これぞ「すめろぎ」のサブミッション
誤字報告ありがとうございました。修正を済ませていただきます。
「よ」
と軽く手を挙げて私たちの拠点を訪ねてきたのは、士郎さんと鬼組御一行さま。一撃キルを仕込んだ小隊メンバーが、出稽古で世話になっている。
「上手いこと仕込んだね、リュウさんや」
「なに、実戦投入にゃまだ早い出来さ」
お互い共通の言語を使い、同じ目標を見据えている私たちは、他人が聴いたら何の話をしているものやら? と首を傾げるくらい、本題から会話を始めることができた。
そして小隊メンバーの出来栄えが、今回の本題ではないことを、私は薄々感じていた。
「鬼組のメンバーにも、一撃キルの技術を?」
仕込んだのか? それとも私に仕込んでくれ、というのか? 士郎さんのことだ、仕込むなら自分で指導するだろう。となれば後者の依頼は無い。そして「一撃キルのスキルを仕込んだから見てやってくれや」という性格でもない。それくらいなら六人制マッチに出て塩梅を自らの目で確かめるだろう。
では鬼組御一行で乗り込んできて、何の用事であろうか?
「一撃キルの方はリュウさんと小隊の特許専売みたいなモンだ。鬼組としちゃあこんなこともやってみたんだぜ、ってことでな。面白い手土産を持って来たぜ」
ということで、ユキさんとダイスケくんが稽古場に上がる。珍しく二人とも柔術の稽古着姿、そこに鉄の甲冑を着けている。
小隊メンバーを集めて見学の位置についた。ユキさん、ダイスケくん、ともに無手だ。
「始め!」
士郎さんの鋭い号令で二人は構えた。ユキさんは無手による剣の構え。ダイスケくんはリーチを活かすつもりか、アップライトに構えている。右手右足を前にした、ユキさんはサウスポースタイル。ダイスケくんは右を後ろに引いたオーソドックススタイル。
ダイスケくんはユッサユッサと全身でリズムを取り、ユキさんはすり足で距離を詰める。ダイスケくんは名刺代わりの左ロー。しかし甲冑が邪魔しているのか動きが鈍い。ユキさんは左右を入れ替え、ヒットポイントをズラした。この動きは、以前カエデさんが披露しようとしてズッコケてしまった、『その場で左右を入れ替えるのに、ジャンプをしない』という体術である。
しかも空振り同然のダイスケくんの左足に、ユキさんの脚が絡みついた。柔道の反則技、蟹挟みである。ここもイベント中、三条葵と闘ったトヨムが見せた展開だ。しかしあのときは三条葵のサミングにより、トヨムは左目を負傷。寝技の攻防は中断されてしまった。
そうだ、ここからの展開を、私たちはまだ誰も知らない。
まずはダイスケくんの左足に絡んだユキさん、ヒザ十字固めでニーを奪う。甲冑と寝技のおかげで上手く動けない四つん這いのダイスケくん。ユキさんはフロントに回り込み、前方向からのチョークスリーパー。……いや、違う。
「うわ……エゲツねぇ……」
トヨムが思わずもらした。ゴキッという音がして、ダイスケくん撤退。なにが起こったのか、解説しよう。
まずはフロントからのチョークスリーパーに入ったユキさん。と、ここで実はフロントチョークではなく、フロントからのフェイスロックであったと訂正しよう。ダイスケくんはその意思とは無関係に、顔を横へ向けられた。つまり首関節が横へねじられたのだ。それらユキさんが、テコの原理で下から上へと圧力をかけたのである。関節というものは、別々の二方向へプレッシャーをかけられると、簡単に外れてしまうのだ。
つまりダイスケくんはユキさんの首折り技一発で深刻なダメージを負い、撤退の憂き目に遭ったのである。
寝技、関節技。しかも局部への技は部位損傷部位欠損で済むが、バイタル……ズバリと言えば首をへの関節技は一撃で相手を撤退させることができる、ということだ。
ではこの知識、どのように使う? 知っただけ、知識だけで終わる草薙士郎ではない。
「次、キョウ。……前へ出ろ」
ユキさん対キョウちゃん♡ だ。今度は互いに剣を携えている。
ここからは詳しく描写しよう。まずはキョウちゃん♡
の攻め。ユキさん、斜め前へ出てこれをかわす。そのまま背後に回り込み、背中合わせ。欠損から外した左手でキョウちゃん♡ の顔面を掴む。いや、左のエラ関節に指を入れて捕らえていた。否応なしに顔を右へと向けられるキョウちゃん♡。その首を、ユキさんは肩に担いだ。
グキリ!
キョウちゃん♡ 、撤退。
「どれ、ユキさん。一丁揉んでもらおうかのう」
セキトリがメイス片手に稽古場へ。蹲踞から相撲の立ち合いの姿勢。気合十分でハッキヨイ! ダイスケくんと並んで、陸奥屋一党が誇る巨漢のセキトリが、全力で『女の子』のユキさんに当たった!
と思ったら、またもやゴキリッ!
