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三日目への会議

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 二日目終了間際、わずか五分間の攻防で私たち陸奥屋一党は、雑兵レベルとはいえ一万もの兵隊を三十六人で撃退してしまった。これは敵兵が低レベルであったこと、さらには意思疎通のできていない烏合の衆であったこと。目的すら理解できずに動いていたのではないかという付和雷同が原因だったのではないかと思う。

 ただ、私たちも二人一組を徹底、敵が動きを見せる前に先手を取りまくったこと、そして三十六人全員が、一撃クリティカルを取れる高レベルにあったことも原因のひとつだ。とにかく驚異的とも言える結果を残して、その上陣地防衛も果たして二日目を終えることができたのだ。終了間際のマップを、陸奥屋本店の大広間で確認した。

「ん、ちゃんと陣地をふたつとも取り返してるわね♪」

 カエデさんも満足そう。

「だけどカエデ、取り返したばっかの陣地って不安定だぞ? 最初に西軍の陣地取ったときも、そうだったろ?」

「あ……」


 その通り。あの時は確かイベント序盤で敵陣地を強奪したことに気を良くした味方が、そのまま突撃。豪傑格が守備する西軍陣地に突っ込みことごとく討ち取られていた。そんなことがあるから、決して油断はできない。

「そうなると味方なんて当てにできない。アタイたち陸奥屋一党がイベントの勝敗を決することになるぞ」

「お言葉ですが小隊長……」

 マミさんが意見を述べる。

「陸奥屋一党が勝敗の鍵を握るとなると、ロクなことをしないように思うんですがー……」

 そう、私たち陸奥屋一党も、敵陣に突っ込んだ戦死者を笑うことはできない。最初に手に入れた敵陣地。それを防衛していればいいのに、そこからわざわざ攻めに出たのだ。おかげでポイント的にいま現在のピンチを招いている。さすがは陸奥屋サル軍団。東北サル大学と呼ばれるだけはある。進学を果たせば果たしただけ、サルに磨きがかかってくるのだ。そしてその極みは『生粋のサル』、まさに『ピュア・マンキィ』で人間扱いすらされなくなってくる。

「ロクなことをしない、か。……。大将、どんな方針を打ち出してくるかな?」

「まあ、リュウ先生と士郎先生が先頭。これは動かんじゃろうな」

セキトリが巨大なアゴを撫でて言った。

「陸奥屋の二枚看板ですしね。で、小隊長、総裁のあの性格ですから、陸奥屋一党で本丸へ総攻撃を仕掛けるのでは……」

私もシャルローネさんの意見に一票。最終日こそ我らの見せ場とばかり、策とも言えないような特攻作戦を展開してくれることだろう。

「ところで小隊長?」

 カエデさんが私を指差す。

「リュウ先生が黙ってるのに、ものすごいおっかないんですけど……」

「二日連続であんだけ戦ってくれてんだ、殺気もそう簡単に消えないだろ? きっと明日はもっと凄い旦那を見られるかもしれないぞ?」

 トヨムはケタケタと笑ったが、目が笑ってない。明らかに私の気配を警戒している。

「いかんな、こんなことでは。剣士たる者、斬っても斬られても常と変わらず。そうでなくてはならないのに」

「そういうものなんですか、リュウ先生?」

「シャルローネさんも古流を習ってるんだろ? 君の先生はそうじゃないのかい?」

「確かに……おじいちゃん先生ですから、そんなに雰囲気は変わりませんねぇ」


 おじいちゃん先生だから雰囲気が変わらない、というのは間違いだ。稽古が進めば進むほど熱くなる先生もいる。高齢にも関わらずだ。だからそれはシャルローネさんのお師匠さんが出来た人物なのか、技と心が達しているのか? はたまた個人がそういう人なのか? それはわからない。

 とにかく、通常に戻らなければ。

「旦那、お酒飲んで寝ない限りは無理なんじゃないの? とりあえず今日はオチたら?」

「そうもいかん、大将がロクでもない作戦を発表したら否定しなけりゃならんし、捕虜にした天宮緋影の処遇も気にかかる」

 と言っていたら、鬼将軍御出座の触れ。総員居住まいを正し、総裁入室とともに座礼。

「おもてを」

 その言葉に一同顔を上げる。

「本店のみで作戦を練り、一方的に通達することを許してもらいたい」


 そう述べる鬼将軍だが、私は違和感を覚えた。いや、その場にいた、すべてが感じたであろう。鬼将軍の傍らに、和服で日章を模した冠の娘がちょこんと佇んでいるのだ。前髪パッツン、漆黒の黒髪。雪のように白い肌、直感的に「これが天宮緋影だ」と思った。それにしては、背丈は小学5年生程度だろうか?

