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 囮役……それは眼の前の敵の数を減らす役割であり、キルを取る役割ではない。特に今回のケース、キルを取ったら復活されてしまうというケースにおいては、格別その点が重要になってくる。しかしそれでもキラー本能とクセなのだろう。


 ユキさんのちょっかいはことごとくキルに繋がってしまった。

 このことにはユキさん自身が臍を噛む思いだったのだろう。



「父さん、ちょっと本丸の前まで行ってくるね!」



 苛立ったように宣言してかけだしたのだ。

 どうしたことか?


 つまり復活してきた敵兵が戦場に出てきた途端、また死人部屋送りにしようという考えなのだ。「あ、おいユキ!」と士郎さんが止める通り、ユキさんの行動は個人に対し負担がものすごく大きいのである。



 キル→復活→キル→復活→キル……ひっきりなしというか切れ目なし、あるいは休み無しになるからである。しかしここが合戦の踏ん張りどころ、まさに天王山とばかり、ユキさんは猛然と闘いを挑んでゆく。私や士郎さんのような、一撃キルの技術も無いのに……。



「士郎さん、手伝いに行ってやろうぜ。あの火の玉娘をよ」

「ったく、手間ばっかりかけやがって……」


「手間だけじゃないさ、心配もかけている」

「……誰に似たもんだか」


「恋女房にじゃないのか? だから親は命懸けで守りたくなる。よっ、この愛妻家」



 士郎さんは不機嫌を装っているが、口元がゆるんでいる。



「ちなみにキョウちゃん♡ は士郎さんに似たんだろうな。だから釣れない素振りをしたくなる」

「あれが〜〜? 俺に〜〜? どこがよ?」



 今度は本気で嫌そうな顔をした。男親と息子なんてものは、こういうものなのだろうな、と思う。少しだけ羨ましく感じるのは、私が独身のせいだろう。




 さて、他人の家族に首を突っ込んでいる暇は無い。無茶をやらかすユキさんの救助に向かわなくては。私、士郎さん、トヨムの三人で一撃キルを取りまくり、強引に活路を開いた。



「いまこそ勝機! 陸奥屋一党、突撃ーーっ!」



 実に良いタイミングで鬼将軍が号令をかける。私たち三人で開いた突破口へと、吶喊組が雪崩込んだ。抜刀組が活路を押し開く。力士組が敵陣を完全に崩した。本丸へ、本丸へ。陸奥屋一党はその正面に立つユキさんを飲み込んだ。



「あれあれ? 本丸一番乗りは、なぜか私、マミさんじゃないですかーー!?」



 無駄なバトルを避けていたのだろうか、スルスルとマミさんが本丸に入ってしまった。



「続いて二番槍は『嗚呼!!花のトヨム小隊』、セキトリじゃい! おらおら掛かって来んかい!」

「三番手は陸奥屋一党鬼組の色男! 『甘いタレ目に甘えてごらん、お嬢さん♡』ダイスケがつとめる!」



 ノックも挨拶も遠慮もなし、ドカドカと本丸へ突入してゆく。

 本丸の中は、暗く長い廊下。その奥に光り輝くものがある。駆けつけると、それは丸い大鏡であった。復活した兵士はそこから飛び出してくる。



 次から次へとという有り様だったので、復活兵は相手にしない。それよりも、右手に階段があり上へと続いている。トヨムを押し込んだ。キョウちゃん♡ を登らせる。だがしかし鬼将軍付き、執事の老人が懐中時計を確認していた。



「お館さま、イベントの残り時間が五分を切りました」

「なんと!? してセバスチャン、彼我のポイント差はどうなっておるか!?」


「大変に申し上げ難いことですが……」

「よい、申せ!」


「三分前に逆転を許してしまいました」

「陸奥屋一党、必死三昧だ! なんとしても西軍総大将を討ち取れ!」





 こうなれば手柄もへったくれも無い。誰かが西軍総大将の首を挙げなければならないのだ。それは誰だ? 私か士郎さんしかいない! 本丸二階へ到着、トヨムとキョウちゃん♡ が交戦しているパッと見て総大将はいない。さらに上へと階段を登る。



