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進撃開始!

 あまり戦闘の役に立っていない鬼将軍を後方へさがらせ、いよいよ私たちの自由自在だ。


 まずはあの目障りな、神輿に乗った不埒者、出雲鏡花の討伐である。本人は無神論者なのかもしれないが、見る者にとっては不快を生じることもある。よって、まずはあれを成敗しなくては。その意思を陸奥屋無線で送信すると、忍者の返事があった。



「あの軍師気取りは私がヤル」



 頼もしい言葉ではある。しかし何故に忍者が立候補するのか?



「軍師を葬るのは戦士じゃない。忍びの仕事だ」



 そういうものなのか? 忍びや軍師の世界には疎いので、なんとなくしか納得できない。

 忍者は大回りをして雑兵たちを避けながら出雲・ドジョウ髭・鏡花に近づく。大軍を率いているつもりで浮かれきった出雲鏡花は、そのことにまったく気付かない。


 相変わらず神輿の上で軍配を右に左に、すっかり悦に入っているようだ。そのたびにあの耳障りな「オ〜〜ッホッホッホッホッ」という笑い声が聞こえてくる。



「最前線で闘っている西軍兵士にとって、あの笑い声はどのように響いているのか?」

 と、これは私の独り言。私はとにかく眼の前の敵のブッパをかわし、打たせないようにしてキルを重ねるだけであった。しかし……。



「あ〜〜っ! し、しまったですわ〜〜っ!」



 エンパイアステートビルから墜落する旧作『キングコング』よろしく、出雲鏡花が神輿から転落するのが視界の端に映る。


 悪は滅んだ。


 尊い犠牲と言えるだろう。しかし西軍兵、未だ勢い衰えることなく、陸奥屋一党に押し寄せて来ていた。つまり、出雲鏡花の指揮はあまり意味をなしていなかった、ということだ。


 改めてここで確認しよう。私たちは西軍本丸にほど近い場所まで駒を進めていた。そしてキルを量産し続けている。さらに確認事項、復活した兵は、本丸から飛び出してくるのである。

 確認からの考察。理論上、本丸を落とすことは不可能という解しか導き出されない。当たり前だ。キルを取れば取っただけ敵が復活してくるのだ。そしてキルを取らなくては前進できない。



 ここはひとつ、大胆な方針変更が必要となるだろう。なにしろ東軍はいま現在、陣地のひとつも確保していないのだから。それだというのに、西軍は東軍陣地を四つも確保。これではリードしていたポイントがすぐにでも逆転されてしまう。


 東軍兵はそれらの陣地を奪還すべくごちゃごちゃとおしくらまんじゅう、つまり不必要な数が集結している。当然のように、最前線の陸奥屋に対する援護は無い。……あったとしても邪魔くさいだけで、なんの役にも立たないのだが。



「うむ、八方塞がりだな!」



 鬼将軍、呵々大笑。この男、苦しいときほどよく笑う。困難を友とし、苦難を美酒として楽しむ。



「さて、どうするかね。参謀?」



 そして参謀に丸投げするのだ。



「どうするかね? って、総裁。最初から本丸突入という作戦自体を見直さなくてはなりませんが」

「いまさら後退して、陣地をひとつ取ったくらいでは、焼け石に水だぞ? そんなことをしている間にも、西軍はタイムポイントを重ねて逆転してしまう」


「だからどうにもならないと言ってるんです!」

「維新の志士、高杉晋作は『困った』とは意地でも言わなかったそうだ。どんな苦境にも逆転の芽はあるものだよ」



 参謀くん、チツと舌打ちをする。わかるぞ、その気持ち。「だったら逆転の策を打ってみろや!」と言いたいだろう。しかしそこで奇手を打ってくるのが鬼将軍なのだ。



「同志カエデはいるか!?」

「は、はい! なんでしょうか!?」



 いきなりカエデさんを呼び出した。




「いま現在我々は、敵陣深くにあって囮作戦を敢行するには難しい」



 そう、釣り出した敵軍を東軍豪傑格、英雄格の元に送りつけるのは、ハッキリ言って不可能だ。



「同志カエデ、君ならどうする?」

「東軍陣地へ敵軍を送りつけても、また復活されるだけです。ならば西軍本丸陥落の瞬間まで、引きずり回すしか無いと思います」

「では、良きように」



 それだけだった。万の人員が参加し、三日間を賭けて戦ったイベントの成否を、たった一人の女の子に委ねようというのだ。大博打と言えば大博打。無責任と言うなら無責任もはなはだしい。


