二日目、忍者の活躍
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私と士郎先生でキルを稼ぎまくる。カエデさんが敵軍を釣り出し、東軍陣営で皆殺しにする。西軍には甚大な被害が出ているはずなのに、私たちが防衛する西軍二列目、豪傑格の陣地はちっとも楽にはならなかった。私たちがキルを取り、味方陣営がキルを稼いでいるということは、それだけ復活する戦力が多いということだ。
そしてこの豪傑格陣地というのは、復活ステーションである西軍本丸からほど近い。つまりキルを取っては復活されるの繰り返し、まさしく血を吐きながら続ける悲しいマラソンというやつだ。そして嫌なことは重なって起こるものである。
「東軍D陣地、陥落! 二つ目の陣地を奪われました!」
「ほう……ここへ来て西軍の統制が出てきたようだな……」
面白くもなさそうに、鬼将軍は呟く。というか、そんなことを言っている場合ではない。陣地を占領したらその占領した時間だけポイントが入る。私たち東軍は陸奥屋一党で押し込んで陣地占領を先制。
すぐに西軍は別な東軍陣地を占領して、追いすがる。しかしこの陣地を放棄した白銀輝夜と三条葵。私たちに戦いを挑んでくるが、ユキさんとトヨムでなんとか撃退。
しかしこのまま勝つのは面白くないと、鬼将軍が別な西軍陣地へ突入。先ほどまで占領していた陣地を失う。カエデさんとシャルローネさんの囮作戦が功を奏し、なんとか二度目の陣地占領を完了。しかしここで、なんと東軍陣地がひとつ占領されてしまっていた。件の白銀輝夜、三条葵を中心とした西軍が、キッチリと仕事をしたのである。
我々東軍最前線陸奥屋一党は、またも陣地を放棄。忍者をゲリラとした別働隊とともに西軍豪傑格陣地を攻め落とした。そして湧いてくる敵兵。苦戦に継ぐ苦戦。そこへもってきて、西軍逆転の一手。
もうひとつ、東軍陣地が落とされてしまったのだ。
これまでは小学生のサッカーのように、陣地を巡ってゴチャゴチャ揉みくちゃ状態だったというのに、ここへ来てにわかに、東軍の隙を突くという連携を見せ始めたのだ。統制が取れてきたと鬼将軍が見るのも当然である。そして本日はイベントの二日目。イベント残り時間は、どう見ても一日分以上ある。
そこへ持ってきて、二つ目の陣地が陥落しているのだ。ここはどうにかしなくては、東軍絶対的な危機である。
「参謀、全体図はどうなっておるかな?」
「は! 大変残念なことに、東軍勢力の大半はD陣地へ集結。ことごとく返り討ちという惨状です」
「それはつまり?」
「陸奥屋一党に援軍の見込みはありません」
「陸奥屋一党の同志たちは?」
「はい、こちらは復活の後我々と合流すべく移動中です!」
「ならば何も問題は無いな」
「は!?」
「死にたがりの兵など、陸奥屋には足手まといでしかないと言っているのだよ……」
「しかし総裁、このままではポイント差が詰まり、逆転を許すことになります!」
「忘れたかね、参謀くん。このイベントの勝利条件を」
「イベント終了時のポイントによる判定と……」
ここで参謀君は「あっ!」と声をに出した。
「西軍の本丸さえ落としてしまえば、我々東軍の勝利なのだよ!
