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帰ってきた女将

では始めようじゃないか。

ホルスト作曲とかいうクラッシック音楽、これをBGMに陸奥屋一党抜刀隊。

チーム『まほろば』の乙女たちに挑戦である。


重厚なイントロと言ってよいのだろうか、地の底から湧き出るような楽曲に合わせて抜刀隊の前身。

しかしまほろばチームはすでに駆け足、先制点どころかファースト・キル、セカンド・キルを奪いまくっていた。

しかしそのようなことで抜刀隊は狼狽えない。


曲調がグッと盛り上がったところで、生き残りも復帰者も全軍突撃を開始した。

全滅、復帰、また全滅を繰り返す。

リアルな戦場ならば、死屍累々といった惨状が広がったことだろう。



「う〜〜ん、これは選曲が悪いですねぇ……」



私のとなりで唸るのは、カエデさんではない。

……アマレス姿の女の子……誰だっけ?



「あまりにも戦場戦場しすぎた曲だから、抜刀隊のみなさんは死地に駆け込みたがってます」



……見たことはある娘なんだが、誰だったかな?



「やはり戦争は人を狂わせるんですねぇ……」



思い出した、茶房『葵』店主の九条葵さんだ!!



「三条です、リュウ先生」

「や、失礼失礼。それで葵さん、なぜ君はここに?」



名前を間違えたバツの悪さから、私は必至に話をすり替える。



「最近全然クローズアップされないせいか、五人選抜からもれてしまいました」



別に六人チームの設定でも良かっただろうに。



「でも返って良かったです。久しぶりに登場できましたから」



泣かせる健気さではないか。



「とはいえリュウ先生、これはオモシロイ実験結果ですね。人はBGMひとつで狂戦士バーサーカーにもなれば、ドラゴンにもなれる。というか陸奥屋一党のみなさんって、こんなに単純バカなんでしょうか?」



忘れられていたという事実が彼女を歪ませたのか、葵さんの言葉はキビシイ。



「少なくとも『まほろば』のメンバーは、ここまで単純では……無い、とも言い切れないかな?」



ちょっと自信が無さそうだ試しに私と葵さんの周囲にだけ、『炎のファイター』を流してみる。

イノキ・ボンバイエで始まるあの曲だ。

そう、『イノキ・ボンバイエ』のコールが繰り返され、前奏が流れてくる。

そしてすべてを象徴する、『FIGHT!!』の連呼。


ちらりと葵さんを盗み見る。

伸びていた。、葵さんのアゴが長く伸びていた。

そして 超有名なメインに突入する。


た〜り〜ら〜〜た〜り〜り〜ら〜〜♪


葵さん、片ヒザを着く、なぜかその額からは鮮血が。

しかし燃える闘魂アントニオ葵は、『なんだバカヤロー!』『かかって来いコノヤロー!』と、いささかも闘志は衰えていない。

というか単純じゃん、葵さん。


じゃあ別の曲。

これはベースの音なのか?

延々と同じ曲調が続く。


 ブンブブンブブンブブンブブンブブンブブンブブンブ♪


ピンク・フロイドの名曲、『吹けよ風呼べよ嵐』である。

額の流血はそのままに、葵さん変わったーーっ!!

褐色肌に変わったーーっ!!


流れ落ちる鮮血、唇まで赤い糸が届くと、黒い呪術師は吐息でプッとそれをまき散らす。

憎悪と復讐心に染まって、見開かれたまなざし。

右手には凶器のフォーク。


テキサス・ブロンコ、西部の荒くれ男テリー・ファンクの左腕を鮮血に染めた、あのフォークである。

見ているね、見開いたまなざしは私に向けられてるね。

うん、私は血だるまにされる趣味は無いから、曲を変えようか。


これまでの曲が古臭いロックとか、とにかく過激を目指したものならば、この曲は新時代の先駆者だろう。

UWFのテーマだ。

さあ来い新時代、これまでの価値観とは違うものを我々は見せるのだ!!

だが、葵さんは素に戻っていた。



「先生、Uは違います……」



どうやら私は、踏んではいけない地雷を踏んでしまったようだ。

ま、それはそれとして。葵さんが思いの外ノリの良い単純おバカさんであることが証明されてしまった。

そこで私は単純路線の深堀りなどはせず、次なる挑戦者マヨウンジャーたちのためにBGMをチョイスする。


チャイコフスキー先生の『大序曲』というクラッシックが、最後のパートで「先生、ご家庭でなにか面白くないことでもあったんですか?」と訊きたくなるほど大暴れ、大爆発な曲だとはうかがっているが、この日本にもある。


世界に誇る天才、伊福部昭先生の手による一曲。

映画『地球防衛軍』の総攻撃シーンにもちいられたマーチである!!

ゆけ、マヨウンジャー! 地球の運命は君たちにかかっているんだ!

ミステリアンなんぞに乙女たちの貞操を許すんじゃない!!


その想いが通じたか、マヨウンジャーも燃える燃える。

特にチーム唯一の男性マミヤさん、想い人の貞操の危機を感じたかはるか格上の白銀輝夜相手に、一歩も退こうとはしない。

丁々発止の打ち合いを挑み、なんと手数で押し勝っているではないか。


それに呼応するかのように、小さな隼アキラ君。

女の子だけどアキラ君、薙刀使いの御門・ポニーテール・芙蓉と比良坂・ボブカット・瑠璃の二人を相手に敢然と立ち向かっている。

オデコ・丸出しーノなプリンセス、お姫さま装束のコリンちゃんもマミヤさんを手助けするため白銀輝夜に挑みかかっていた。


すごいね、音楽。

まさに人類が生み出した文化の極みだよ。

さあ、ノリノリにノセてやると、陸奥屋一党は力を発揮することが証明された。


その光景を見たのだろう、『情熱の嵐』所属の火の玉小僧・爆炎くんと、正義に活きる男ジョージ・ワンレッツの二人が目を輝かせて詰め寄ってきた。



「それで、リュウ先生。俺たちにはどんな曲を用意してくれたんだい?」

「とびきりの一曲を、ぜひ!!」



もう辛抱たまらんとばかり、ジョージは目をぎらつかせる。



「よし、ふたチーム十二人全員稽古場に上がりなさい。トヨム小隊は『まほろば』と組んでこれを迎撃!! それじゃあミュージック……スタートっ! ポチッとな」



カンフージョーーン♪


本来ならちゃんとイントロがあるのだが、今回は編集バージョンだ。

御存知、映画『酔拳』の日本版テーマソングである。

これがまた影響する。


若者たちが跳ぶ、跳ねる、転がる!

持てる身体能力のすべてを注ぎ込んでいるかのような動きで、『まほろば』とトヨム小隊の攻めをしのぎ切ってしまったではないか。

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