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イベント二日目、新技開眼

ブックマーク登録ならびにポイント投票まことにありがとうございます。作者ますますの励みとさせていただきます。

「リュウ先生、お疲れさまじゃないでしょ!?」



 合流するなり、カエデさんの苦情だ。



「そうですよ! どうしてせっかく占領した陣地を捨てちゃったんですか!?」



 シャルローネさんまで。しかしその怒りはごもっともである。彼女たちはA陣地防衛のため、危険な囮役を買って出てくれていたのだから。



「いやなに、いろいろと経緯があってね。結論を明け透けに申し上げるならば、アレだよ……」



 私は背もたれが必要以上に高い椅子に腰かけた鬼将軍を指差す。



「アレの思いつきさ……」

「ああ、アレね……」



 カエデさんはゲンナリ。

「アレじゃあしょうがないかぁ……」



 シャルローネさんもしなびていた。



「しかしいま現在はこのB陣地を占領。そして駒の減った西軍はいまだ陣地占領には至っていない。やっぱり二人の頑張りのおかげさ」

「で、状況は?」


 カエデさんはマップを開いた。現在の状況は敵の新兵格、熟練格を蹴散らしてB陣地を占領。敵の残党は後続の豪傑格と合流して、今まさに攻撃を再開しようとしているところ。我が東軍もここを決戦の地とばかり、新兵格、熟練格を中心に必要以上の軍勢力が集結しているところ。



「せっかく敵の勢力が減ってるんだから、他の陣地を落として陽動してくれればいいのに」



 カエデさんのボヤきはもっともだ。私もそう思う。しかしそれができないのがゲームというものなのだろう。もしかして、簡単に囮作戦が成功したのも、そこに原因があるのかもしれない。



「あら? この青い点は何かしら?」



 カエデさんが気付いた。西軍豪傑格陣地付近に、単独で近づく青い点。



「本店指示で敵陣に潜り込んだ忍者らしい」

「へぇ〜〜面白いことするわね、本店参謀も。西軍はどんな反応するかしら?」


「ん〜〜それがねぇ、カエデちゃん。こうした群衆ゲームのプレイヤーは、こういった良手を『なにやりたいんだ、コイツ』なんて黙殺する傾向にあるんだよね〜〜」

「ああ、そうよね……」



 カエデさん、またまたゲンナリ。しかしこうしたゲリラ作戦を黙殺するとは、本当にイマドキの子はゲームに慣れている割にはゲームの勝ち方を知らないとでも言おうか。まあ、ゲリラ作戦というのは本隊とゲリラが共同した作戦をおこなってこそのものであるので、それができない現状は悪手とも言えるのだが。


 なにしろ陸奥屋一党が動けば、東軍全体が動いてしまう。せっかく占領した陣地を、またまた手放すことになるのだ。


 ん? まさか……。ウチの大将、それを狙ってはいるまいな? 東軍全体の突撃を、忍者の陽動に合わせて行い、全面対決に持ち込むとか……。そんなことになれば、混沌でしかなくなるぞ。



「とりあえずシャルローネ、前線にでましょう! もうじき敵が押し寄せてくるわ!」

「そだね、じゃあそろそろシャルローネさんも、イベント用の新技を披露しちゃおっかな♪」



 どうか反則判定されませんように……。ちょっとだけ祈るような思いであった。

 ということで、いよいよ東西両軍の激突だ! 数で押してくる敵に、私はこのとき少し不満を感じていた。敵を撤退に追い込むには、どうしても打撃が二回必要なことである。


 一回目の打撃で防具を剥ぎ取り、二回目の打撃でようやくキルを取る。敵の数を減らすのに、どうしても手間がかかってしまうのだ。その隙にせっかく防具を剥ぎ取った敵に逃走されるというのが、これまでの展開。


