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白百合剣士団

多数さまの御来場いただき、作者感激です。あまりご挨拶もできませんが、これからもご贔屓にお願いいたします。頑張りますよ?

 私たちはこのようにして、日々の稽古を積み重ねた。

 一日の試合回数は三戦程度にとどめ、残り時間は拠点で稽古という具合だ。

 稽古の時間が増えると、私ももうムキになって二人を沈めようとはしない。



「そらトヨム、パンチが上にばかり来てるぞ! 上下の打ち分けだ、上下上下!」

「当たりの後の頭突きが遅い、一発でクリティカルを狙うな! クリティカルは連打の中で拾うんだ!」



 このようにして私が受けに回り、トヨムとセキトリにドンドン攻撃をさせてゆく。攻撃の回転数を上げる。それが現在のテーマであった。



 王国の刃というゲームにおいて、私たちはあまりにも簡単にクリティカルを取りすぎている。

 正直な感想は、出せば当たる。当たればクリティカル。連打を同じ場所に浴びせれば、四肢の欠損。バイタルに命中すれば確実にキルを取れるという塩梅だったのだ。


 ではその状況を確実に得るためには? 私はまず攻撃の回転数の向上と定めた。

 連打が続けば相手は必ず守勢に回る。敵が守勢に回れば、例えこちらの有効打が入らなくてもこちらに余裕が生まれる。そうすればクリティカルを奪うことも可能になってくるのだ。


 もちろんカウンターを狙ってくる者もいるだろう。しかしカウンター対策などまだまだ先の話である。

 それを狙える相手に、まだ出くわしていないのが現状だ。


 これは運営が用意したハニームーン。すなわち初心者にいきなり強豪をぶつけないように、という配慮なのか? 私たちにはわからない。


 しかしもしもそうだというのであれば、それはそれでチャンスである。いまのうちに徹底的に鍛え上げ、いざハニームーン終了というそのときに備えておくのである。

 そんなある日、私たちは興味深いチームにでくわした。

 トヨムがある日、こんなことを言い出したのだ。



「ね、旦那。アタイたち割と簡単にクリティカル取ったりキル取ったりしてるけどさ、他のプレイヤーってどんな感じなんだろ?」



 もちろんこの質問が、他のプレイヤーたちがなかなかクリティカルやキルを取れないからといって、「ザ〜コザ〜コ♪」と蔑みたいという発言ではないのはわかっている。自分たちと他のプレイヤーたちとの差がどれくらいあるのか?


 あるいは上級レベルがどれほどの高みにいるのか? それを純粋に知りたがっているだけだと、私は知っている。

 そしてそれは、私も少し気になっていたところだ。



「ウィンドウを開けたらネットに繋げることができるみたいだから、動画サイトで少し確認してみるか」



 ということで、三人で動画鑑賞。

 王国の刃 クリティカル で検索してみる。


 チョイスした動画は、キャリア一年ほどの有名人らしい。動画タイトルは『クリティカル連取!』となっていた。彼らのチームは新兵ではなく『熟練』のレベルであった。ただし、だからといってなにか特別なことがある訳ではない。任意で発動するオート必殺技が色々と使えるようになったり、少し良い武器や甲冑が手に入りやすくなる程度だ。あくまでもこのゲームはプレイヤーの地力でプレイするものなのである。


 試合は六人制。やはり壁役の大型アバターを前に出しての戦闘スタイルである。



 このチームは中々連携がよろしいというか、勝ちパターンを心得ているようだった。壁役が敵の攻撃をしっかり受け止めて、脇から中型、小型のアバターがちょっかいを出すというスタイル。しかし、敵も『熟練』の称号を得ている。どちらにも有効打が入らない。別な見方をすれば、どちらも決死の踏み込みが足りないということになる。


 いや、これはこれでいいのか? 敵からキルを奪うのが勝利の条件ならば、敵にキルを与えないのも勝利の条件である。

 そんな中、ようやく壁役の一人から小手を奪えた。任意による発動自動で相手に連打を浴びせる『オート必殺技』によりクリティカルが入ったのである。



 「お見事!」と褒められるような「技あり」ではない。乱闘のゴチャゴチャした中で、偶然取れたクリティカルでしかない。しかしうp主氏は「やった!」と叫んで実況を続けている。

 もちろんクリティカルはクリティカル、その価値に貴賤は無いのだが、プレイヤーとしての実力はさほどではない。


 そして乱闘のどさくさで、もうひとつ小手を奪うことができた。

 ……ただ、それだけ。あとはエサに群がるアリンコのように、モチャモチャと人の固まりが押し合いへし合いしているだけ。試合時間は終了してしまった。

 キルは無し。奪った奪われたのクリティカルの差で、からくも勝利できた一戦という結末。


 う〜〜んとトヨムは唸る。



「アタイたちの上には、こんなのがいるんだ……」

「壁役頼みというか、ワシの力が試されるような展開じゃったのぉ……」

「まあ、良きにつけ悪しきにつけ、クリティカルは必殺技を使っても中々取れないようだな」

「ね、旦那。こっちのチームはどうさ?」



 トヨムが見つけたのは、運営から公式に挙げられた動画。「驚異の新人、白百合剣士団の活躍!」とタイトルが打たれていた。なるほど、タイトル画に真っ白な甲冑をつけた女性体型の剣士が貼られている。


 トヨムが気にしているので、早速再生。視聴してみる。白百合剣士団は私たちと同じ新兵の位。しかしつや消しで真っ白な甲冑、真っ白なマント。ただし、マントの裏地は赤、青、ピンクとなっている。個人のイメージカラーなのだろうか?


