ラブリー♡エンゼルス
キョウちゃん♡リュウゾウ♡のラブリーなカップルが、無粋の極み一五〇人の柔道家を迎え討つ。
ネームドならびに一般プレイヤーたちは、後方見守りの体勢だ。
そして二人の仲を邪魔する連中の第一波は、ナンブ・リュウゾウの手によって弾き飛ばされている。
つぎの出番となれば、やはりキョウちゃん♡だろう。
左へ出て敵を追い立てようとするのだが、相手にも人数がいる。
数を頼みにゴリ押しをかけてくる。
本来ならば押し合いに負けてキョウちゃん♡撤退、となるのだがそれはナンブ・リュウゾウの牙門旗が許さない。
突いて突いて殴って払って、キョウちゃん♡に群がるライバルたちを近づけぬよう邪魔をする。
「ぬ、あれも鬼神館柔道か!?」
「それにしては武器の扱いが鋭すぎる!!」
「知ってるぞ、あれがフジオカ先生の懐刀……ナンブ・リュウゾウだ!!」
ほう、やるなリュウゾウ。
強さで名前を売ってるのか?
「バカでバカでどうしようもないって噂のナンブ・リュウゾウだ!!」
森の石松かよ、リュウゾウ……。
「それでも強いってんならバカみてぇに強いって話だ!」
「その話は本当だな、また一人やられたぞ!!」
陸奥屋牙門旗、大暴れだ。
「小隊集まれ!! これより集団で、あのナンブ・リュウゾウを討ち取りにゆく! とにかくあいつが邪魔すぎだ!」
集合する機動隊員たちのそばに、そっと寄り添う黒い影。
「そうはさせませんよ」
草薙神党流目録、キョウちゃん♡だ。
抜かれた居合の残像が、一閃二閃。
鉄の兜も胸当ても、一撃で斬り落とすワンショットキル。
フィジカル自慢の猛者どもが、次々と斬り斃される。
「機動隊が殺られたぞ!! 〇〇大一回生、アイツを押さえろ! あの剣術使いだ!」
大学生たちがのしかかるようにキョウちゃん♡へと殺到。
しかし悪手だ。
間合いの短い日本刀相手に接近戦を挑んでどうする。
いや、これはもう数でゴリ押ししか手が無いということか。
その証拠に、数で押しては斬り殺されるという展開ばかりが続いてしまう。
「よし!! 今こそ二人を救出するぞ! みんなアタイに続けーーっ!」
全体を指揮するようなトヨム『小隊長』の号令。
これまでのトヨムの実績を評価するかのように、一般プレイヤーたちはつき従った。
足払い戦法、引っ掛け戦法。
一般プレイヤーたちの持てる技術を駆使して、スーパーヘヴィ・ウェイトを転がしまくる。
「敵は転倒、敵は転倒っ!! 仕上げ部隊はすみやかにキルを取って下さい!」
鬼組フィー先生が叫ぶ。
ちなみに『仕上げ部隊』などが編成されてるなどとはついぞ知らなかった。
が、それでもモーニングスターを携えた一般プレイヤーたちが、意を解して転倒した敵に殺到する。
こうしたところが陸奥屋一党の強さだろうか。
各々が自分の仕事を理解し、必要に応じて行動する。
そこに個人の狭量な判断は無い。
何が正解か? それを単純に理解しているのである。
二人一組戦法を知っているか?
武器術になれているか?
『王国の刃』を知っているか?
私たちと柔道軍団には、ほんのちょっとずつ。
わずかずつの差しか無い。
そのちょっとずつが、明確な差となって現れてきた。
死人部屋へと送られる面子は圧倒的に柔道マンばかり、というかこれまですべて柔道マンたちばかりが死人部屋へと送られている。
この時点で、陸奥屋一党とまほろば連合はフィジカルを超越したと言って過言ではないはずだ。
しかし参謀であるカエデさんの顔は渋い。
「苦戦をしていません、これではいざというときパニックを起こす者が出かねません」
なあカエデさん、最悪に備えるのが参謀の仕事というのは分かるが、君は何を目指しているんだい?
常勝無敗と答えたれたらどうしようか、と思いつつそんな疑問を感じていた。
懸念は様々それぞれあろうが、それでも一般プレイヤー主軸の対フィジカル練習試合は私たちの圧勝となった。
そこについては合格点ではないかと思う。
しかしそれでも、奴はメガネを光らせる。
鬼将軍だ。
「ふむ、出来高は上々だね。では同志カエデ、次なるイベントいかに演出するのかね?」
苦戦しろ、そしてドラマチックに逆転するのだ。
暗にそう言っている。
「序盤は一般プレイヤーたちの奮戦、これをドラマツルギーとする手は良い。しかし若手だけでフィジカル軍団を圧倒するのはいかがなものか?」
ミス・ミチノックことカエデさんは歯ぎしりする。
「よし、ここは大人が知恵を貸そう。一般プレイヤーたちの奮戦から欲を出してのキル狙い。そこで返り討ちを出してはどうかな?」
脚本まで作っては、もはやアマチュア試合では無かろう。
しかし一方的に弱い者イジメというのも、私たちの在り方ではない。
王国の刃、これはゲームなのだ。
誰もが楽しめなくてはならない。
例え敵対するチームであってもだ。
強ければそれで良い訳ではない、力さえあれば良い訳でもない。
対人ゲームというものは、対戦相手あったればこそなのである。
「ということで、レディ・ミチノック。ここは人気投票というものをしてはどうだろうか?」
「人気投票?」
「さよう、これだけの人数がいるのだ。アマチュアとて『スター・プレイヤー』を作って推しだしてみてはいかがだろう?」
「そんな総裁、私は参謀なんですから推されても困ります!」
もうナンバーワンを取った気になっている。
さすがレディ・ミチノック、図々しさは鬼将軍級だ。
「どれ、私が動画サイトくんに掛け合ってみよう。陸奥屋まほろば連合で、君はだれを推すのか? 老若男女に問い掛けてみようではないか」
「総裁、意見をお許し下さい」
フジオカ先生が挙手。
悪の大統領は鷹揚にうなずいた。
「人気投票というのでしたら、なにとぞ総裁のお名前はお外しください。さもなくば……」
「みなまで言うな、フジオカ先生」
「さもなくば新宿二丁目界隈の票が、すべて総裁に集中してしまいます」
「だからみなまで申すなと断ったのだが……」
かつてのプロレス企画において、鬼将軍はその筋の観客たちから熱い熱い声援を受けていた。
その記憶が鬼将軍に苦い顔を作らせた。