 しかしシャルローネさんの新技に、新たな光明を見出すことになる。



「さあ、これが私の新技! 豪快足払い!」



 シャルローネさんはメイスを可能な限り長く持ち、可能な限り低くなぎ払う。足元をさらわれた西軍兵士は、バタバタとひっくり返った。しかし、ダメージは少ない。払われたスネの防具にはカスダメ、むしろ転倒して打った背中でダメージを負っている。そうだ、投げ技は防具の有無に関わらず、体力ゲージを大きく削るのだった。


 そうした技が、ある! 柳心無双流の中にも、存在する! そして私の得物は鋭利な刀などではなく、鈍い木刀なのだ。

 敵の胸に木刀で突きを入れる。いや、突きなどという立派な技ではない。鎧に触れて押し込むような鈍い突きだ。そしてようやく鎧の内側が敵の胸に触れたところで、力強く突く!


 敵兵のゲージが大きく削れた。オマケの足払いで敵を宙に浮かし、投げ技判定を待つ。敵兵はこの一撃で撤退した。打てば防具を破壊してオシマイ。しかし押し込んでから突けば防具を押し込まれてからの突き技になるので、投げ技と同じダメージを被ることになる。こうした鎧を押し込んでから向こう三寸を突く技は、柔の当身技『虎徹』という名で存在した。



「これは盲点だったな」



 私の一発キルを見た士郎先生が笑う。そして兜を押し込んでから手の内を決める、という一撃で敵兵を撤退に追い込んで見せた。足払いも無く、突き技でもない技一発で、見事ワンショット・ワンキルを成功させたのだ。


 これならばもう、ふたりは上様と山田浅右衛門である。『上様大殺陣、大活躍』のテーマが脳内再生され、私たちはバッタバタと一発キルを取りまくった。



「ちょ、両先生方……」

「なにそれ!? なんで一発キルが取れちゃうの!?」

「はっはっはっ、木刀を使った投げ技だよ!」


「投げ技!? 投げてない投げてない! 木刀でシバいてるだけですから!!」

「シャルローネさんの新技を見て思いついたのさ!」

「へ!? 私!? してないしてない! なんにもしてない!!」




 防具はカスダメ、中身はキル。ならば普通のプレイヤーにも可能な技ではなかろうか?

そう思われる方もいらっしゃろう。しかしこの技は、敵の防具を押し込んでから「手の内を決める」ができなければ成立しないのだ。


 そもそも手の内を知らない者が、偶然とかたまたまでできる技ではない。得物を用いて「投げ技」と同じ効果を出さければならない技なのである。理屈がわかったところで、実現可能な技ではないのだ。

 そしてこの技のおかげで、私たちの眼の前から敵兵が消滅する時間がずいぶんと長くなったのである。これはもう……。



「ふむ、両先生の火力が上がったな……」



 鬼将軍の鶴の一声、発動である。



「陸奥屋一党、これより単身敵地に潜入しているいずみ君を援護すべく、出撃するぞ!」



 混沌の幕を開ける一声であった。

 陸奥屋一党が出る。ということは東軍下級プレイヤーも出る、を意味していた。まったくそのような意図は無かったのだが、『民族大移動』とでもいうべく、下級プレイヤーたちが勝手に付いてくるのである。


