?」
「無理ですわ。そもそもこのゲーム世界『王国の刃』に同盟を結べるほど信頼のできる方々がおりません。そして輝夜さまの力量をもってしても習得できていない一撃キル。どうしてそれを頼みにできましょうや」
「むー、それを言ってはおしまいですよ」
「ご安心を、緋影さま。わたくし出雲鏡花が独自に入手した情報によりますと、近々のうちに運営が『飛び道具』を実装するとかなんとか」
「飛び道具ですか……ダダダダダッ! カ・イ・カ・ン……」
天宮緋影は機関銃を撃つ真似をして、恍惚の表情を浮かべた。しかし誰もがポカンとして対応できない。
「みんな知らないのですか? セーラー服と機関銃……」
マヨウンジャーの槍士、コリンが手を挙げる。
「緋影さま、セーラー服ってどんな服でしょう?」
天宮緋影とまほろばメンバーは目を細めて遠くを眺めやった。
「時の流れというものは、残酷なものですね……セーラー服を知らない世代がいようとは……」
「緋影さま、歩は知ってるなのですよ〜〜。葵お姉さまの制服コレクションの中に、色違いが数点あるのですよ〜♪」
「ちょ! 歩! 待ちなさい!」
「まあ、色違いが数点ですか♪」
緋影は顔を花のようにほころばせる。
「葵、コリンのためです。ひとつ着て見せてはあげられないものでしょうか?」
「いや、ちょ……緋影さま……!」
「お願い、葵♪」
「…………はい……では後日」
「このような展開になることを察し、この三条歩。すでにお姉さまの装束、葵ちゃんコレクションを持参しているなのですよ♪」
「ちょ! 歩!」
「それは素敵なことですね、葵♪ 私も拝見したいとおもいます。ささ、是非是非に!」
右を見る葵、そして左を見る。しかしみな期待に瞳を輝かせている。
「…………はい……」
三条歩が風呂敷を解く。その中には、学校指定とは思えないようなカラフルなセーラー服が畳まれていた。
「……歩? ナニコレ……?」
「はい、お姉さまに是非着ていただきたいと思い集めておきました、スペシャルセーラー服なのですよ〜〜♪」
まずはピンクのスカートにピンクの襟。おヘソ出し出しのミニミニスカート。見えてはならないバミューダトライアングルが覗けてしまいそうなサイズであった。
「あの……歩……? どこでこんなものを買ってきたの?」
「プレイヤーが個人で開ける市、フリーマーケット。陸奥屋忍者市なのですよ〜〜♪」
「歩、そのお店は良くないわ。もう出入りしちゃ駄目よ?」
はいなのですよ、と歩の返事は軽い。
そしてセーラー服を改める葵。途端に表情が明るくなる。
「申し訳ございません、緋影さま。こちらのセーラー服はいずれも陸奥屋一党の忍者が揃えたもの。これでは着用お披露目ができません」
「なにか不都合でも?」
「あれなる忍者はSサイズ。胸の実りにいささかの自信があるこの三条葵。これでは少々キツくて身に付けることがなりませぬ」
「そうですか、それは残念ですねぇ、コリン?」
「い、いえ。セーラー服はもう拝見しましたし、名前を知らなかっただけで実物を見れば、ああこれか! と納得しましたので……」
すると三条歩、すぐさま別の包みを解き、透け透けセーラー服を取り出した。
「このようなこともあろうかと、お姉さまの少し他人には言えないようなランジェリーも同時に楽しめる、透け透けセーラー服Lサイズも用意してあるなのですよ〜〜!」
「あゆみーーっ!!」
VRMMOゲーム『王国の刃』を震撼させる、『葵ちゃんセクシー・ファッションショー』。絶賛開催中……。敢えて詳細は表記しませんが、まほろばメンバーたちの声を集めてみました。
御門芙蓉「おとなしい葵ちゃんが、あんな下着着けてるだなんて……」
比良坂瑠璃「透け透けだと、葵の胸も大迫力……」
近衛咲夜「あわわ……あわわわわ……」
白銀輝夜「落ち着け咲夜、私も透け透けランジェリーくらいは持ってるぞ」
出雲鏡花「上下ともにレースの透かし彫り、しかも勝ちたいときにはFカップ……やりますわね、葵さま!」
三条歩「現実では着けられない下着を、ゲーム空間で着けてみる。……そんな根性なしだから、お姉さまは彼氏の一人もできないなのですよ……」
天宮緋影「葵の本気を見せていただきました。ですがあのような下着で風邪をひかないのでしょうか?」
葵ちゃんファッションショー、閉幕。背中を向けていた男性陣は、天宮緋影に向き直った。
三条葵はすでに巫女服に着換え、真っ赤な顔でもとの場所に戻っている。
その葵に話しかける比良坂瑠璃。
「……葵? うつむきがちは、私の専売特許」
「そんなこと言っても、瑠璃さま〜〜……」
「駄目……顔をあげて立派な胸を張って……勝ちたいときにこそ、Fカップ♪」