見たまえ、この陣地の取り合いに汗水たらす子ネズミどもを。細かい陣地の攻防など、この鬼将軍ハナから眼中にないわ!」
いやオッサン。そこはきっちり視野に入れておこうや。しかしこの阿呆には理論的思考など通じはしない。
「陸奥屋一党集結! 我らに続く者有らずとも、一丸となって本丸を陥落させるぞ!」
集結もなにも、力士組槍組吶喊組、さらには抜刀組にまで撤退者は続出。次々と斃れては復活し、陸奥屋一党の旗印を目指して駆けている最中だ。とてもではないが、戦力を充実させることすらできていないのが現状である。
「ならばいずみ君」
「また私かよ?」
「白銀輝夜、三条葵を指揮しているものかとはどこか? 調べてきたまえ」
「聞けよ、私の不満を」
「かなめ君、いずみ君には何か不満があるようだが、心当たりは?」
「総裁、わたくしには皆目見当もつきません。いずみは喜んで総裁のお役に立ってくれるものとしか思っていませんが……」
「かなめ姉ぇを出すのは卑怯だぞ、大将! ……わかったよ、行ってくるよ」
続くは、忍者の大冒険である。
忍者いずみは考えていた。急激に統制の取れ始めた西軍。これは総大将が発した令ではなく、現場指揮官……すなわち陸奥屋参謀のようなポジションの者が、手駒を用いたものであろう、と。
そうでなければ西軍は、最初からこのような手を使って来ただろうし、現在の『王国の刃』で『この程度』でしかないが、有効な一手を打てそうな者は存在しないと踏んでいたからだ。
ではその指揮官はどこにいるか? 忍者は陣地のヤグラに登って見渡した。おそらくは両陣営本丸を結ぶ一線上。それでいて最前線ではない……そう、三条葵や白銀輝夜が豪傑格であったことから、おそらく二列目三列目の陣地。
いた。
豪傑格陣地ど真ん中に、陣幕は張られていた。バカのように豪華な、簾を垂らした牛車が停まっている。そして軍師気取りか、烏帽子を頭に載せてドジョウヒゲを生やした娘が、孔雀の羽をあしらった扇をほっすほっすと揺らしている。
その衣装も、「わたくし、汗臭い戦いなどする気など毛頭ありませんわ」とばかり絹糸で刺繍を施したような、悪趣味なくらいに豪華な打ち掛けである。軍師気取りの悪趣味なオールバックでこ娘は、わざわざ机上に図面を広げ、モニターの情報通りに図面のコマを動かしては付けヒゲのドジョウヒゲを撫でてニヤニヤとしている。
そして占領されたばかりの東軍D陣地にも目をやる。野獣のような視力を持つ忍者は、そこを制圧したポニーテールの巫女服娘とショートボブヘアの巫女服を見止めた。二人は薙刀を振るって東軍新兵格たちを蹴散らしていた。さらにはショートカットの子供。これは短刀……いや、マキリと呼ばれるマタギ刀を手にしている。これがチョロチョロと素早い動きで東軍兵を駆逐していた。
忍者はすぐさま美人秘書、御剣かなめに隊内通信を入れる。
「西軍指揮官はセンター上、二列目の陣地にあり! 陣地Jだ! 繰り返す、西軍指揮所はJ陣地にあり!」
「あらいずみ、本隊はとっても忙しいの。だから、お・ね・が・い・ネ♡」
三十路手前で「お・ね・が・い・ネ♡」も無かろうよ。と思ったが、忍者は口に出さない。そんなことを口走れば、恥ずかし固めで写メを撮られ世界配信されるような恥辱が待っているからだ。
忍者いずみと美人秘書御剣かなめは、実力的にそれだけの差があった。そして御剣かなめからすれば、忍者いずみの階級は、最下層でしかなかったのだ。
耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、忍者いずみは西軍指揮所へと走る。それは忍びの宿命だからではない。単純に伯母である御剣かなめのお仕置きが怖かったからだ。そんな切ない心中の忍者いずみの前に、六人の敵が立ちはだかった。
「どこへ行こうというのか、そこな忍者もどき! 私たち東の森高校女子陸上部に挨拶無しとは、いい態度じゃない!」
なんだコイツら? としか忍者は思わない。というか、今どき人を呼び止めるのに、なんという言い草だ。お前らは昭和のチンピラか?