 しかしそれが本当に無責任と責めることができようか? すべてのプレイヤーは、自己責任において自軍の勝利を目指しているのだ。鬼将軍もまた然り。ここで博打を打つのは、鬼将軍にしか出来ないであろう。

 ということで、トヨムが采配する。



「最後の一戦だ。なんとしてもこの囮作戦、成功させたい。で、カエデとシャルローネ。この二人で時差式に囮作戦を行う」



 とにかく眼の前の人数を減らすのだ。そうしないと陸奥屋の突破口は拓けない。



「そういうことなら、ユキ。お前も囮をやれ」



 士郎さんから指示が飛ぶ。囮役第三段、ユキさんも登場だ。



「え? でも父さん、そうなると本丸での決戦兵力が減っちゃうんじゃあ……?」

「後のことは父さんたちにまかせろ、なにリュウさんもいる。西軍本丸落とすにゃお釣りが来るってものさ」



 ということで、囮作戦発動準備。私たちは東軍から見てマップの左側から攻めている。西軍復活兵たちはセンターの本丸から入場、私たちの行動を妨害している。


 ということでカエデさん、シャルローネさん、ユキさんの三人は陸奥屋陣営の右手に移動した。



「よし、今だカエデ! 頼んだぞ!」





 男前な娘、小隊長のトヨムが時合いを告げた。陣営から離れたカエデさん、大きく迂回して西軍勢力の脇腹にちょっかいをかけた。クリティカルを入れられ、小手を破壊された西軍兵士は退いた。


 しかし他の兵士が反応、カエデさんに応戦を始めた。丁寧な誘いだ。ひとつ打っては三つ楯で受ける。その繰り返しで対戦相手を徐々に本隊から引き離す。そして……。カエデさんの存在に気付いた西軍兵たちが、カエデさんを囲もうと動き出した。カエデさん、後退。西軍兵士たちはさらに囲もうと隊列を伸ばしてくる。つまり、釣れた。



 怒涛のような西軍兵団の波が、カエデさんを飲み込もうとする。そのたびカエデさんは後退し応戦。相手にされた西軍兵団はさらに囲もうと伸びてくる。丁寧に、丁寧にカエデさんは敵兵を引きずり出した。革防具に傷はつけさせるが、パージには至らない。そのギリギリのラインでカエデさんは応戦。そして革防具の耐久値がミリ単位になったところで、背中を見せて逃走!



 逃げる者を追いかけるのは動物の本能、西軍兵団はカエデさんを追いかけて走り出した。もちろんこれまでのように、何故隊が走り出したのか理解できていない者たちも追従してしまう。

 私たち陸奥屋本隊への圧力は、大きく削減された。



「頑張ってーー! カエデちゃん!」

「エリアの果てまで敵兵を引きずり回してください!」



 シャルローネさんとユキさんの声だ。この囮作戦で大きく敵勢力を削減できれば、自分たちが危険な囮にならなくて済む。という打算ではない。


 相身互いとでも言おうか、あるいは陸奥屋一党の勝利を祈念してか、心の底から成功を願う叫びであった。

 もちろんこの好機を無駄にする私たちではない。



「目録技、雷之太刀!」

「目録技、疾風!」



 私が縦の打ちを連発すれば、士郎さんは突き技を連発する。



「アタイだって! ……幻の右っ! ファントムブロー!」



 トヨムも一撃キルのパンチを振るい始めた。セキトリはセキトリで突き技を連発で差し込み、防具破壊からキルへと繫げる。威勢のいい掛け声で突進するのは、巨漢のダイスケくんだ。


