そして一般プレイヤーたち
実戦でキョウちゃん♡とリュウゾウがどうなるか?
実力者であることは知りつつも、今ひとつ油断のできない二人ではある。
となれば、俄然稽古に熱が入るのが中堅若手小隊たちである。
単純に『転ばす』、『トドメを刺す』の稽古は十分に仕上がっている。
そうなると求められるのは、小隊としての移動と行動。
つまり状況判断である。
もちろんこれは参謀であるカエデさんの仕事ではあるのだが、細かい部分となればやはり小隊長クラスの判断も出てくる。
そしてこれが、見事に不安材料となったのだ。
Aという小隊がいる。
これが敵のB小隊と戦っているとしよう。
いつもの通りA小隊は二人一組戦法を用いたとしよう。
敵小隊の半数を一気に屠る戦法だ。
しかし、敵の半数は生きていることになる。
この生き残りが、牙門旗に迫るのである。
「ということで、無理にキルを取る必要はありません。この場合は『足止め』で十分。戦闘にはいくつか目的があって、これはその中のひとつです」
カエデさんが説明する。
足止め。
これは簡単に言うならば、援軍の到着を待って敵の小隊を一気に全滅まで追い込む戦法だ。
もちろんキルを奪うことも戦闘目的のひとつである。
他にもカエデさんは、『誘導』『待機』『撹乱』といった戦闘目的を説明したが、全部頭に入れる必要は無いとも言う。
何故ならそうした指示を出すのは参謀であるカエデさんの仕事だからだ。
兵士たちは出された指示の目的を達成することに専念すれば良い。
『誘導』となれば小隊が囮となって敵を引きつける。
『待機』となれば味方を追いかけてきた敵を、一気に葬るための陣形を拵えておく。
『撹乱』となれば敵陣に飛び込んで、部隊活動が出来なくなるような手当たり次第をお見舞いすれば良い。
指示は明確、行動は単純。
部隊運用において、大変に重要なことだ。
これを少々大人数、紅白に分かれて演習してみた。
敵軍に扮する者は、全員フルプレートアーマーである。
一度叩いただけでは死んでくれない。
仮想敵としては念の入った稽古である。
「忘れないで下さいね、敵は洋式甲冑を着用しています。一発で撤退はしてくれません。逆に言えばバイタルの胸当てや胴を破壊すれば、それだけで後方へさがってくれる可能性もあります」
そう、ものは考えようだ。
洋式甲冑を着込んだ者は、死人部屋送りを嫌う傾向にある。
上手に防具を破壊できれば、それだけで前線からしりぞいてくれる可能性があるのだ。
さらに逆を言えば私たち陸奥屋まほろば連合、あまりにも度胸がよろしすぎる。
君たちは死に場所を求めているのかねと訊きたくなるくらいの突撃好きだ。
もちろん卑怯や臆病よりはずっと良い。
ずっと良いのだがしかし、生きているのがそんなにシンドイのかい?
私に問題解決の能力は無いが、話なら聞くぞ?
聞くだけならばロハで済むし。
ただし私の返答には一切の責任は無く、話を聞いた結果とは無関係だということは強調させていただく。
今回のカエデさんの指揮であるが、それなりに大雑把なところはある。
仕方ないことだ。
一五〇人もの部隊を指揮するのに、いちいち小隊単位でモノは言えない。
「〇〇方面は敵の足止めを、隣接する部隊は撹乱に回ってください」
というような具合。
しかしそれでも付和雷同、隣が足止めに入ったから自分たちも。
という少はひとつも出なかった。
基本的な思考が共通している証拠だ。
別な言い方をすれば、まとまった部隊活動とも言える。
もっともこれは、あらかじめカエデさんが各隊に役割分担を指示していたためである。
さてここで、敵はどのような戦法を取って来るかだ。
忍者情報、参謀本部分析によれば敵の初手はセットプレイになるだろうということだ。
まずは全体で連携運動、どのチームが壁になりどのチームが戦車として敵陣を切り崩し、どのチームがキルを奪いに行くかを決めた上でポジションを決定。
レディ・ゴーで一気に目的まで突っ走るという、大変にアメフトらしい戦法を予測していた。
「思うツボです」
カエデさんは微笑んでいた。
何故なら敵の布陣をみただけで何をしたいか見て取れるからだ。
そしてこの手の戦法には、すっ転ばし戦術がハマるからである。
「もちろん上手くいかないことも想定しているようで」
アメフト戦法が上手くいかない場合だ。
「そんなときは近々の小隊同士で連携を組んで対応するつもりみたいですね」
「なるほど、試合なれしてるね」
いかなる強者であろうとも、長い時間を戦えば一度くらいはピンチがあるものだ。
アメフト軍団はそうした経験を試合で積んでいるのだろう。
「敵の情勢がこれだけ知れているなら、カエデさんもすでにプランを決めているんじゃないかな?」
「そうありたいのは山々なんですけど、できることが多すぎてコレという手を決めかねてるんですよ」
そりゃまたカエデさんらしい迷いだ。
まあ私の思いつくだけでも中央突破か包囲を仕掛けてくる手勢を初っ端でたたくか。
そこから先の展開まで考慮するなら、手は無限に増えてゆく。
カエデさんの悩みもまた増えるということだ。