と言いたくなる。そこで忍者はひと言。
「ち〜〜っす」
「ち〜〜っすじゃないわよ!」
「おィッす!」
「どこのドリフのリーダーよ!? あんた生まれはいつなの!?」
すぐさま返してくるお前も、昭和の生まれじゃないのか? と言いたかったが、面倒くさいので止めにする。
「貴女、忍者装束ってことは脚には自信があるんでしょ? この市民大会記録保持者の佐藤久美子と勝負なさい!」
記録保持者のレベルが大変に微妙なラインである。そしてバトルで勝負というゲーム世界において駆け足で勝負を持ちかけてくる辺り、忍者としても「気の毒な方なのかな?」としか思えない。
「さあ、勝負よ忍者! …………って、なんでそんなに足が速いのよっ!? ま、待ってぇ〜〜っ!!」
なんでそんなに足が速いのかと聞かれても、「忍者だからな」としか答えようが無い。そして仲間を置き去りに追いかけてくる佐藤久美子というプレイヤーを、クナイふた突きで撤退させた。
「あぁっ! キャプテン!!」
「よくもキャプテンを! みんな、畳んでやれ!」
だから言うことにいちいち昭和の香りがするんだっつーの。独り言を残して、忍者は人混みに紛れ込んだ。しかしそこで、またも呼び止められる。
「そこを走る東軍の忍者! よくもまあ単身、防具無しでこんな陣営奥深くまで入って来れたな。相当に腕が立つんだろ?」
今度は十五人の女の子たちであった。先ほどの陸上部もそうであったが、今回もなかなかに可愛らしい顔立ちが揃っていて、用事さえ無ければ「イチドオネガイシタイ」と思うような女の子たちである。しかし全員大型アバター。揃いの甲冑を身に着けている。
「だったら西之川高校女子ラグビー部を素通りするのは勿体ないよ。みんな歯ごたえがあるから、ちょっと遊んでいきな」
ベッドの中で遊んでいくならケッコーな話であるが、女の子とバトルをするのは趣味ではない。忍者は男が嫌いな訳ではないが、可愛らしい女の子は大好物なのであった。そしてそんな自分をハードボイルドだと信じて疑わない。
大変にうるさいハードボイルド評論家たちが聞けば卒倒しかねないハードボイルド論を、忍者は堅持している。
しかし返答する暇もなく、十五人の娘たちは襲いかかってきた。手に手にスパイクのついたメイスを抱え、土煙を上げて走ってきたのだ。敵は十五人もいる。忍者は古流の投げ技を駆使して、次々と地面に熱い口づけをさせてやる。しかし、いくら投げても数が減らない。
闘いの合間にそっと盗み見てやれば、昏倒したプレイヤーに別のプレイヤーがヤカンの水を与えているではないか! しかもそれで回復してるし!
「ちょっと待てやお前ら! ネタのためとはいえ、ゲームのルール根本から覆すなや!」
「何を言っているの、忍者。これはルールに則った回復ポーションよ? 言いがかりはよしてほしいわね」
なるほど、単純に自分の技にキレが無かっただけか。女の子相手で、ついつい手加減していたんだな。忍者は気を引き締める。その上で、正面から相手をキャッチしてのフロントスープレックス。
背後に回ってのジャーマンスープレックス。しっかり抱きついて顔を密着させてからの捨て身技、さらにはセクハラ投げ、セクハラ返しと、徐々に本領を発揮していった。
「うん、やっぱり可愛らしい女の子には密着技だな」
「キャプテン、忍者に投げられたメンバーが目を覚ましません!」
「なんだって!?」
「みんなトロ顔で目の焦点が合わないんです!」
「どういうことだ!?」
忍者は不敵に笑った。
「これが春香越天楽流柔術。生娘とてその気になってしまうようなツボを刺激しながら技を決める、とても平和的かつ友好的な技だ」
「……キャプテン、今井はもう、もうダメです……あの忍者を敵とは思えません……ガクリ」
「鈴木も……鈴木も忍者ともっと親密に……グッタリ」
「ああ……忍者……忍者……クテッ」
「みんな、あとでアドレスとスマホの番号。それからスリーサイズを教えてくれな……」
忍者は背中を向けた。戦いはもう終わったのだ。
「まて、忍者! よくも私のカワイイチームメイトたちを……許さん!」
キャプテンが背後から襲ってきたが、忍者はスルリと身をかわす。そしてすれ違いざま、耳元でそっと囁いた。
「あのことをバラすぞ?」
それだけでキャプテンは腰砕け。なるほど、この女のツボはそこであったか、ガックリとヒザを着いてしまったキャプテンは、もう立ち上がれない。忍者いずみ、キルを取らぬ勝利であった。
そしてさり気なくチームとプレイヤーネームを記録しておき、あとでフレンド申請しようと心に誓う。