トヨムよりも小柄かもしれない。

 それでも鬼将軍は気に留める素振りもなく、作戦を発表する。

「明日のイベント最終日。私たち陸奥屋一党は一路敵陣本丸へと総攻撃を開始する。この一戦をもって、東軍の勝利を決せんものとする!」

 なるほど、それは分かった。しかし総裁、その娘は……。

「陣列を発表する! 先頭、この私陸奥屋一党総裁鬼将軍! 続くは士郎、リュウの両先生! さらに鬼組諸君とトヨム小隊!」

 それもよかろう、うんうん。総裁アンタが喜劇の先頭を走るんだな? それで、そのむすの紹介を……。

「そして力士組槍組、抜刀組に吶喊組。殿しんがりは本店五名である!」

「あの、総裁……」

 たまりかねて士郎さんが手を挙げる。

「そちらのお嬢さんは、一体……」

「ふむ?」


 このとき初めて、鬼将軍は娘に気づいたようであった。

「おや、天宮緋影。なにをしている?」

「陸奥屋一党の作戦をうかがっておりました」

「捕らわれの身で作戦を聞いてなんとする?」

 天宮緋影は捕虜と墨書きされたタスキをかけていた。その天宮緋影が小さく微笑む。

「もちろん私を慕ってくださる仲間たちに知らせます」

「チーム『まほろば』かね?」

「他にも『迷走戦隊マヨウンジャー』、『情熱の嵐』などもいますよ?」

「たかだか十八人に知られたところで、我らが策は挫かれぬぞ」

「とか言って♪ たかだか三十六人で千人を撃退した例えもありますよ♪」

「……………………」

 言い淀んだ。その娘の言う通り。たかだかと笑ってしまうような人数が試合の要となることを証明したのが我々。そして西軍の面々も、一撃キルとまではいかずとも一撃クリティカルは充分狙える腕前だった。

 そして鬼将軍のメガネが発光する。中指でメガネを押し上げると、不敵に笑った。

「教えてやるが良い! 伝えてやれば良い!

そなたが我々の情報を伝えれば伝えるほど、そなたを救い出すためそなたの仲間は我々を目がけて飛び込んで来るであろう! その数十八、我らはその倍!

そなたはその目で、同志同朋が力及ばず露と消えるを見ることになるのだぞ!」

「ガビーン!」


 いや、ちょっと。天宮緋影さん? ガビーンってなにさ、ガビーンって? っていうか貴女が人質に取られてなくても、東軍筆頭戦力の陸奥屋を止めるのは、貴女の仲間たちくらいしかいないでしょうに。自分の情報があんまり役に立たないって、考えなかったのか?

 しかし私の考えにはまったく及んでいないのであろう、天宮緋影。わなわなと震え崩れ落ち、両手を着いてしまった。

「なんということでしょう? 私のもたらした情報が、仲間たちを死に追いやるだなんて……」

 いや、大丈夫。ゲームですから。

「せっかく敵地へ乗り込んで、貴重な情報を得たと思っていたのに……」

 あ、本気で有効な手だと思ってたんだね?

 私としてはどちらかというと、フレンド登録もしてない相手の拠点に入り込めるとか、捕虜なんていう機能がある方が驚きだったよ。もしかしたら、忍者をチーム『まほろば』の拠点に忍び込ませたら面白いのではないか?

 ……いや、ロクでもない情報しか掴んで来ないような気がする。私の案は却下だ、却下。

 勝ち誇ったかのように、鬼将軍は下卑た笑みを浮かべる。

「これで勝敗は決したな。もう帰っても良いぞ、そなたの同胞はらからの元へ……」

「いえ、そうはいきません」

 天宮緋影はスックと立ち上がった。

「私はまだあなたからプリンをいただいておりません」

 ということで、天宮緋影は今宵陸奥屋本店にお泊り。

 しかしそれでいいのか? あんた影の姫君とか、ニッポンのお姫さまとか呼ばれてなかったか?


しかしこれにて会議は終了、それぞれのチームで拠点へと戻る。


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