「トヨム、ここはまかせたぞ!」

「行っといで旦那! 男になるんだよ!」



 欲しいときに欲しい言葉をくれる。ウチの小隊長は実にいい小隊長だ。階段を駆け上がり、三階へ。五人の無双格兵士に守られて、奴がいた! 西軍総大将『キング』である。



「来たな、東軍不正者めが」

「へっ……俺たちの真似したかったら、web中を隅々までさがして不正ツール手に入れてみろよ。絶対に見つからねーからよ」


「どういうことだ?」

「私たちのスキルはツールを使ったものではない。努力と研鑽の賜物だからだ。つまりこのようなツールは存在しないということさ」

「ふっ……努力でここまで来られるなら、苦労はせんよ。者ども、かかれ!」



 五人の無双格たちが襲いかかってくる。しかし数ではこちらが上だ。防具を削り、剥ぎ取って、体力を削りキルをとる。そしてようやく、総大将ひとりとなった。



「よくやったな、東軍兵士どもよ。……しかし私のツールは、ライフが減りにくい、通称タフガイ・ツールなのだ! キルを取れるものなら取ってみよ、愚か者どもめが!」



 士郎さんがゆく。一撃キルの打ち込みだ、しかしライフの減りが鈍い。私も打ち込む、もちろんイマイチの効果だ。



「……それで勝ったつもりかね、西軍総大将よ」



 鬼将軍が出た。理不尽の固まりにして不正を越える者。



「ライフが減りにくいというならば、男が命をかけて一撃を叩き込むのみよ」



 なんだ、その理論は?



「ジョージ・ワンレッツ見参! 入魂のジャーマンスープレックス!」





 自らの脳天を硬い床に打ちつけることもいとわず、革ジャンジーンズ姿のジョージ青年が果敢に『ジョージ原爆固め』を打ち込んだ。しかしそれでもダメージは浅い。



「ならば力士組、必殺の連続毒針殺法じゃーーっ!」



 甲冑に身を固めた巨漢の力士をが、六人掛かりで次々とエルボーを叩き込む。もちろんダメージは浅い。しかし確実に削れていた。



「見たか西軍総大将! これが不正などに手を染めぬ、正義の雷という奴だ!」

「お館さま、そろそろ時間が……」



「む、ならば同志セキトリ! 頼むぞ!」

「まかせんしゃい! 人間魚雷鬼将軍、発射ーーっ!」



 日の丸に『七生報國』と書かれたハチマキ(武装と認められている)を締めた鬼将軍も、セキトリの投げ技で水平に西軍総大将へと頭から飛び込み、爆死。敵のライフは残り少ない。残り時間もあとわずかだ。



「ゆくぞ、士郎さん!」

「よしきた、リュウさん!」



 出し惜しみなど無い。奥伝技の連発である。



「残り試合時間、十秒!」



 執事のカウントが入る。まだ撤退してくれない。



「五秒! 四……三……ニ……」

「爆弾役ならアタイにまかせろ!」



 武装認定されている日の丸ハチマキの小隊長トヨム、セキトリの背中を駆け上がり、大きくジャンプ。そして額から急降下!


 これが西軍総大将の顔面を直撃! 大きくライフを削り、二人揃って撤退してゆく。

 試合終了の銅鑼が鳴った。どちらが早かったのか!? 試合終了が先か? キル判定が先か?

 本丸の中にいる私たちにはわからない。




 ただ、イベント会場にアナウンスが流れる。



「王国の刃、2021夏イベント。現時刻をもって終了といたします。今季イベントは……時間ギリギリで東軍の勝利となりました!」



 本丸から眺める夏の空に、昼間の花火が上がった。私は学生の頃から、この夏空が嫌いだった。『終戦の日』が連想されるせいか、雲ひとつ無い青空が不吉なものにしか映らないのだ。しかし、よくできたCGの青空は、そんな私の思いを書き換えてくれる気がした。







 陸奥屋一党拠点、いつもの畳敷きの大広間。ここに一党メンバーが勢揃いした。夏イベント閉幕のセレモニーを、陸奥屋一党だけで行うのだ。



「えーーっ! なんでなんでなんで〜〜っ! 旦那あれだけ頑張ったのに、無双格や英雄格の格上げ無しなのかよーーっ!」



 トヨムが大声で不満を吐き出す。しかしその不満は、イベント開催前から私が知っていたことだ。



「知らなかったのか、トヨム? イベントでは人数が多すぎるから、キルを取れるプレイヤーは際限なくキルを稼いでしまうだろ? だからイベントの成績は昇格には関係しないんだ」