 スモウタックルよろしく、敵兵をコカしまくる。それをキルまで繫げるのがキョウちゃん♡ の役割だった。もちろん陸奥屋の槍組抜刀組、力士組吶喊組もよく働きよく協力し合い、効率よくキルを重ねていた。





 そしてキルを稼げば稼ぐほど、敵兵は復活し群がってくる。



「囮作戦第二弾! シャルローネ、頼むぞ!」



 シャルローネさん、出撃! 陸奥屋本隊からこれまた離れて、こちらは敵軍の脇腹へ……近づいたり離れたりを繰り返す。復活してきた敵兵から見えるように、目立つように、シャルローネさんはチョロチョロと走り回る。そうしている間に、西軍兵も気付いたようだ。シャルローネさんが紙装甲の革鎧しか着ていないことに。一人二人から五人十人。


 シャルローネさんを狙う西軍は、個から列へ、列から面へ。面は隊、軍となって迫ってきた。そこでシャルローネさん逃走!

追いかける西軍兵たち。つまり、釣り出し成功だ!



 ここでカエデさんの逃走経路が光る。カエデさんは東軍から見て左側、つまり私たちの背後を通過するような逃走経路を選んでいた。つまり、後続する囮役がルート選択に困らないように、マップ中央と右側を大きく空けていたのだ。


 それに救われるようにシャルローネさんが走る。まずはマップ中央、そこから奥深くまで入り込み、マップ右側へ逃れ浅い場所まで戻ってくる。

 大軍を引きずり出してくれたおかげで、私たちへのプレッシャーはさらに軽くなった。バタバタと敵をなぎ倒し、復活してくる場面まで見えてきた。


 そう、私たちはいよいよ西軍の本丸へと迫ってきたのだ。しかし背後から襲ってくる西軍兵士の影無し。これは西軍総大将の指揮が悪いのか? はたまた転身すべしの指示を理解できない兵卒が悪いのか? それはわからない。しかし事実として、私たちの眼の前には西軍無双格の薄っぺらな防御しか見えなかったのである。


さあ、勝負だ!


 しかし西軍無双格は散を乱して逃走。そして数人ひとかたまりになってから私たちに立ち向かってきた。



「ショッパい連中だな、無双格……複数で固まらないと戦闘できないのかよ?」

「リュウさん、それを彼らは確実性とか合理性とか言うのだろうよ」



 私は背後の鬼将軍を見た。カーーッ、ペッと唾棄している。この男子らしからぬ無双格の姿勢に、渋いものを感じ取ったのであろう。

 とにかく、最後の防衛線だ。英雄格の復活者とまとめて一緒に地獄へ逆落としであった。



「ユキ、出ろ!」



 士郎さんが愛娘にして流派の後継者に命じる。

 囮役、ユキさん見参。しかし囮役というよりも、ひとり遊撃隊といった感じ。チョンチョンと挑発しているだけでいいのだが、力余ってかキルまで繋げてしまう。



「こらユキ、囮役は奥伝技など使わなくていいぞ」

「は、すみません! 父さん……じゃなくて師範!」



 そうか、ユキさんが使っていたのは奥伝技か。……ただの横面打ちにしか見えなかったんだけどな。ということは、かなりキツイ技なんだろうよ。

 ユキさんの囮役はイマイチの成績。士郎さんが言った通り、ケチな攻撃で挑発していればいいものを、キラー本能が働いてか、奥伝技でキルまで運んでしまうのだ。


 不器用な娘だな、とは思うが笑うものではない。不器用な方が熱心に稽古する。稽古して汗を流す。流した汗が術者を裏切ることは無い。だから後継者に選ばれるのだ。


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[気になる点] 鬼将軍が最初から最後まで無能やな こいつが上におるの不快なんやが
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