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番外編 【異次元時代劇】剣客放浪記

番外編です。投稿は不定期になるかもしれません。

国へ帰ってきてみれば、長屋からなにから木造建築物はことごとく潰されていた。

あぁ、やはり俺たちは敗けたのだな。

いまだブスブスと煙をたてる焼け跡を見て、和田龍之介は実感した。


龍之介は中条流の流れを与む柳心無双流の剣術師範であった。

その道場兼住居に帰ってきたのだが、やはり道場は焼け落ちていた。



「おう、リュウさん。生きてやがったか」



呼ばれて振り向くと、草薙神党流の草薙士郎右衛門が真っ黒な顔で笑っていた。



「おう、士郎さんか。あんたどこに就いてたんだ?」



戦争の配置についてである。



「俺か? 俺は南の犬垣の陣地よ」

「なんだ、激戦区じゃないか」

「そういうあんたはどこにいたよ?」


「私かい、私は坂又峠だったよ」

「あそこも相当だったらしいじゃねぇか」

「あぁ、なにやら伴天連みたいのがウジャウジャ涌いてきて、鉄砲やら大砲やらで散々だったよ」



二人の母国アキツの国は、ある日突然異国人の襲撃に遭い戦争となってしまった。

アキツの国は刀剣が主武器、伴天連の異国人たちは鉄砲に大砲を主武器としていた。

龍之介は斬った、刀の中茎が腐るほどに斬った。


士郎も斬った、嫌になるほど異国人を屍にした。

それでも国は敗けた。

山河あれど草莽深しといえど、国は負けてしまった。



「おう、リュウさん。伴天連の行進だぜ」



士郎が言う。

龍之介は道をあけた。

鉄砲を肩に担いだ伴天連どもが大威張りで行進してゆく。


そして見下すように一瞥をくれて去っていった。



「チクショウ、腹クソ悪いなぁ。一丁斬り込んで討ち死にしてやろうか」

「士郎さん、あんた家族はどうだったんだい?」

「女房も子供たちも行方知れずさ」


「だったら自重するんだな。生きていれば会える日が来るかもしれん」

「死んでたとしたら、斬り込みかけるぜ。そういうリュウさんはどうなんだ、自慢の幼妻は?」

「こっちは死んだ。武人の妻らしく特攻かけて蜂の巣にされたらしい」


「だったら俺なんかより、あんたの方が……」

「私が特攻しかけて華々しく死んでも、アレは喜ばんよ。むしろ天寿をまっとうした方が、『よくガマンしたね、エライエライ』って言ってくれるさ」

「ああ、そうだったな。そういう女傑だった」


「ところで士郎さん、いくら持ってる?」

「なんだ、しんみりした話なのに腹でも減ったのか?」

「いや、これから先の食い扶持さ。どうしていこうかなと」


二人とも剣術師範、禄こそんでいないが武士としては扱われてきた。

自営業だったからこそ、食い扶持は気になる。



「士郎さん、算盤はできるか?」



商売はできるか、という意味だ。



「剣客が商人のマネなんてできるかよ。リュウさんはどうよ?」

「同じく、からっきしだ」

「お互い藩のお抱えにはなれなかったもんな」


「いっそ腕貸し商売なんてどうだろう? 伴天連が無体を働いたら、ぶっ飛ばしてやるような……」

「悪くないな。だがその前に名前を売らないとよ」

「やっぱり辻斬りに身を落とすのかね……」


「愛しの女房に顔向けするためさ、ガマンしろ」



辻斬りを働けば警備が強化される。

そんなことは分かっているがしかし、それを止められないほどにまで二人の心は荒んでいた。

もはや国も主君も愛する者までも、すべて失っているのだ。



「じゃあ具体的にどこへ行く?」

「揉め事ってのぁ酒と金と女がからむ」

「柳町だな?」

「おうよ、行くべ行くべ」



柳町はいわゆる繁華街、大人の特選街というやつだ。

酒も金も女も集まっている。

しかし華やかなりし色の都も、戦塵をかぶり煤けてみえた。


煤けて見えてはいたが、それでも賑わっている。

主な客は伴天連どもであったが……。



「おう、いるわいるわ。酒と女でお楽しみのクセして、金払う気の無いトボケた輩がよ」

「とはいえ昼間っから辻斬りはマズイだろ」

「なに、派手なダンビラは振り回さねぇさ」



そう言い残して、士郎は人混みに紛れ込む。

そして「おっとゴメンよ」。

伴天連と肩を触れ合わせて、そのまま通り過ぎる。


伴天連は崩れ落ちた。

伴天連の取り巻きたちはなにかの冗談だと思ったのだろう、笑顔で話しかける。

だが、返事がない……すでに屍となっていたからだ。


龍之介は誰にも聞かれぬように、低く口笛を吹いた。

柔においてはどこの流派でも極意に相当する、当て身の技だったからだ。


取り巻きの中から医者を呼びに駆け出す者がいた。

……龍之介の獲物だ。

人混みなので取り巻きも速くは走れない。


龍之介は入り身の術を使って人混みの中を走る。

すぐに追いついた。

そして首筋に触れて、頚椎を握り潰した。


医者を呼ぶのがこれで遅れる。

士郎も逃げやすくなるだろう。

伴天連の亡骸を辻の陰に投げ捨てて、龍之介も姿を隠した。

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