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タイトル未定

「兵法ッスか?」



ナンブ・リュウゾウの顔がかすかに強張る。



「そう、兵法。しかしそう身構えることは無い。考え方を少しも変えるだけのことさ」

「考え方……ですか……」

「そう、考え方を変えるんだ。君たち二人は士郎先生、フジオカ先生といった達人を見て追いかけてをしているものだから、どうしても『強い者が勝つ!』という考えに凝り固まっている。それをまったく正反対に考えるんだ。『勝ったから強いんだ』と」


「その伝で行くとリュウ先生、かつてウチの父……師匠はカエデさんにキルを取られていますが。失礼ながらカエデさんはそこまで強いようには思えません」

「なるほどそう来たか、ではゲーム世界ではなく現実世界での戦闘なら? 間違いなく士郎先生はカエデさんを斬り殺すだろう。つまりそういうこと、カエデさんが強いのはゲーム世界限定で、現実世界ではただの女の子に過ぎないんだ」


「じゃあじゃあサカモト先生、フジオカ先生がキル取られたのはどうなんだい?」

「そちらもあったな。だが同じ答えでは面白くないだろう。……そうだな、フジオカ先生はカエデさんと再戦はしたかな?」

「うんにゃ、あの一戦だけだね」

「詰まりそういうこと、カエデさんは百回に一回の勝ちを拾っただけなのさ。再戦すればフジオカ先生なら、あと九十九回は勝てるだろう。さすがに九十九かいも殺されれば、カエデさんも新しい手を思いつくかもね」



私の弁はここまで、果たして若者二人はどのように反応するか?



「そうさな、俺も日本柔道の威信がかかってるから、勝たなきゃ意味ねぇもんな」

「さすが兄さん、実際の勝負をしているだけある。俺はまだ腑に落ちてません」

「じゃあサカモト先生の教え、授からないのかよ?」


「いや、リュウ先生の教えは絶対に実りあるものとは分かってます。ただその教え、俺に理解できるかどうか……」

「あのなキョウヤ、踏み出せばそのひと足が自分の進む道になって、そのひと足が後に続く者の道になるもんだぞ?」

「迷わず行くんですね?」

「行けばわかるだろうよ」


「じゃあ、決まりだな。これから君たちは臨時で私の弟子だ」



これでこの二人、少しは良くなってくれると良いのだが。

少しでもよくするためにも、まずは稽古だ。

キョウちゃん♡は愛用の差料、ナンブ・リュウゾウは牙門旗から手槍にもちかえている。



「それではまず、一人ずつ掛かって来なさい」



いきなりの話だ。

それでもすぐに「応!」とリュウゾウは前に出てくる。

私、中段。リュウゾウも中段。私の構えに合わせてか、右手右足を前にしている。


間合いは互いにひと握り分だけ余して、切っ先を交えた距離。

私、槍を押さえたまま、右足を踏み出す。

リュウゾウから見て左四十五度の位置。


リュウゾウの小手に木刀を添えて、一本。

さらに左ヒジの内側にも当てて、もう一本。

さらに胴を払ってオマケの一本。

バイタルをやられて、本来ならばリュウゾウの撤退である。



「ま、これが兵法さ」

「まったく訳ワカメっす」

「真っ向勝負一直線人生だと、そりゃ分からんだろうな。次はキョウちゃん♡とやるから、少し見ていなさい」



ということで、今度はキョウちゃん♡。

もちろん両者中段の構えで切っ先を合わせる。

私、正中線を外すようにまたも踏み込み。


キョウちゃん♡の小手におひとつ。

内ヒジにもおひとつ。

最後は稽古着が触れ合うほどの超至近距離で、心臓をひと突き。

ほとんどすれ違いざまの突き技だ。



「どうだい、兵法は?」

「同じく、切っ先すら動かせませんでした」



キョウちゃん♡も理解不能という顔。



「じゃあ、二度の攻めで共通することは?」

「リュウ先生が正中線をズラして踏み込んできた?」

「そう、私は中央突破はしなかった。だから正面衝突で待ち構えていた君たちは、動くことすらできなかった」



嘘を交えている。

本当はリュウゾウの槍もキョウちゃん♡の剣も、しっかり押さえつけておいた。

だから動けなかったのだ。


しかし嘘も方便、この方が二人は理解しやすいだろう。



「大切なのは正面衝突しないこと、まずは安全地帯から一方的に攻撃することを考えよう」

「なんだか卑怯くさいなぁ」



ナンブ・リュウゾウがぼやいた。



「だが、有効だぞ?」



キョウちゃん♡は迷っている。

流派の尊厳を賭けて戦うか? 価値に逃げるか?

しかしその背をナンブ・リュウゾウが押す。



「サカモト先生の太鼓判だ。乗らない手は無いぜ」



四の五のと小難しい理屈はいらない。

ナンブ・リュウゾウ快男児の理論である。



「じゃあ……やってみるか……」



極めて不本意そうではあるけれど、キョウちゃんも同意してくれた。

ならば実践だ。



「敵の攻撃を躱すためには、どうすれば良いかな?」

「素早く動く」

「上手く受ける」

「二人とも落第。それで本当に躱せるかい?」



落第したことで、二人は黙り込む。

だからヒントを与えた。



「素早く動くよりも、敵が打ってくる場所やタイミングが丸わかりな方が楽じゃないかな?」

「たしかに、言われてみれば……」

「だけどサカモト先生、そんな器用くさい真似、俺たちにはできないぜ」

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