イベント最終日、停滞
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「フ……新手かね……」
これまで先頭にいた鬼将軍だが、眼の前の敵が片付いたことで暇を持て余していたのだ。それが予告も無しに現場へと口を挟んできたのだ。
「ということでフィー先生、私が交代しましょう」
「どひ〜〜っ!! って、総裁が!?」
「遠慮はいらない、フィー先生。どうぞこちらへ……」
「え!? あの……ちょっと……」
有無を言わせず鬼将軍はフィー先生をさがらせ、自ら比良坂瑠璃の前に立つ。
その怪しい雰囲気に、比良坂瑠璃の薙刀も止まる。
「……………………」
明らかに警戒している、眼の前の怪人に。鬼将軍の得物はステッキ。上に丸い玉のついた、先端が尖ったステッキである。海軍軍服に黒マント、黒い革長靴の怪人はコツコツとステッキをついている。
「さ、お嬢さん……お相手を……」
バチコ~ンと片眼をつぶるウィンク。そして唇だけで投げキッス。比良坂瑠璃の顔から血の気が引いた。鬼将軍、その戦闘能力はまったくの未知数なのだが、間違いなく比良坂瑠璃に精神的なダメージを与えている。
ジリッ……鬼将軍が間合いを詰めた。ジリッ……比良坂瑠璃は会敵以来初めて後退する。ジリッ……さらに鬼将軍は間合いを詰めた。スッとステッキを上げた鬼将軍、フェンシングのように構えを取った。その途端、豪雨が打ちつけるように間断なく薙刀を振るってきた。
「フハハッ! やるではないか! だがそうでなくてはならない! ……そうだな、ここで勝利者賞を設定しようじゃないか。勝者は敗者の唇をいただくというのはどうかね!!」
比良坂瑠璃の顔色が、さらに悪くなった。というかすでにどん引きという姿勢だ。完全に腰が引けている。その隙を突くように、鬼将軍が攻勢に出る。比良坂瑠璃、無口でうつむきがちな娘だが、顔立ちは大変に整っている。その唇をいただくというのだから、鬼将軍も俄然熱くなるというもの。
もちろん一方的な取り付けなのだが。
しかし邪な男の邪な企みなど、成就した試し無し。
「お、済まない大将」
白銀輝夜の攻めを避ける忍者が鬼将軍の足をさらった。鬼将軍転倒! その隙を見逃す比良坂瑠璃ではない。刃で石突でこれでもかと鬼将軍を攻め立てた。
鬼将軍、口ほども無く撤退。
「なぁ、士郎さんや?」
「なにかね、リュウさんや?」
「ウチの総裁、戦闘の腕前はいかほどなのかな?」
「野郎相手には滅法強いんだがね……」
「だが?」
「可愛らしい女の子相手には、まああの通りさ……」
「だらしない、って奴だね?」
まあ、あの男のことだ。わからないでもない。
しかし陸奥屋一党の総裁が撤退では話にならない。奴が合流するまで、私たちは先へ進む訳にはいかない。
「かなめさん?」
同行する牛車(牛はもういない)の中から声をがした。捕らわれの天宮緋影だ。
「鬼将軍はどうしましたか?」
「はい、チーム『まほろば』の比良坂さんにより、死人部屋送りとなりました」
「瑠璃が手加減知らずなのは存じてますが、それでも鬼将軍を名乗っておいて、だらしないものですね。カーーッ、ペッ!」
痰唾吐くなよ、お姫さま。
「それでは私を囚われの身から救い出してくれる忠臣は、瑠璃ということですか?」
「なんの緋影さま! 『まほろば』イチの忠臣はこの白銀輝夜をおいて他に無し! えぇい、この忍者め、さっきからチョコマカと!」
「……そうですねぇ、緋影さま。白銀さんの腕前では、いずみを倒すのに今しばらくの時間がかかるかと……」
「輝夜はイイ人なんですよ、かなめさん?」
「わかります、質実剛健にして純情一直線。乙女なれば許されることですが、男子でアレならば相当にうっとうしいかと……」
「あ、そろそろ私たちも攻撃していいかな?」
迷走戦隊マヨウンジャーの小柄な女の子が声をかけてきた。
「せっかく東軍の雄、陸奥屋の前に立ったんだから、ちょっと絡ませて♪」
「女の子ばっかりかい、ワシャ苦手じゃ」
セキトリが辟易したように逃げ出す。ということで、シャルローネさん、カエデさん、マミさんにお鉢が回る。
「でもでもリュウ先生、私たち三人しかいませんよ?」
