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停滞から進展へ

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 緑髪の小柄な女の子、ホロホロさんとシャルローネさんは、得物の距離が極端すぎた。シャルローネさんは長得物のメイス、ホロホロさんは短剣ダガー。しかしこちらは戦法の勝利だ。つまりシャルローネさんは遠間を保つアウトボクシングに徹したのである。



 クリティカルなど狙わない。遠い間合いでチョンチョンと突きを入れて、距離を保てたら足をうばう。それから豪快な打ち……などしない。あくまで正確に、あくまで的確にホロホロさんの体力を奪い続けて、かなり地味な戦いで撤退とした。



 最後に鎧とモーニングスターで武装したモモという女の子とマミさんの対戦。ここで私はマミさんの工夫を拝見した。敵の鎧を剥ぐ手順である。バランス悪く鎧を破壊していたのである。右脚の鎧を奪ったなら、左腕の鎧を破壊する。そうした工夫で敵の動きをチグハグにしてゆくのだ。その上でバイタルパートを打ち抜く連打。ダブルのトゲつき棍棒を打ち込んだのだ。



 ふむ、鎧を剥がれた部位は、どのプレイヤーもかばう傾向にはある。ならばムキになってそこを狙うのではなく、動きにくい状態、対角線上の部位を攻撃してやるのが良手と言えよう。


 ゲーム内の鎧は、実際に重たく感じるものではない。大変に動きにくくするものらしい。そしてアバターの速度を落とす効果があるそうだ。ならば対角線上に防具を破壊すれば、自然と動きにもアンバランスが生じることになる。



 さて、敵の新兵格、熟練格といった手合が復活。いよいよ接近してきた。士郎さんとともに最前線を守ることにする。そこへ熱血を絵に描いたような若者が現れた。



「ジョージ・ワンレッツ、ここに推参! 不正に手を染める卑怯者は、この俺がゆるさん!」



 ゆるさん! は、いいけどお兄ちゃん。さすがに革ジャンとジーンズって鎧無し姿じゃ、キビシイものがあるんじゃないかい? と思ったのだが、このジョージくん。片手剣を振りかざして頑張る頑張る。

 荒削りではあるものの、クリティカルをバシバシ入れまくって、ともに最前線へ回ってきた小隊メンバーを手助けしてくれる。




「やるじゃないか、あの若いの」

「あぁ、ちょっと無茶が過ぎるけどな」




 ということで、私たちオッサンも木刀を振るう。ジョージ青年とは違い、私たちは一撃キルを量産。次々と敵を死人部屋送りにした。たちまち敵の陣形が崩れる。私や士郎さんを避けて、小隊メンバーやフィー先生たちに群がるようになった。



 しかしウチのメンバーとて、一撃クリティカルは奪えるのだ。しかも二人一組は心得ている。簡単な相手と思ってもらっては困るのだ。私と士郎さんは、メンバーたちの討ちもらしを片付ける役に回った。敵からすれば、前に出ては防具を破壊され、後退しては私たちにキルを奪われると、散々な目に遭っていた。




「あ、咲夜さん。戦闘が本格化してきたんで、私行きますね」

「そう? ほんじゃ私も本気出すけんね! 行くわよ、ユキ!」

「咲夜さん、御免!」




 上段から打ち込んできた近衛咲夜とすれ違うように、ユキさんが胴を払った。一撃である、というか腕前に差がありすぎる。そして忍者と遊んでいた白銀輝夜だが、こちらは美人秘書の御剣かなめさんが出て小手を取り、あっさりと投げ技で仕留めてしまった。



 つまり忍者に、いつまでも遊んでいるな、と言いたかったのだ。

 ユキさん、忍者、最前線に復帰。そしてキョウちゃん♡ ダイスケくんも復帰。あとはウチの小隊長トヨムと、総裁鬼将軍の復帰を待つばかりだ。



 しかし、まだいる。『まほろば』の手の者が。比良坂瑠璃である。薙刀の巫女服お嬢さんだ。これは撤退させてあげなくては、復活した鬼将軍が「それ、勝者のそなたに我が熱い唇を捧げよう!」とか言われかねない。

 ということで私がゆく。比良坂瑠璃を足止めしていた一党各組員に最前線へ行くよう言いつけ、比良坂瑠璃と対した。



「……剣士、薙刀に勝てると思ってるの?」



 比良坂瑠璃が初めて口を開いた。



「お嬢さん、ナイスミドルに勝てると思ってるのかい?」



 彼女のトラウマになっているであろう、ウィンクをひとつバチコーンと飛ばす。

 比良坂瑠璃の顔が、少し強張った。今である、小手! さらには袈裟! バイタルまで一息で打ち込んだ。

 クッ……という顔をして比良坂瑠璃、撤退。消えてゆく比良坂瑠璃に私は声をかけた。



「撤退で良かっただろ、鬼将軍と再戦しなくていいんだぞ」



 薄っすらとなって消えてゆく比良坂瑠璃は、ここで初めて気が付いたように、ハッとした顔であった。


 そしてようやくトヨムと鬼将軍が復帰。そしてすでに復帰している『まほろば』メンバーは、兵をまとめて東軍陣地を占領していた。それも、ひとつやふたつではない。新兵格の陣地が四つも落とされていた。



