成長
打ってくる場所やタイミングを丸わかりにする。
それならば敵の攻撃を躱すことも簡単だ。
しかしナンブ・リュウゾウは「そんな器用なことはできない」と言う。
果たして本当にそうかな?
「じゃあリュウゾウ、旗竿で私を打ってみろ」
「ほい、こうッスか?」
やはり面に来た。
私は音もなく一歩で躱した。
そしてもう一度言おう、『やはり面に来た』。
「リュウゾウ、面に打ってきたな?」
「はい、ガラ空きだったもんスから」
「それだよリュウゾウ。ノーガードなら誰だって打ちたくなる」
「ですがサカモト先生、よく俺が『このタイミングで打つ』ってのも分かりましたね?」
達人だからな、というのが本当の答えだ。
しかしそんなイジワルは言わない。
「お前の間合いに入ったからさ、するとどうだ。即座に打ってきただろ」
「言われてみれば……」
「もっとも、この技術はリュウゾウには直接関係はしない。長物の旗竿で闘ってるからな」
「じゃあどうすれば?」
私はリュウゾウの旗竿を私の間合いに持ってきた。
「これで私はうかつに飛び込めない、だから……」
旗竿の穂先を払った。
そして飛び込んで小手。
「必ず邪魔なものを払いのける。お前にとっては敵がどう動いてくるかなんて、丸わかりなはず」
左右に払うか上か下だ。
四通りの払い方にはなるが、余計なワンアクションが入ることには違いない。
「で、キョウちゃん♡」
「はい」
「敵はメイス兵、キョウちゃん♡よりも間合いがある。よって、先に打たせてあげなさい」
「わかりました」
さすが草薙の剣士、これだけで理解してくれる。
「待たせたね力士隊諸君、稽古再開だ」
ということで練習試合再開。
今度はリュウゾウの長槍にも余裕が出た。
なにしろ『初手は邪魔するだけで良い』のだ。
それだけで力士隊の足が止まる、勢いが死ぬ。
その瞬間に前衛のキョウちゃん♡が斬りにゆくのだ。
これが絶妙の共同作業となってくれた。
実に良いカップリングだ。
そしてその様子を見て、士郎さんとフジオカ先生が納得いかないという顔をしていた。
「やはり、心配ですかな両先生方?」
「本番でこの動きができるかどうか、フジオカ先生には愚息がご迷惑をおかけするやも知れん」
「それはこちらも同じこと。リュウゾウめ、今はクレバーに立ち回っているが本番で熱くならねば良いのだが……」
信用されとらんなぁ、二人とも。
もっとも、信用されるほど賢い生き方ができるのであれば、二人とも今この場にはいないはずである。
剣一筋、決戦柔道などということにはなっていなかっただろう。
我、狂か愚が知らず。一路遂に奔騰するのみ。
それが彼らの生き方なのだ。
だから保険だけはかけておくか。
「ということでカエデさん」
「無理です」
「まだ何も言ってませんが?」
「ですがリュウ先生、二人をフォローできるシフトを組んで欲しい、とおっしゃるんでしょ?」
「君はいつから『悟りの術』を使えるようになったんだい?」
「インドの山奥で修業してきましたから」
やるな、カエデさん。
「それは冗談としても、キョウさんとナンブさんは何度も何度も窮地に陥るはずですから、いちいち救出の人員は割くことができません」
「しかし牙門旗を倒されたら、私たちの負けにされてしまう」
ここでカエデさんは膨れた。
思えば私たちはずいぶんとカエデさんに無理を押しつけている。
カエデさんに無理を押しつけている。
カエデさんに……。
つまり、仕事をしていない参謀もいる。
ちったぁ働けと言いたいところだが、私も身に覚えの無い借金を抱えるほど酔狂ではない。
クレームは胸にしまっておこう。
「仕方ありませんねぇ」
カエデさんは小さくため息。
「勝ちを算段するのが参謀の務め、乏しい財布からやりくりしましょう」
それはカエデさんの嘘であろう。
陸奥屋まほろば連合は人材の宝庫だ。
それが証拠に人はすぐに出てきた。
「本当は決戦兵器にと考えていた力士隊とセキトリさんにダイスケさん、この八名をあてがいます。これで一角は総崩れ。そこに槍組と抜刀隊まで奮発しましょう。これだけ揃えれば牙門旗も間違いないはずです」
「意外だなぁ、マヨウンジャーや情熱の嵐をあてがうと私は踏んでたんだけど」
「彼らではフィジカル軍に飲まれてしまうでしょう。そうなると一銭の得にもならない義侠心で、牙門旗が動きかねません。仲間を救うためとか言って、そんなことにならないように安定の実力派部隊を配置します」
カエデさんにとってナンブ・リュウゾウは、相変わらず損得勘定もできない男でしかないようだ。
女が男を見る目はシビアということである。
「じゃあ他の部隊はどう配置する?」
「実力派部隊の脇には格落ち小隊をくっつけます。一番の安全地帯ですから。マヨウンジャー、カツンジャー、情熱の嵐といった中堅小隊は翼端から攻め込んでもらいます。それを護衛するのがネームドプレイヤーたちということで」
今回の主砲はあくまで脇役。
火力の小さい中堅、若手たちに存分の働きをしてもらうようだ。
中堅、若手とあなどるなかれ。
ここが元気なチームというのは、絶対に強いのである。
得点屋として良し、戦死前提のブルドックとして良し。
まさに殴り込み部隊、ケンカ中隊と呼べる連中だからだ。
ここが臆することなく大暴れというのが、いわば肝となるのだ。
そして我が軍は、そこにこそ定評があるのだ。
気合い、根性、精神力。
草薙流の精神が最も色濃く受け継がれているのが、この辺りの面々なのである。