「じゃあフィー先生もお願いします」
マヨウンジャーは六人、こちらは四人。ということで、
「私も助太刀するかな」
「だがリュウさんや」
「なんだい士郎さん?」
「こっちにチーム『情熱の嵐』が控えているんだが」
「そこは士郎さんにまかせます」
「ヤングボーイ五人、いや女の子もいるか。若造五人を相手かよ」
「面白くないですか?」
私はまず、槍を抱えた鎧姿の男を、一撃キルしてみせた。これで五対四、私は抜ける。
比良坂瑠璃の足は、陸奥屋抜刀組と槍組で止めている。
「ほれ士郎さんや、とっとと片付けないと西軍新兵格や熟練格、豪傑格の復活した連中が迫ってきますぞ?」
「仕方ないなぁ」
そういう士郎さんの傍らに、ちゃっかりセキトリは陣取っている。
で、迷走戦隊マヨウンジャーの面子を改めて紹介。まず小柄な長い緑髪の娘ホロホロ、得物は短剣。これの相手はシャルローネさんがつとめる。そしてブルマ姿の拳闘士アキラという女の子、これはカエデさんがお相手。鎧に戦斧のベルキラという戦車役にはフィー先生。鎧にモーニングスターを振りかざすモモにはマミさんが当たる。
で、残る一人コリンという槍の鎧娘は、ハンデが無いように私が一発キルを取らせていただく。
さあ、迷走戦隊マヨウンジャー対トヨム小隊±1。開幕である。
まずは拳闘士アキラ対カエデさん、拳闘士という奴はなかなかに面倒くさい。狙いを決めさせない細かなステップ。懐に入ればワンツーだけでキルが取れるという優位性。その突入をカエデさんは楯で防ぐ。
一瞬動きの止まった拳闘士にひと突き入れたいカエデさんだが、すぐにアキラは頭を振る。懐に入って来ようとする。それを楯で妨害するので手一杯。そしてカエデさんはバックステップ。後退を余儀なくされていた。
「カエデさん、押し返せ! インファイターに後退は愚策だぞ!」
揉み合いの状態から、拳闘士がパッと後退、距離を取る。
「へへ、やるねぇ……カエデさん……」
アキラの首筋から、ドクドクと鮮血が吹き出していた。クリティカルではないが、アキラの体力が大きく削られている。
「ウチの小隊長みたいなインファイト、巻き込まれたら撤退確定だからね……」
アキラがインファイトを申し込んだときに、クビの動脈をカットしたようだ。
「こうなるとボク……俄然燃えちゃうなぁ……」
ピーカーブースタイル。脇を締めて両ヒジを閉ざして、ふたつの拳でアゴ先を守る小さな小さな構え。
「あ、オリジナル必殺技来るんだね? オッケーオッケー……」
カエデさんも楯に隠れ片手剣のヒジを脇腹につけて、頭をさげるように腰を落として小さな小さな構えになる。両者、からだのおおきさはほぼ同じ。ボクシングスタイルのアキラの方が、やや腰が高いか?
ギュンギュンと頭を振り始める。対するカエデさんは不動。ジッとアキラを見ている。
振った頭の反動で、アキラが前に出る! その動きは変化に満ちている。しかし動きの少ない部分、ボディに向かってカエデさんは一直線。しかしそこは危険地帯、遠いアキラのボディに剣を届かせるには、カエデさんが先に被弾してしまう。
が、カエデさんには楯があった。アキラの初弾は不発、カエデさんの切っ先がアキラの腹に刺さる。アキラの右が届くより早く……。拳闘士対片手剣士。軍配はカエデさんに上がった。
鎧姿の重戦車ベルキラ対フィー先生。この一戦は相性丸出しの戦いとなった。
ベルキラさんは攻撃に刃筋が立っているし、大得物でありながら連打も心得ている。しかしそれ以上に、フィー先生の動きが素早い。まるで弁慶さんと牛若丸だ。
ヘヴィな攻撃をヒラヒラと足でかわして、こちらからクリティカルをお見舞い。コッツンコッツンと鎧を剥いでゆく。小手、スネ、太もも。見る見る防具ははがれてゆくが、まだバイタルに繋がる鎧は剥げていない。
しかしそれでもフィー先生は焦らない。欠損部位を発生させて、少しずつベルキラさんを『もいで』ゆく。小手を取られ回復ポーション、スネを取られ小手をもう一度取られて。こうなるとベルキラは、対空装備を剥ぎ取られた戦艦大和である。
抵抗力を奪われて奪われて、ついには撤退となった。対するフィー先生は無傷。慎重に丁寧に戦った結果であった。