「今年の東軍は無能かね」



 鬼将軍が呆れたように言う。私たちのようなチンパン軍団が言っていいことではないが、それでもお粗末なものだ。陣地を占領せず、本丸を目指している私たちに、新兵格熟練格がくっついてきて、陣地を空にしていたのだ。いまやもう、雑魚兵(これまた失礼!)ばかりが集まって、大した戦力にもならない軍団が英雄格陣地の手前でウロウロしているのだ。


 そんな状態だから敵の目を引くこと目を引くこと。邪魔くさい敵の兵隊が数ばかり集まってくるのだ。それを少しでも数減らししてくれれば良いのだが、戦っては撤退を繰り返してくれるので、邪魔にしかなっていない。

 いまや陸奥屋一党の敵は、西軍の数を呼び寄せて、戦力として全然期待できない東軍兵であった。



「えぇい! 数ばかり集まりおって! まったく前進できないではないか!」



 鬼将軍も苛立ち気味である。

 すると聴くも耳障りな笑い声が、私たちのもとに届いたではないか。



「お〜〜っほっほっほっ! いかがでしょう、陸奥屋一党のみなさま! これぞ出雲鏡花の一計、人海戦術ですわ! 前に進むことが叶わないでしょう!? 今どんな御気分ですかしら? 今どんな御気分ですかしら!?」



 頭に烏帽子のようなものを載せ、孔雀羽根の扇にドジョウ髭。黙っていれば可愛らしいお嬢さんなのに、悪趣味なアレンジがすべてを台無しにしている。それが神輿のようなものの上に乗って大きな顔をしているのだから、余計に趣味が悪い。


 ちなみにお祭りの御神輿は神さまの乗り物なので、興奮のあまりあれによじ登り周囲を煽るという行為は大変に不敬な振る舞いです。そういう輩がいたら迂闊に注意したり近づいたりせずに、できるだけ離れた場所から残念な者を見る眼差しを送ってあげましょう。


 そして本題に戻る。

 神輿に乗ったドジョウ髭のデコ娘は、陸奥屋一党に扇を向けて言った。



「さあ、助けに参りましたわよ、緋影さま! やはりこの場で頼りになるのは、この出雲鏡花イチの忠臣ですわ! お〜〜っほっほっほっ!」



 いや、お前人集めただけで何もしてねーじゃん。

 っつーかこの兵隊たち、本当にお前が集めたのか?

 たまたま人が集まってるところにしゃしゃり出て、自分の手柄にしてんじゃねーのか?


 私たちは現場で働く者である。現場で働く者というのは、軍師気取りの輩をそのような目でしか見ていないものである。しかし、敵が人海戦術で来るというのであれば、こちらもひたすらその意思を打ち砕くだけである。そして敵の初心者集団は、あまり不正に手を染めていないものである。




 私は低い姿勢、グッと腰を落としてかかる。目に見える上段からの打ちを入れるより、見えにくい下からの攻撃でキルを重ねていった。すなわち、脇腹への斬り上げ技。ほぼすべてのプレイヤーが、これには対応出来なかった。

 そして敵の攻撃というのが上から下への打ち、というような単調なものでしかない。故に変則的な動きの多い陸奥屋一党にとっては失礼ながらカモ、あるいは良いお客さんになっている。

 しかしそれも新兵格のみ、熟練格と思しき連中が出てくると、王国の刃名物とばかり不正者の群れが現れ始めた。



「さあ、不正者が出てきたぞ!」



 鬼将軍のひと声で、私たちの動きに変化が出る。ご存知『敵の正面に立たない』という横の動きが出てきたのだ。

 そして口先ばかりかと思っていた鬼将軍だが、意外にこれがヤル。右に左に動き回り、敵の攻撃をかわしているのだ。ただ、攻撃はできない。戦闘の能力で、というよりも全体を見るとか周囲の確認というような能力だけで行動しているのだ。

 そもそもこの男、玄人の動きではない。足さばきひとつ見ればわかる。ぴょんこぴょんこと跳ね回っているのだ。私や士郎さんとまではいかなくとも、経験者のようなすり足からできていない。



「かなめさん、総裁はそろそろ……」



 士郎さんの提案で、鬼将軍は後方へ。例の背もたれだけが異様に高い椅子へと押しやられた。


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