不吉な骨折音とともにセキトリが撤退。瞬殺であった。みればユキさんの右脇をが開いている。そこに頭を差し込んでしまったセキトリ。ユキさんの操作で首をひねられ、同時に自分の突進した圧力に潰され、頸椎を負傷したのである。半分は自爆、半分はユキさんの技によるものだ。
「最後のセキトリとの立ち合いがいい例だろう。華奢な女子でも体格に勝る大男を、一撃撤退させられるんだ」
習得に手間のかかる、面倒くさい浸透勁も技のうちに入るだろうが、これもまた便利な技といえた。となると、装備武具の話になる。例えばトヨムのスパイク付きナックルグローブ。こういった装備無しでは拳で殴っても有効打とは判定されない。つまりクリティカルもキルも取れない。
つまりその手の装備をしていないと、関節技は極められない。……私はまだ良い。和服の内側に柔術の稽古着を着ることができる。セキトリもかまわないだろう。平服の代わりに稽古着を着れば良い。問題はお嬢さん方、旧白百合剣士団の三人だ。せっかく可愛らしい学校制服の上に、白とイメージカラーで彩ったウルト〇マン柄の革鎧をキメているのだ。そこに柔道着への変更は無いだろう。
「どうする? シャルローネさん」
「ん〜〜……」
シャルローネさん得意の人差し指をアゴに当てる、『乙女の熟考ポーズ』。
「長袖レオタードのような、インナーとして着ることのできる装備があれば良いんですけど……」
「あるぞ、シャルローネ」
トヨムがウィンドウを開いて装備一覧を眺めていた。
「さすがにウルト〇マン柄のレオタードは無いけどな」
トヨムのウィンドウを覗かせてもらう。全身レオタード、つまりハイレグなどではなく、ヒップも脚も全体的に覆う装備であった。私は一瞬仮面ラ〇ダーの悪役戦闘員のコスチュームを思い出したが、それとは別商品のようで、頭部まで覆うことは無い。
「シャルローネは赤を選ぶのか?」
「そうですねぇ、全体のアレンジを考えれば……」
「じゃあ私は青ね? マミはやっぱりピンク?」
「そうなりますけど、やっぱり原色ベッタリじゃなく、少しアレンジは加えたいですね〜〜♪」
だよね♪ だよね♪ とシャルローネさんは追随する。まあ、おしゃれやコーディネートは女の子の楽しみである。男が口を挟むべきではない。
ふと、ここまで行事に参加していない忍者と目が合う。この忍者は、黄色やピンクの忍者装束を着たりはしないのだろうか?
「なあ忍者?」
「私のことより、もう一人心配してやらなきゃならん奴がいるだろ?」
そう、忍者が指差すトヨムである。デビュー以降、常に私と行動を共にしているが、未だにコスチュームを変えていない。多少のアレンジはあったが、ノースリーブにバミューダのようなショートパンツ。これではヒジやヒザにパッドを装着しても、脇の下をつかえない。
「アタイも全身レオタードに着替えてみるかい、旦那?」
失礼を承知で、ちょっと想像してみる。低身長の割に手足の長いバレリーナ体型のトヨム。
……結論。
「駄目だ、お前が全身レオタードだけになったら、男どもが騒ぎ出す」
「誰も服を着ないなんて言ってないよ! エッチだな〜旦那は!」
お、おう……そうか……。じゃあレオタードを着ても、同じ服装なのか?
「そーだねー、これが一番動きやすいからな!」
トヨムのレオタード問題、どうにか解決である。
解決したところで鬼組、トヨム小隊合同の稽古会である。無双流にも柔の手が無い訳ではない。しかしあくまで剣術の補助。あるいはより深く剣を知るための教材、ということで本格的なものではない。しかし……。
「は〜〜……小手返しひとつでも、神党流とは取り方が違うんですね〜〜」
と言って、ユキさんは感心していた。神党流では片手で仕掛ける小手返し。無双流では両手で掛ける小手返しなのだ。
「しかしユキさん。片手、両手の違いは枝葉の違いに過ぎない。どこを極めるかどのように極めるか? も大事だけど、どのようにして取ったか? も重要な要素だ。よくよく吟味、研究してください」
「あ、そっか。ありがとうございました!」
要するに『枝葉ではなく内容』を見なくてはならない。ということだ。そのように説明したところで、ユキさんが腰に帯びた大小を奪いにかかる。ユキさんは私の手が刀にかかるまで我慢。私が刀の柄を握ったところで、両手を重ねてくる。そのまま体の向きを変える。私は柄を離せない。巻き込まれた、バランスを崩される。そのままユキさんは片ヒザを着いたので、私は転がるしかない。そのまま両手で私の小手をキメにかかる。
私はタップ二回。どうにか小手欠損を免れた。
今回のエピソードは実在友人出雲鏡花が、作者に『骨ある限り栄えあれ』なる歌をウッカリ紹介してしまったがために生まれてしまったものです。こんなもの書いて設定崩壊しないのか? とか、ちゃんと設定を活かせるのか? などの疑問はございましょうが、作者常々出雲鏡花より、「勢いだけで生きる姿勢は、そろそろどうにかなさいませんこと?」と咎められております。常にケツは打たれておりますので、どうぞご容赦を……。