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オーバーズトーナメントの準備

さて、お久しぶりの私リュウです。

年末のオーバーズ、シングルマッチのトーナメントに向けて指導員を仰せつかりました。

もちろん私だけでなく、士郎さんフジオカ先生。

さらには緑柳師範も多額の報酬で雇われました。


しかし私のような公務員が、これほど多額な報酬を受け取って良いものかどうか。

道場の月謝は道場使用料、つまり維持費という名目で受け取っているので問題は無かろうが、高級車が買えそうな額となれば話は変わってくる。



「ウチのリュウ先生がずいぶんと安く見られたものだな」



などと鬼将軍は文句を垂れていたが、ブルジョワの視点でモノを考えないでもらいたいものだ。

もっとも武術の月謝というものは本来大変に高額なものであったのは確かだ。

詠春拳入門という書籍の中で、葉門老師の実家が支払っていた月謝を試算していたが、そこで出た解答は月十万円だった。


坂本龍馬が江戸へ北辰一刀流の剣術留学に出ているが、こちらは実家が土佐藩で三本の指に入る豪商だったそうだ。

まあ、そんな時代と比較しても始まらない。

当時は貧富の差が著しかったのだ。


ただし、現在でも『本格派』を自負する道場は、次々に七千円から取っている。

これが高いと感じるのは、スポーツ少年団の影響かもしれない。

スポーツ少年団は高額月謝の武術を庶民入門広めるのには貢献したが、同時に武道家でメシが食えない原因も作っている。


さらに言うならば、お安い勝敗に金銭が投資されすぎているとも取れる。

つまり武道武術かスポーツ感覚になってしまっているのだ。

いや、お気楽に技を動画サイトに投稿している辺り、もはや大道芸の類いなのかもしれない。


否、断固として否!

武術というものは『いかに効率よく敵を葬るか』の集大成なのだ!

技は見せず教えず、というか現代ならば道場に通っていることも秘匿しなければならない!

そして粗暴の振る舞いを戒め、周囲を油断させておくに限る。


武術がスポーツ感覚に成り下がるなど、あってはならないことなのだ!

まして大道芸などと……。


果たして、私がオーバーズの指導をすることは大道芸同然ではないのか?

女の子たちのチャンバラごっこに古流を仕込んで見せ物にするのは、大道芸とは呼べないのか?

あえて言わせてもらおう、「報酬もらったんだからイイじゃん」と。


ただしその代わり、本格的な技は教えない。

あくまで『王国の刃』競技に使えそうな攻防をできるようにするだけだ。

ということで全体稽古。


隊長さんはやはり経験者、取り立てて注意するべきこともない。

オーバーズのニンジャさんも悪くない。

おそらく以前の稽古を思い出しながら、一人稽古をしてきたのだろう。


その他にも体力自慢がいたのだろうが、そうした手合いには少しだけ指導。

やはり基本の素振りだけはこなしてもらわなくては困る。

ん? ウサ耳さんが集中してないな。


元が騒ぎ虫のびっくり箱のような娘ではあるのだが、はて?



「うさぎさんや、稽古は集中して。いらない所でケガするよ」



一応釘は刺しておく。

が、どうにも素振りがつまらなさそうだ。

何を考えているものやら、年頃の娘さんというのは扱いに困る。



「どういうことだろう?」



となりで刀を振る隊長さんに訊いてみる。

隊長さんはうさぎさんの同期だそうだ。



「ん〜~……ウサっちょがああいう顔しちょる時は、なんか企んでいるときなんよね〜~……」

「ほう、企みとな?」

「まあウサっちょの企みなんて、大抵大失敗がオチになるんで気にするだけ損でしかないんよ」



これはひとつ、カエデさんの耳に入れておくべきだろう。

まあ、どうせ大したことにはならなさそうではあるが。

ではその他の注目選手を流し見してみよう。



「すみませんリュウ先生、突き技が上手くいかないんですが……」



さっそく質問してきたのは、オーバーズ筆頭のフィジカル娘なニンジャさんだ。



「どれどれ、それじゃあカカシ先生に突き技を入れてみて」



ニンジャさん、張り切ったような突き技。

一回では指導しない。

二度三度突かせて、共通する改善ポイントを探り当てる。



「うん、分かったよ。ニンジャさんは有り余るフィジカルのせいで突く前にジャンプしてるんだ」



一度ぴょんと飛んで落下の勢いに体重を乗せて突いているのだ。

これでは『威力があるかのように勘違いしがち』だが、それは大きな間違いだ。

自分の体重を切っ先だけで支えようなど、非効率的にも程がある。


読者諸兄にも勘違いされている方はいるかも知れないが、『突き技のみならず剣術というものに、腕力も目方も不要』なのである。

だって触れれば斬れる刃物持ってるんだもん。

体重があっても腕力に優れていても刃筋が立っていなければ斬れないし、腕力に勝っていても手の内が決まっていなければ筋力は活かせないのだ。


だからジャンプして勢いをつけるのはいただけない。

まずは足の裏でしっかり立って、構えを取り、技の正確さに集中して突き技を繰り出す。

この方が上達の近道だ。



「そのためには自慢のフィジカルを封印してみようか」

「えええぇえぇっ!? フィジカルを封印でござるかっ!?」

「そ、それが成功したら新世界が見えてくるよ」

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