「だからってさー、御褒美無しはつまんないぞー!」



 ふくれているトヨムを、私はなだめるように言う。



「それを言ったらカエデさんはどうなる? 私たちのためにあれだけ頑張ったのに、キルもクリティカルも稼ぐ機会が無かったんだぞ?」

「あ……そうか……ごめん、カエデ……」


「いいんですよ、小隊長。だけど『王国の刃』史上に残りそうな記録なのに、このまま数字が消えちゃうなんてもったいないですよね〜」




結局私と士郎さんのキル数クリティカル数は同点。どちらが上という決め手は無かった。そして私は辟易として言う。



「カンベンしてくれ、カエデさんは知らないだろうが西軍の総大将は最後まで、私と士郎さんのスキルを不正ツールだと疑ってたんだぞ。私の名前を不正者の代名詞として残さないでくれ」



 セキトリが巨大なアゴを撫でながら言う。



「確かに、リュウ先生や士郎先生の技は一般人から見れば、不正ツールにしか見えんじゃろうな」


「だからさ、これでいいんだよ。本物の古流の使い手が大人げなく、ゲームの中で本物の技を振るってるなんて、お恥ずかしい限りだ」

「お!?」

「おぉおっ!?」




 奇妙な声を上げているのは、マミさんとシャルローネさんだ。開かれたウィンドウを二人で見ている。



「小隊長、早速晒し掲示板にスレッドが立ってますよ!」

「ふむふむ〜、王国の刃夏イベントに、狂戦士バーサーカー二体現る!? だそうですよ?」

「そりゃ気になる話題だね、どんな内容だい?」



 側で聞いていた士郎さんが、身を乗り出してくる。



「はいはい〜♪ いま確認しますからね〜〜♪ ……ふむふむ、ほほぅ……リュウ先生と士郎先生。お二方はツチノコ扱いされてますよ〜〜♪」

「「ツチノコ!?」」



 思わず顔を見合わせる。



「どうやら噂話で、一撃クリティカルを量産するサムライ二人が現れたけど、真偽のほどは? という内容で語られてるみたいですよ〜?」


「しかもしかも、一撃クリティカルからして頭ごなしに否定する派、実際に六人制やイベントでクリティカルを取られたと証言する派、俺なんか一撃キルを取られたぜ派に分かれてるみたいで、えらい議論になって罵り合ってますよ?」


「陸奥屋一党の名前や、小隊の名前。プレイヤー名なんかはでていないのかい?」

「士郎先生? そういうことは瞬殺できない人が言うものですよ? キルやクリティカルを取られたプレイヤーは、みんな『名前なんて確かめる暇すら無かった』って口を揃えて言ってます」



 まあ、そうだろうな。あのおしくらまんじゅうのような戦場で、そんなことを気にしている奴はいない。それ故に動画で私たちを確認することもままならず、名前が出て来ないのだ。

 それが理由で私たちは『幻の存在』あるいはUMA、もしくはツチノコ扱いされているのだろう。




 しかしその手のことを『とても気にしている』男が一人いた。

 アゴの先に梅干しをこしらえて入室してきた鬼将軍である。一同、座礼。鬼将軍は「楽に」と応える。



「諸君、この度のイベントはよく働きよく励んでくれた。鬼将軍、総裁として心から礼を言う。……ありがとう」



 そして奴のメガネが発光する。



「しかし! しかしだ、諸君! 我々陸奥屋一党のおかげで勝利したというのに、同志士郎先生と同志リュウ先生がツチノコ扱いとは何事ぞ!」



 いや、その件はもういいですから、総裁。



「ウチの有名人、最強の二人を束ねるこの私、鬼将軍の名がちっとも上がらないではないか!! このイベントを機に愛くるしい幼女プレイヤーを根こそぎスカウトし、我が理想のハーレムを築く野望が! 私の夢が!!」



 おっさん、ンなこと考えとったんかい?



「か、かなめ君、なにをする!? 聞けーーっ! 私の怒りはこれからだーーっ!! 聞けっ、世の人々よ! 必ず幼女の楽園を築いてやるからなーーっ!」



 美人秘書御剣かなめに引きずられ、鬼将軍は別室へと連れ去られた。そして老執事がうやうやしく、私たちに頭を下げる。



「この三日間、本当にお疲れ様でした。このセバスチャン、お館さまにかわり厚く厚く御礼を申し上げます。お館さまのため、みなさまご自身のための全力プレイ。お館さまも大層お喜びでしたことを付け加えさせていただきます」




 汗と血の三日間が幕をおろした。明日からはどのような稽古をするか? すでに私の頭は通常試合に向けられていた。


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