 鎧の胸当てやヒジヒザのサポーター部分とでも言おうか。関節部分もイメージカラーで彩られていた。

 ちなみに兜につけられたウルト〇マンのようなトサカもイメージカラーになっている。そしてカラーで染められた部位の上下を細線で縁取っていたりするので、私は思わず呟いてしまう。



「まるで新マンだな……」

「ほう、ワシの世代じゃ帰りマンぞ」

「アタイはジャックって呼んでるぞ」



 お前ら……世代のギャップを強調するんじゃねぇ。



「でもさ旦那、こいつらちょっとおかしいぞ? 剣士団名乗ってんのに、剣士が一人しかいないじゃないか!」

「おう、そうだな。剣士は丸い楯の青い娘だけか。……赤いのは長柄のスパイク付きメイスで楯は無し。ピンクは双棍。もちろんスパイク付きか……」



「まったく、どこが剣士団なんだかのぅ……」

「もしかして旦那、こいつらここでみんなに笑ってもらいたいとか?」

「それはそれでものすごい余裕だな。……メンバーはNPCが三人、そして敵陣は……六人全員揃ってるじゃないか!?」

「これで驚異の新人なんて言われちょるんじゃ、そうとうに……おう、試合が始まるわい!」



 開幕の銅鑼、両軍駆け足で前進。そしてコンタクト。白百合剣士団は壁役の大柄NPCが前列。敵の壁役と激しく当たる。ここでモチャモチャとした混戦が発生。


 しかし、NPCとNPCの間から両刃の片手剣が音もなく伸びた。身を一杯に伸ばした青い娘の突きである。それが喉元、兜と鎧の隙間にすべり込んだのだ。


 敵の壁役、一名退場。

 するとNPCの頭を乗り越えて、スパイクメイスが降ってきた。それがもう一人の壁役の兜を吹き飛ばす。兜を失った巨漢の頭部に、またもや青い娘の剣がすべり込む。



真横から水平に頭蓋骨を通過。もちろんこれも退場だ。青い娘の剣と赤い娘のロングメイスは危険と踏んだか、後衛の中型小型の甲冑武者たちがピンクの娘に殺到する。その片手剣、手槍をピンクの娘は双棍でことごとく弾いた。このピンクの娘は他の二人よりも大柄だ。女性キャラの大柄アバターなのだろうか?

しかし大柄アバターのパワーを遺憾なく発揮している。男性キャラに力負けしていない、どころか押しているのだ。


 そうこうしている間に、壁役はすべて退場。残るはピンクの娘が相手にしている三人だけ。白百合剣士団はNPCすら失っていない。

 もう決勝だな、という私の読み通り。敵軍はロクな反撃もできないまま全員退場ということになった。

 ホウ……動画が終わるとセキトリとトヨムは息をついた。



「どうだった? 白百合剣士団は?」



 私が訊くとセキトリは「あの青いヤツがクセ者じゃのう」と答えた。壁役のセキトリとしては、敵軍の大柄アバターがあっさりと2キルを献上したのが他人事ではないようだ。



「アタイも青い娘だね。なんてのかこう、隙が無いってのかアタイのなんちゃってボクシングがどこまで通じるか……」

「そんなことないぞ、トヨム。逆にあの青いのはトヨムを嫌がるだろうな。トヨムの動きを嫌うくらいには、基本基礎、自分の流派に凝り固まっている。それにセキトリ、あの青いのは壁役と一緒にまとめて吹き飛ばせばいい」

「このゲーム、フレンドリーファイヤーは存在しないんじゃないのかい?」



「壁役に押されて吹き飛ぶことはあるけど、防具は破損しないって聞いたことがあるよ? ただし、アタイみたいに甲冑を身につけてないのは、その限りじゃないけどね」

「トヨムを踏み潰したら事じゃのう。お前、ワシの背後にはつくなよ?」

「じゃあ紙防御のNPCの後ろにつけってこと? それこそ踏み潰されちゃうよ」

「そうだぞセキトリ、いつもトヨムが後ろにいると思って、絶対に当たりでは負けるなよ」

「責任重大じゃのう」



 ひと笑いしたところで、話題が変わる。



「そういう旦那は誰に注目したの?」

「私か? 私は赤いのが気になったな。長得物の扱いに慣れてるというか、無駄に張り切っていないというか。場をコントロールしているような冷静さが彼女にはあったな。おそらく彼女が、白百合剣士団のリーダーだろう」



「なんじゃ、まるでリュウ先生のような役割じゃのう?」

「とはいえ彼女はまだ青い。それに私と比較するには、まだまだ粗い。これならトヨムやセキトリの方がまだまだ伸びシロがある。お前たちは天才、彼女らは秀才。ただ……」

「「ただ?」」

「赤いヤツは天才かもしれん。どこかこう、型破りなところがありそうだ……」


一日2回更新の最終日。次の更新は16時です。

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