 そして彼らは、西軍豪傑格のいい餌食となって消えた。わざわざ敵陣深くで撤退し、遠い本丸で復活。えっちらおっちら駆けて来ては、道中で討ち取られるのであった。



「リュウ先生?」



 ポツリとカエデさんがもらす。



「このイベントの極意って、いかに本丸に近い場所で撤退するか? そんな気がするんですけど、間違いでしょうか?」



 なるほど、いまは敵陣深く食い込んで、豪傑格が守る陣地の前である。敵の本丸が近いせいか、撤退から復活のサイクルが非常に短く感じられる。



「それは一理あるな。ならばそれを逆手に取った囮作戦がまたまた有効になる」

「カエデーーっ! 敵がウジャウジャ湧いてでてくるぞーー! 少し味方の本陣まで引っ張ってってくれーー!」



 トヨムも悲鳴をあげている。



「いま行きます、小隊長! もう少し持ちこたえてください!」



 ということで、カエデさんの囮作戦。もう何回目になるだろうか? しかしそれでも面白いくらいに釣れてくれるのだからたまらない。



「ヘーイ! そこのたこ焼きとお好み焼きくらいしか自慢の種が無い西軍諸君! 真っ黒なお出しでいただく蕎麦なんていかがかな!?」

 作者注)これは登場人物カエデがホザいていることであり、作者の本意ではありません。


 釣れた。カエデさんの一言は西軍の関西魂に火をつけたようである。というかこのゲーム、東西の振り分けは出身地や居住区域ではあるまいに。しかし一部の大阪人を怒らせたようであり、それに考えも無くゾロゾロと後続しているようにも見える。


 災害時の避難で、案外起こり得る悲劇に似ている。誰かが西の避難口へ走り出したら、そちらで火の手が上がっていても追従してしまうという現象。故に災害時の避難誘導というのは重要になってくるのである。

 そしてカエデさんを追いかける者たちは、間違いなく火災では焼死してしまうだろう。事実、彼らは東軍豪傑格や英雄格の前に引きずり出され、全滅することとなった。



「トヨム、忍者の位置は把握しているか!?」

「大体ならね!」

「今から行って忍者に加勢してやれ! 味方がいなくて寂しがってるぞ!」

「リュウ先生、それならキョウとフィー先生を派遣した! 抜かりは無いぜ!」



 ずいぶんと手回しのいいことだ。ならば私たちは、このまま一番左端の豪傑格陣地を攻め落とそうじゃないか。



「そうだろ、トヨム?」

「そうだね、旦那。よ〜〜し、アタイ先頭、みんな後に続けーーっ!」



 すぐに呼応したのはセキトリ、続いてシャルローネさんとマミさん。私は若者たちを取り囲もうとする敵を、『奥伝技・虎徹』の打ちで撤退させまくる。鬼組もダイスケ君とユキさんが前に出る。それをフォローするのは、鬼の神党流士郎先生である。


 私としては祈りたい要素がひとつだけあった。どうか私たちが西軍陣地を占領する前に、西軍の気の利いた誰かが、「今のうちに東軍陣地を占領しちゃおうぜ!」などと言い出さないように、という祈りだ。

 すでに私たちは西軍A陣地を占領することでビッグポイントを上げていた。


 しかし西軍白銀輝夜、チーム『情熱の嵐』、『迷走戦隊マヨウンジャー』などが東軍B陣地を占領してくれていたので、その差はわずか。とりあえず西軍B陣地を占領して引き離したが、ここで追いつかれたり追い越されるのは得策ではない。


 しかし嫌なことほど現実に起こってしまうものである。件の『情熱の嵐』、そして『迷走戦隊マヨウンジャー』が白銀輝夜と三条葵を押して、東軍A陣地を占領してしまったのである。


 気を良くして集結する西軍勢力。もはやA陣地は私たち抜きでは落とすことができないほど、敵があふれ返ってしまった。そこに東軍勢力が引きつけられる。つまり、豪傑格が守る陣地へ攻め込んだ陸奥屋一党に、援軍は来ない。


 忍者、キョウちゃん♡、フィー先生が陣地を背後から痛めつける。陸奥屋一党本隊も、前面から押しに押した。どうにかこうにか多大な犠牲を払って、私たちは陣地を占領した。しかしポイント差はどれくらい詰められたか? よもや逆転などされていまいな。というか、占領したら今度は防衛戦だ。



 押し寄せてくる敵軍、その回転は早い。吶喊組、抜刀組に犠牲者が出た。これらの敵兵は、カエデさんが釣り上げて東軍本陣に仕留めさせた兵隊だ。どうにもこうにも、陸奥屋一党とんだチンパンプレイであった。


今回のリュウ先生新技開眼は、実在友人『出雲鏡花』と協議した上で開発、寿アレンジ全開の技です。すべての責任は作者寿にありますのでヘイ鏡花! などとは申しませんように。

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